第20話 光の証明⑦
海はようやく静けさを取り戻し、朝焼けの中に浮かぶ船は戦いの痕跡をその身に刻んでいた。焦げた甲板、散乱する武器、そして傷ついた船員たち――それでも、船はまだ航路を進む力を持っていた。
ナディアは舵を握り、疲れ切った顔で水平線を見つめていた。彼女の背後では、船員たちが互いに助け合いながら、破損した箇所を修理している。
「お嬢さん、次はどこへ向かう?」ナディアは甲板の隅に座り込むアナスタシアに声をかけた。
アナスタシアは星図を広げたまま、その複雑な計算式をじっと見つめていた。その表情には疲労だけでなく、何かを悟ったような確信の色が浮かんでいる。
「次は…南へ向かいます。」アナスタシアは静かに答えた。「父が最後に記した星の位置を確認しなければならない。それが次の真実を示してくれるはずです。」
ナディアは眉をひそめた。「南だと?教会の船が待ち伏せしているかもしれないんだぞ。それでも行くのか?」
アナスタシアは星図を巻きながら、力強く頷いた。「たとえどんな危険があっても、父の研究を完成させなければなりません。この星図は、ただの地図じゃない。宇宙の真実を示すものです。」
ナディアはその言葉に少し笑い、肩をすくめた。「相変わらずお嬢さんは馬鹿正直だ。でも、いいさ。どうせ私も死ぬなら派手にやりたいと思ってたところだ。」
船員たちはその会話を聞き、驚きながらも小さく笑った。「この船で死ぬなら、それも悪くないかもな。」一人が冗談交じりに言い、他の者たちも笑みを浮かべた。
その夜、船は南へと針路を取り、再び静かな海を進み始めた。空には無数の星が広がり、静かに輝いている。
アナスタシアは甲板に座り、星図を膝に広げながら、その記録を一つひとつ確認していた。父が遺した計算式の中に、これまで気づかなかった新たな手がかりを発見したのだ。
「父さん…ここに書かれている星の位置は、地球の動きを示すだけじゃない。」アナスタシアは小さく呟いた。「これは、新しい観測地点を示している…?」
星図に記された位置をたどると、それは南の海に浮かぶ小さな島へと導いていた。
その頃、教会の本部ではエリアスが司教たちの前に立っていた。彼は冷静な声で報告を始める。
「異端者アナスタシアと彼女の仲間は、南へと向かっています。星図を守るため、さらなる観測を試みるつもりでしょう。」
司教の一人が険しい表情で尋ねた。「星図を回収することが最優先だ。彼女を野放しにしておけば、地動説が広まり、我々の秩序が崩れることになる。」
エリアスは静かに頷き、冷たい声で答えた。「彼女が次に向かう先は、南の孤島です。すでに追撃部隊を派遣しました。彼女たちがそこにたどり着く前に、星図を奪い取ります。」
その言葉には迷いも感情もなく、ただ目的を達成するという確固たる意志だけが感じられた。
船の上では、アナスタシアが星図を握りしめながら、静かに夜空を見上げていた。その瞳には、星々の輝きが映り込んでいる。
「星は嘘をつかない。」彼女は小さく呟いた。「でも、それを証明するためには、私がこの手で未来を掴まなければならない。」
ナディアが甲板に座り込み、彼女に声をかけた。「お嬢さん、何を考えてる?」
「私は父が追い求めた真実を、この手で完成させます。」アナスタシアは力強く答えた。「そして、教会の嘘を暴くために、どこまででも進むつもりです。」
ナディアはその言葉に微笑み、星空を見上げた。「まあいいさ。私もあんたの信じる道に付き合うよ。海はいつだって、真実を知りたがる奴を試す場所だからな。」
【次回予告】
南の海に浮かぶ孤島――そこに隠された星図の秘密とは?アナスタシアたちは教会の追撃を振り切り、新たな観測地点にたどり着けるのか。
次回、『孤島の星』。星々が語る真実が、ついにその全貌を現す。
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