第13話
「あっ、制服、脱いだら洗濯機入れといて」
「え?」
「明日焼肉臭のする服で補習行くつもり?」
「え、いや、それはそうだけど……、洗濯機に入れて良いものなの?」
「最新モデルの超高級洗濯機を舐めちゃ駄目よ。皺伸ばしまでしてくれるんだから」
「へ、へぇ……」
タクシーで家に帰ると、とりあえず服を脱ぎ捨てる。無煙ロースターじゃない普通の炭焼きだったから、服だけじゃなく身体中から焼肉臭がする。イブに空いてたのもやむなしだ。
着ていた服を洗濯機にぶちこみ、――して、後ろでフリーズしてる秋川を見て「うん?」と声を漏らす。
「聞いてた?」
「え、えぇ」
「制服、洗濯機」
「わ、分かってるわ」
「……何躊躇ってんの?」
して、顔をどんどん赤くしていく秋川が、小さく呟いた。
「ふ、服っ! 代わりの服を借りても良いかしら……?」
「…………あっ、そういうこと」
その段階で悩んでたのか、こいつ。
愛梨とか姫乃みたいな、私が自宅に泊めるような友達、もうそのへんにある服適当に着てるからすっかり忘れてた。
「その辺の棚に入ってるの、適当に着て良いわよ。下の方に寝間着っぽいの入ってるから」
「え、えぇ、……このへんの、棚、ね」
して、棚をゆっくり引き出した秋川は、「ひぁっ!?」と甲高い悲鳴を漏らす。
「そこは下着の棚。それじゃなくて、後ろのやつ」
「うしろ……、あ、あぁ、こっちね。大きすぎて壁の模様かと思ったわ」
「家具よ」
そういえば愛梨も同じ反応したことあったっけ。ビルトインタイプのクローゼットだから、壁紙と一体化してて一見そこにあるとは分からないのだ。
大きすぎてと言ったのもその通りで、天井まで収納部があって、幅も壁一面に広がっているからそこにクローゼットがあると知らなければ模様に見えてしまうというわけ。
「こっ、これ何!? クローゼット!?」
「そうだけど?」
「……このクローゼットだけで私の部屋くらいあるんだけど」
「同じサイズのが他の部屋にもあるわよ」
「どうなってるの!?」
「どうなってるんでしょうね」
ここは一人暮らしの女子高生が使うようなマンションではなく、世帯向け、それもかなり高級な部類のマンションだ。親がお金持ちじゃないと絶対住めないとこね。だからウォークインクローゼットも馬鹿みたいに広い。流石に他の部屋には大したもの入れてないけどね。
「んじゃ、先お風呂入ってるから、適当に暇潰してて」
「…………えぇ」
「冷蔵庫にあるジュースとかアイスとかは適当に食べてていいから……、何?」
秋川は、何か言いたげな顔である。
視線を泳がし、私の足先から頭の先まで見たと思えば顔を赤らめて急に視線を逸らしたり、かなり不審。確かにさっきから下着姿だけど、女同士でしょ。
「な、なんでもないわっ! ごゆっくり!」
そう言い残すと、服を引っ掴んで出て行った。なんなの、ホントに。
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