第16話 光の証明③

入り江を覆う暗闇が徐々に薄れ始めていた。夜明けが近い。船員たちは疲労と緊張に押しつぶされそうになりながらも、船の周囲に配置についていた。ナディアは舵のそばに立ち、短剣を腰に差して辺りを見渡していた。


「奴らは夜明けを待つつもりだろうな。」ナディアは低く呟いた。「明るくなれば、ここを隠し通すのは無理だ。」


アナスタシアは星図を手に抱え、甲板の端に立っていた。その瞳は空を見上げ、星々が消えつつある空に焦りの色を浮かべている。


「まだだ…もう少しだけ時間がほしい。」彼女は自分に言い聞かせるように呟いた。「星図の計算が完成すれば、きっと…。」


森の中では、エリアスが兵士たちに指示を出していた。彼は空が明るくなり始めるのを確認し、冷静な口調で語りかける。


「夜明けまで待つ必要はない。薄明かりの中で十分だ。全員、船を包囲しろ。抵抗があれば容赦するな。」


兵士たちは頷き、一斉に動き出した。森の中の影が入り江へと流れ込むように進む。その中には、簡易な松明を手にした者もおり、船を焼き払う準備をしていた。


エリアスはその背後に立ち、静かに星図を奪う計画を思い描いていた。


「彼らの反抗は終わる。この星図が手に入れば、教会の秩序は揺るがない。」


船の上で、ナディアは森の奥から動き出す兵士たちの気配を察知していた。彼女は舵に手を置き、船員たちに目配せする。


「よし、奴らが攻め込んでくる前に動くぞ。」ナディアは低く言った。「船を動かす準備をしろ。静かにな。できるだけ長く気づかれないようにするんだ。」


船員たちは黙って頷き、手際よくロープを解き始めた。一方でアナスタシアが駆け寄り、不安げに尋ねる。


「船を動かすんですか?でも、もし見つかったら…。」


「ここにじっとしていても同じことだ。」ナディアは鋭く言い返した。「動かなければただの的だ。どうせ奴らが攻めてくるなら、せめてこちらから仕掛ける。」


アナスタシアは少し躊躇したが、ナディアの言葉に頷いた。「分かりました。星図を守るためなら…。」


船がゆっくりと入り江を離れ始めた時、森から突然、矢が飛んできた。それは甲板の柱に突き刺さり、大きな音を立てた。


「見つかった!」見張り台の船員が叫ぶ。


ナディアは舵を握り、叫んだ。「全速力で進め!奴らを引き離す!」


森の中から兵士たちが現れ、一斉に矢を放つ。船員たちは遮蔽物の後ろに身を隠しながら応戦し、何人かは火のついた矢を海に落とそうとしていた。


エリアスはゆっくりと船に近づきながら冷静に状況を見ていた。彼は剣を抜き、兵士たちに指示を飛ばす。


「ロープを使え。船に取り付け。甲板を制圧しろ。」


兵士たちはエリアスの指示に従い、ロープを船に投げ始めた。一部の者は小型のボートに乗り込み、直接船に取り付こうとしている。


ナディアはその動きを察知し、叫んだ。「甲板を守れ!奴らを近づけさせるな!」


船尾では、アナスタシアが星図を抱え、震える手でそれを見つめていた。彼女の頭の中には、父の言葉が何度も浮かんでいた。


「真実は隠せない。たとえ教会がそれを否定しようとしても、星はいつも語り続ける。」


彼女は星図を巻き直し、それをしっかりと抱きしめた。そして甲板の中央に向かい、ナディアに声をかけた。


「ナディアさん、私に時間をください!星図を安全な場所に隠します。それまで持ちこたえて!」


ナディアは短剣を振り払いながら応じた。「お前にかかってる。急げよ!」


船は波をかき分けて進むが、兵士たちは執拗に追いかけてくる。矢が飛び交い、火のついた松明が船の端に投げ込まれる。だが、ナディアたちは必死にそれを振り払っていた。


「船長!」船員の一人が叫ぶ。「奴ら、船に乗り込もうとしてます!」


ナディアは短剣を構え直し、叫んだ。「上等だ!こっちも全力で迎え撃つぞ!」


一方で、アナスタシアは星図を小さな防水布で包み、船の隅にある隠し場所に押し込んだ。彼女は息を整え、再び甲板に戻る。


「星図は隠しました!」アナスタシアが叫んだ。「これで大丈夫!」


兵士たちが船に取り付こうとする中、ナディアと船員たちが激しい応戦を続ける。矢が飛び交い、短剣の音が甲板に響く。エリアスはそれを静かに見つめながら、ついに剣を抜いて船に乗り込もうとする。


「星図はどこだ?」エリアスの冷たい声が響く。「渡せば命だけは助けてやる。」


アナスタシアはその声に振り返り、震えながらも真っ直ぐに彼を見た。「絶対に渡しません。」


エリアスは冷たく微笑み、ゆっくりと歩み寄る。「では、命を捨てる覚悟があるということだな?」


戦いはさらに激化し、船は絶体絶命の危機を迎える。星図を守り抜くため、ナディアとアナスタシアは最後の手段を取ることを決意する。夜明けの光の中で、星々はどのような真実を示すのか――物語は次のクライマックスへと進む。

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