7話 スイレン

竜也の怪我の処置が終わった。

そして、警察から一緒に家に戻った。


竜也も元気はない。

反省していたんだと思う。

芽衣をあんな姿に追い詰めてしまったことを。


荒れた部屋を一緒に片付けた。

そして、竜也は、さすがに今日はと言った。

私はベットに、竜也はソファーで寝ることにした。


私は眠れずにベットで仰向けになり天井を見ていた。

その時だった。


黒い煙が私の身体を囲んでる。

気づくと手と足がロープで縛られている。

そして、4方向に引っ張られていた。


その先には2本の角が生えた黒い牛がいる。

牛は怒り、我を忘れて外に飛び出そうとしているのが見える。

その牛が、私をロープで引っ張っている。


私は、両手、両足を4方に開らかされた。

このままでは身体が引き裂かれてしまう。

痛いから、やめて。


でも、牛は一歩一歩、歩き、離れていく。

もう、私は、宙に浮いている。

4方からロープで引っ張られて。


起きて竜也。助けて竜也。

私の身体が引き裂かれてしまう。

竜也はソファーで眠りに落ちている。

私のことに気づいていない。


昔、こんな処刑方法があったわね。

こんなに痛いものだとは思わなかった。

しかも、意識はある。

一歩一歩、牛が離れていくたびに痛みが増える。


恐怖と痛みは、確実に増えていく。

それに抵抗することができない苦しみ。

もうやめて。


両肩は脱臼したのかしら。

もう両腕の骨は、身体から外れてた。

これ以上、引っ張れば、腕は身体から外れてしまう。

足も同じ。足の骨も骨盤から外れている。


両腕も、両足も身体からちぎれた。

そして、私は、ベットの上に落ちた。

手足がもげたところから、血は流れ出している。

ベットは血で溢れている。


もう私は、手足はちぎられ、豚のような姿で地面に落ちた。

顔は砂のうえにあり、口に砂が入ってくる。

でも、手も足もないから、何もできない。

ただ、顔を横にして息だけするのが精一杯だった。


そんな中でも、意識ははっきりとしている。

もう耐えられない。痛い。やめて。

そして、私の上から何かが落ちてきて、私を刺し殺した。

けんざんのような大きな針が。


こんな仕打ちはもう嫌。

どうして、こんな目に合わなければいけないの?

私は、口から血を吐き、息ができずに記憶を失っていった。


目が覚めると、竜也が心配そうに私を見つめていた。

横に寄り添って。

私はうなされ、汗だらけだったらしい。

悲鳴を上げたんだと言っていた。


私は、竜也に伝えたの。

あんな芽衣にしてしまったことは悔やんでいる。

だけど、もう昔には戻れない。

だから、ずっと一緒にいたいと。


竜也も、同じ考えだと言って、私のベットに入ってきた。

そして、いつものように強く抱きしめてくれたの。

私たちは、罪の共犯者。

心の中ではより強く結びついたんだと思う。


朝、竜也の腕の中で目が覚めた。

昨晩とは雰囲気が全く違う、爽やかな朝だった。


土曜日だし、一緒に水元公園に行くことにしたの。

竜也がサンドイッチとかを作ってくれた。

私はレジャーシートを用意する。


公園では、もうすぐしたら暑くなるのだと思う。

でも、今日は、まだ心地よく過ごせる気候だった。

私たちは、大きな川に沿ってゆっくりと歩いた。


二人には昨晩の芽衣の歪んだ顔は忘れられなかった。

でも、明るい周りの風景が目に入る。

子供連れで楽しく遊んでいる家族がいる。

そんな風景をみて、心はいくぶんか和らいでいた。


川ではスイレンの花が咲いていた。

私は、もう汚れきっている。

私の心からも、スイレンのような美しい花が咲くのかしら。


竜也との子供は、美しく育つのかしら。

私たちの汚れにもかかわらず。

そんなことを考えながら歩いていたの。


公園の広場で、私はレジャーシートを敷いた。

竜也が作ったサンドイッチを食べようと。

公園に来てから、竜也とは一言も話していない。

こんな、陽の光に溢れた場所にいるのに。


でも、暖かい。眩しい。

罪悪感を、すべて流し消してくれそう。

竜也も同じだったんだと思う。

ご飯を食べて、私に微笑みかけてくれた。

そして、私は、竜也と腕組みをして帰ることにした。


あの事件で、芽衣は警察に勾留された。

殺人未遂として。

それが原因で会社からは懲戒解雇の処分を受けたの。

そんな芽衣は会社を去っていった。


最後に退社するときの芽衣の顔が忘れられない。

昔は、あんなに笑顔に溢れていたのに。

私のことを鬼のような形相で睨みつけていた。


私は、人を陥れ、親友の彼を奪い取ったの。

そして、親友を会社から追い出してしまった。

けだもののような存在になってしまった。

でも、その時は、それ程、深刻には受け止めていなかった。


そして、竜也との同棲生活は続き、プロポーズもされた。

竜也のご両親へのご挨拶にまでたどり着くことができたの。

そんなに簡単に幸せが手に入るなんてないことに気づかずに。

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