6話 親友との別れ
その日は、ホテルから会社に向かった。
職場では、芽衣がにやにやして近づいてきたの。
そして、ランチに誘われた。
「今日は、昨日と同じ服じゃない。お泊り? やっと、瑠華にもそういう人ができたんだ。今度、会わせてよ。4人で一緒にデートしようよ。」
「いえ、まだ、そういうことできる関係じゃないし。」
「恥ずかしがらないでさ。どういう人なの。」
「あの、最近、出会った人で、まだ、よく分からない。」
「それでもお泊りでしょう。瑠華、本当に気に入ったのね。よかったじゃん。」
「うん、なんか一緒に暮らせるイメージができて・・・。」
「いずれにしても、お祝いね。また、その人のこと聞かせてね。」
芽依は何も気づかずに、笑顔で私のことを見つめていた。
私がした罪を、これっぽっちも想像もしていないんだと思う。
芽衣を見てると、罪悪感でいっぱいだった。
でも、芽衣に彼は渡したくないという気持ちでいっぱい。
私と竜也のことを知らないなら、勝てるかも。
そんなことを考えて芽衣を見ていた。
芽衣の顔は、笑顔で溢れている。
私の幸せを心から願っているんだと思う。
私は、その顔をみて、親友をだまそうとしている。
本当に、私は汚れてしまった。
でも、私の体は竜也が欲しいと抑えられない。
そして、竜也と1夜を過ごしてしまった。
もう前に戻ることはできない。
どうしたら、彼を奪うことができるんだろう。
私の汚れた心は、そんなことを考え始めていた。
きっと、私の目は女狐のようだったんだと思う。
本当に自分の気持ちがわからない。
これまで男性も女性も経験して、穏やかに過ごせるものだと思っていた。
こんなに、男性に心が揺さぶられるなんて考えたこともなかった。
どうしちゃったんだろう。
もう気持ちを抑えられない。
芽衣から彼をどうやって奪うかということしか考えられない。
まず、芽衣が浮気をしたとすれば、どうだろう。
そして、嫌気をさした竜也が私と付き合う。
それはあり得るシナリオ。
そう考えたら、私の足は動き始めていた。
ホストクラブの前に。
ホストの時の経験から、上手く行きそうな気がしたから。
ホストに芽衣を追い落とす提案をしてみた。
ある女性を口説いてくれないかと。
20万円をホストの前に差し出した。
そしたら笑って、お金を差し返してきたの。
20万円なんて端金で、そんなことできないよと。
でも、別に、悪いことをしろというんじゃないのよ。
芽衣は裕福な家庭でお金持ち。
そのまま、あなたのお客にすればいいじゃない。
私からのお金は端金。
でも、お客にしてからお金儲けもできていい。
そう言うと、そうだねって乗り気になったみたい。
1週間後、夜道で芽衣が会社から駅に向かっていた。
ヤクザ風の男性2人が芽衣に絡んできたの。
人気の少ない地下道路で。
「お姉さん、遊ぼうよ。かわいいじゃない。」
「いえ、私には彼がいるし、無理です。
「そう言わないでさ。俺達は、お姉さんに彼がいてもいいよ。遊ぶだけなんだし。」
「嫌。私は行きます。」
そう言って去る芽衣の手を男性たちは掴んだ。
そして、ニヤニヤと壁に芽衣を押し付ける。
芽衣が抵抗しても、全く力が及ばない。
その時、あのホストが現れる。
サラリーマン風の服装で。
「君たち、嫌だと言っているじゃないか。」
「なに、カッコつけてるんだよ。俺達は、このお姉さんと話してるんだ。関係ない人は邪魔するなよ。」
ホストは、そんな脅しには屈せず、男性たちをボコボコにした。
それは演技なんだから、当然なんだけど。
「ありがとうございます。でも、もう止めて。これ以上やったら死んじゃう。」
「いいんだよ。こんな、世の中のゴミは。」
「だめ、警察につかまってしまうわ。もう行きましょう。」
「お前たちは助かったな。この女性にお礼を言うべきだ。じゃあ。」
ホストは、暴力とは打って変わって、紳士のように芽衣から去っていった。
ただ、せっかくだということで連絡先を聞いたうえで。
3日後、ホストは芽衣を誘った。
偶然、その近辺で出会ったので一緒に飲みに行こうと。
ドラマでよく見るパターンだけど、芽衣は信じたみたい。
芽衣は、助けられたことから断りにくかったらしい。
まあ、1回ぐらいならという気分だった。
それで、一緒に飲みに行ったんだって。
もちろん、私は、後ろから写真を撮っておいた。
そして、ホストは、お酒にレイプドラッグを入れたのかしら。
寝てしまった芽衣をホテルに連れ込んだ。
これも写真にばっちり撮ってもらった。
私は、匿名で、竜也に、この写真を送っておいたの。
