第21話
「ね、ひなみー」
3学期初日は授業などはないまま午前中で終わり、小腹が空いたと駅前のハンバーガーショップに愛梨と二人で入る。姫乃はバイトだそうだ。大変だなぁ。
「何?」
「秋川さんと普段何してんの?」
「何って……、いや別に何もしてないけど」
「一緒に暮らしてんじゃないの?」
「暮らしてるけど、愛梨だって弟と一緒に遊んだりしてないでしょ?」
「えっ遊ぶよ!? いつもスマブラとかスプラ一緒にしてるし」
「遊ぶんだ……」
そういえば私も実家に居た頃は弟とよく遊んでたわ。まぁスケート漬けの毎日だったから遊べるのは休みの日とか夜くらいだったけど。
ポテトをひょいひょと口の中に放り込みながら愛梨が弟の写真を見せてくれる。普通の真面目そうな色白少年だ。まだ小学生なんだっけ? こんな純朴そうな子の姉がドがつくほどのギャルだと性癖歪みそうね。
「今朝話してたからちょっと調べたんだけどさ、秋川さんってこれだよね?」
すっとカメラロールを横にスクロールすると、見覚えのある女二人の写真になる。全日本を観戦していた私と秋川だ。
しかし愛梨は、見せておきながら首を傾げる、
「……こんな子、隣のクラスに居たっけ?」
「えーっと、ほら、隣のクラスに呪いの日本人形みたいな女子居なかった?」
「居たっ!! 補習にも居たよね!?」
「あれが秋川」
「えっ、変わりすぎじゃね!?」
「元はこんなだったのよ。1年くらいほっといたみたいであんなのになってたけど」
「えぇー……」とドン引きした様子で返される。ギャルな愛梨にとっちゃあぁも自分の容姿の興味がない女子が信じられないのだろう。
何しても不細工ならともかく、秋川ってそうじゃないし。あいつはただ自分の外見と変化に伴う他人からの評価に興味がないだけなのだ。
「これ、メイクもひなみがしてんの?」
「え、うん」
「……やっぱ付き合ってんの?」
「付き合ってない。てかなんでそんな話になるの」
「えー、いやだって、お金貰ってるわけじゃないんでしょ?」
「うん」
「それなのにそこまでしてあげるの、『愛』くらいしかなくね……?」
「えっ、じゃあ愛梨があたしの爪弄ってんのも愛なの?」
「やそれは
せめて愛って答えてよ。愛梨によって結構デコられてんのよ私の爪も。人を刺し殺せそうな鋭利さではないけど、ジェルネイルでガッツリ固められてる。お米とか絶対に研げないわ。
「愛梨と一緒。あたしも人の頭弄ったり顔弄るの経験値になるしさ」
「あー、美容の大学行くんだよねー」
「そ。受かるかは分かんないけど、尊敬してるメイクさんが講師してるとこあってさ、そこ行きたいと思ってんだよね」
「……偏差値大丈夫なん?」
「…………ぶっちゃけかなりヤバめ」
愛梨みたいに高校卒業後は専門学校に行く予定なら別に高校なんて卒業出来るだけで良いんだけど、私は大学でじっくり勉強したいと思ってるから、あと2年のうちに学力を底上げしないと入学すら出来ないのだ。
そこまで偏差値高いとこなわけじゃないけど、今の私は中の下くらいの高校で5教科全部赤点取れるような女だからね。
小中学校にほとんど通わず、机に向かって勉強することを幼少期からせずに育っちゃったせいで、いざ勉強しようと思ってもすべての情報が右から左に抜けていってしまうのだ。勉強って全くせずに育った子が急に出来るようになるものじゃないのよね。
誰かと一緒に勉強したいと思ったことはあるけど、愛梨も姫乃も勉強とは無縁のタイプだし。まぁ勉強好きな子が私らと仲良くするわけないんだけど。
「秋川さんと一緒に勉強したら?」
「……あいつの学力、あたしと同レベルよ、たぶん」
「やばっ」
「不真面目なタイプじゃなさそうなんだけど……」
「でもそっか、補習受けてたもんねー」
「そういうことよ」
私とは違って秋川は割と真面目なタイプに見えるが、同じくらいの数補習受けてたあたり、学力は相当低い――はず。
いや分かんないな。補習の時は真面目に聞いてノートも取ってるように見えたし、あんなテンプレ真面目ちゃんタイプが授業中ぼーっとしてたり寝てたりするもんだろうか?
二人でいる時はスケートのことしか話さないから、そういえば勉強のことを話した記憶がない。今日にでも聞いてみよっと。
そこからも身のない話をしばらくして、愛梨の彼氏の愚痴を聞いて――、1時間くらいで店を出た。
そこから遊ぶでも良かったが、なんとなく解散の流れになったのでなんとなく解散した。姫乃と違って愛梨は割といつも暇してるから遊ぼうと思えばいつでも遊べるのよね。
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