第22話
家に帰ると、ルームランナーを終えたか冬場とは思えない薄着でプロテインドリンクを飲んでる秋川の姿があった。シャツ一枚と短パン、汗でスポブラが完全に透けており、男子の目にはたいへん毒だ。
「あのさ」
「……何?」
「あんた勉強出来んの?」
「少なくともあなたよりは出来ると思うわよ」
「でも補習受けてたじゃん」
「…………」
むすっとした様子の秋川が、「しょうがないでしょ」と小さく呟く。
「2学期の期末、何位だったの?」
「……受けてない」
「え?」
「インフルエンザに罹ってて、期末試験一つも受けてないの。だから補習」
「あー…………、じゃ、1学期は?」
「60位くらいかしら」
「えっ、かなり良いじゃん」
ウチの学校、1学年300人くらい居るんだけど。ちなみに私は総合271位。
「だから言ったじゃない、あなたよりは出来るって」
「こんな学校入ってるくらいだからてっきりお馬鹿なんだと……」
私は去年定員割れしててクチコミ評価悪くない公立高校を探したらここに辿り着いたんだけど、ひょっとして秋川は違ったのかな。それとも今年から勉強してそこまで成績が伸びたんだろうか。すげー。
「……馬鹿にしてる?」
「ごめん。…………勉強教えてくんない?」
「どうして?」
「いやさ、そろそろ真面目に勉強しないといけないなーと思いまして」
「今更……? もうすぐ2年になるのよ?」
「今更だけど……」
「……まぁ良いわ。苦手なのは何?」
「全部です」
「馬鹿にしてる?」
「ホントに全部苦手なの!」
「…………」
うわぁ、ドン引きされてらっしゃる。害虫かなんかを見る目だ。まぁ私も逆の立場だったら同じ反応しそうだけどさ。
「…………まぁ、恩もあるし、別に良いけど」
「おねがいしまーす。とりあえず2年のうちに偏差値50くらいまで上げたいんだけど」
目的の大学がそのくらいなのよね。ちなみに偏差値ってのが何なのかはよく分かってない。
「……待って」
「はいはーい」
「…………あなた、素で補習7教科なのよね」
「そうでーす」
「そのふざけた態度をやめて」
「ごめんなさい」
「偏差値50ってことは平均点くらいは取らないといけないんだけど」
「やっぱそうなんだ……」
予想的中だ。
「……赤点7教科よね」
「そうです」
「…………平均何点くらい取ってる?」
「えっ、計算してないけど……、20点くらい?」
そう答えると、秋川が俯き「無理でしょ……」と弱気な声を漏らす。ちなみに盛ってます。ホントはもっと低い。
「無理じゃない無理じゃない、あんたなら出来るわ」
「勉強するのは私じゃなくてあなたの方だけど!?」
「教えるの得意だったりしないの?」
「……人に勉強教えたことないわ」
「まぁ友達少なそうだしね」
クッソ睨まれた。
「恩があるし、恩があるから、やるにはやるけど、そこまで期待しないで」
二回言ったな。そんなに嫌なの?
「じゃあ、まず、……そうね、ひらがなの読み書きから――」
「馬鹿にしてんの!? そんくらい出来るわ!!」
「……そう、じゃあカタカナからね」
「あのさぁ!」
ツッコミを入れると、真顔でいた秋川が震えながらクスクスと笑い出す。冗談だったのかよ分かりづらいな。
「……せめて漢字からにして」
「小学校1年生用の漢字ドリルを探して来ればいいかしら。花って書ける?」
「……たぶんそれは書けるから、中学生くらいからにして」
「そうなの? ……なら私が揃えた教材で足りそうね」
秋川が席を立ち、荷物を置いてる部屋から持ってきたのは、結構な量の教科書やノートたち。こんなのよく取っといたわね。私の中学の教科書とか全部実家の段ボールよ。
――「覚悟してね」と小さく呟いた秋川の言葉の意味を知ったのは、それから数分後。
はい、調子に乗りました。
中学の間まったく学校に通ってなかった女は、中学の勉強範囲なんて全く分かりませんでした。私は小学生以下のゴミムシです……。
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