「私、どうしよう。騙されたみたいで、男性にホテルに連れ込まれて、その写真を撮られて、竜也に送られちゃった。竜也、とっても怒って、別れるって。全く、そんな記憶なくて、たぶん、お酒に睡眠薬とか入れられたんだと思う。」
「え、男性とホテルで一夜を過ごしたの。彼がいるのに。」
「だって、全く記憶がないから薬で騙されたんだよ。」
「それは大変ね。でも、そこまでいくと、どうしょうもないんじゃない。だって、ホテルに彼女が男性と一緒に泊まったなんて聞いたら、彼氏なら誰でも怒るでしょう。」
「でも、私が騙されたのに。」
「もっと、慎重にすべきだったんだと思う。知らない男性に着いていくなんて、ありえないし。」
「瑠華、今日は冷たいんじゃない。なにかいい方法を一緒に考えてよ。」
「私が言いたいのは、もう、ここまで来るとダメだと思うということ。諦めるしかないわよ。」
「そんな。」
思ったより計画通りに進んだのね。
深刻そうな顔をしながら、心の中では笑いが込み上げていた。
私は、本当に心が醜い女性になってしまった。
そして、あの事件から2週間ぐらいたったと思う。
竜也と同棲生活を始めることにしたの。
竜也は、私のことを、いつも強く抱きしめてくれた。
本当に、幸せな時間。
このまま、ずっと、私のことを抱いていて欲しい。
こんなに本気で男性を好きになるなんて自分でもびっくり。
たぶん、この体の女性ホルモンがそうさせているんだと思う。
もう、竜也に抱きしめられたいという気持ちを抑えられない。
好きな男性に抱きしめられているって安心できる。
こんなに幸せな気持ちは、転生を繰り返してきたけど、初めてかも。
自分の醜さに吐き気を覚えつつも、安心に包まれる気持ちを行き来しながら。
自分がどこに向かっていくのか、自分でもわからない。
人間は、理性的な生き物じゃないことを改めて実感した。
多くの経験をしても、なにも学んでいない。
学んでも、すぐに忘れて、説明ができないことをしてしまう。
言い訳をしてるんじゃない。
わかってるけど、どうしても感情をコントロールできないの。
芽衣を苦しめると分かっていながら、竜也を求めてしまう。
ある晩、竜也と一緒に寝ていると、玄関が開く音がした。
なんだろうと思って起き上がると芽衣が呆然と立っていた。
「瑠華、どういうことなの? 竜也とどんな関係なの?」
「竜也が芽衣と別れて寂しいときに、私と一緒に飲みにいくようになって、意気投合して今は一緒に暮らしているの。芽衣が、あんなことするから、こうなっちゃったのよ。」
「だからといって、親友の男性とそんな関係にならないでしょう。竜也も、どうして、瑠華と一緒なのよ。もしかしたら、2人で私を陥れたの?」
「そんなことはない。お前が俺を裏切ったんじゃないか。」
「そんなことはない。あれは、私が騙されたのよ。全く記憶がないし。あれから1ヶ月しか経っていないでしょう。こんなに早く、同棲なんてするなんて、あり得ない。2人とも、私を騙していたのね。」
芽衣は、怒りが爆発したのだと思う。
テーブルの上にあるガラスのコップとか投げつける。
そして、包丁を取り出し、竜也の腕を切りつけた。
大騒ぎになってしまったの。
芽衣の目はつり上がり、口からは大きく罵る声があがっていた。
髪を振り乱している。
私が知っている穏やかで笑顔いっぱいの芽衣じゃなかったわ。
こんな姿に変えてしまったのは私だと心が傷ついた。
あんなに仲の良い、親友だったのに。
近隣の方から警察に連絡が行き、芽衣は連行されていった。
私たちも、事情聴取と言われて警察に連れて行かれた。
警察では、私は、芽衣は竜也の元カノだったと話したの。
でも、別の男性とホテルに行くところを写真に撮られたって。
そして、それが竜也にバレた。
だから別れてしまい、私たちは付き合い始めた。
そんな中、今夜、芽衣が怒鳴り込んできたと。
竜也の証言とも全く同じ。
芽衣もほとんど同じことを言っている。
芽衣は警察に留置され、私たちは、解放されたわ。
さっきまで心を痛めていたのは事実。
でも、心の中で笑っていた自分に再び驚いた。
これで敵はいなくなったと。
もう、私は竜也なしでは生きられない。
竜也の子供を産むの。
最初に出会った時に、そう思ったんだから。
竜也との仲を邪魔する人は許さない。
ただ、欲望が勝っただけ。
女友達よりも竜也が欲しかったという。
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