4話 見えない何か
痛い。やめて。
湯気が立ち込める中、いきなり後ろから肩を押された。
その勢いで、顔から鏡に突っ込んでしまった。
振り返ったけど、このシャワールームには誰もいない。
最初は、後ろに気配を感じて鳥肌が立ったけど誰もいない。
でも、湯煙の中で、人影のような輪郭が見えたような気もする。
このことが、私が、誰にも言えないことの2つ目。
よく、こんな恐怖体験に出会うということ。
自殺したことに何か関係があるのかしら。
翌日、部屋干ししていた洗濯物を取り込んでいる時だった。
突然、真っ暗になった。停電とは違う。
月明かりとか、窓から薄明かりとかは漏れてない。
漆黒で、光が全てどこかに吸い込まれているみたい。
その直後、急に、右肩が何か強い力で壁に押さえつけられた。
左肩も強い力で押されている。
両肩は、悲鳴をあげるほど強い力で押し付けられていた。
骨が砕けちゃう。本当に痛い。
そんなに私が悪いなら、もう終わらせてよ。
転生させ、人生を続けさせているのは、あなたなんでしょう。
人の息遣いや体温とかは何も感じることはない。
単に肩だけが強く押さえ付けられていているだけ。
あまりに強い力で押さえつけられた。
恐怖で体を動かせない。
首を手のようなものでつかまれ、気が遠のいていった。
気がついたのは1分後ぐらいだと思う。
だけど、ずっと気を失っていたように感じた。
これは、気のせいじゃない。
首を絞められた跡もある。
翌日には、肩とかにあざもできていた。
その晩、私は、追いかけられる夢を見た。
線路下の細いトンネルで後ろから影が迫ってくる。
走って逃げる。
でも、どんなに走っても、ここから抜け出せない。
何か、黒く湿ったものが足にまとわりつく。
急に動けなくなった。
恐怖のあまり息ができない。
私は、汗だくで目を覚ましたの。なんだったんだろう。
その時、窓のカーテンが揺れた。
あれ、窓を開けて寝てたんだっけ?
誰か部屋に入ってくるかもと怯えていた。
だから、窓を開けっぱなしで寝るはずがない。
部屋を見渡しても誰もいない。
でも、ふと気づいた。
足首にロープで縛ったような跡があった。
このような恐怖体験は度々起きていた。
あまりに頻繁に起こる出来事。
だから、私は、日常のこととして受け止めている。
今は、芽衣がいる。
だから、こんな恐怖体験も忘れることができる。
そう、1人で孤独な時間ばかりだったら暗くなる。
もしかしたら、明るく振る舞えば、こんな恐怖からは逃れられるんじゃないかしら。
前の人生では、あれだけ短期間に気持ちが変化した。
だから、短期間で明るくなることもできるはず。
私は、みんなと明るく楽しく生きたい。
他人を押しのけてなんていう人生は歩みたくない。
平凡でもいいから、笑顔で穏やかに生きたい。
この人生で、そんな時間をがんばって作っていこう。
嫌なことを仕掛けてくる人は、頭の中から消せばいい。
そう、スワイプをして私の人生から消してしまえばいい。
無理して、全員と付き合う必要はないの。
仲がいい人とだけ、他愛もない会話でお互いに笑顔にする。
目の前だけでいい、ささやかな幸せの空間を作る。
それだけでいいの。
今朝は、気分転換に外を散歩してみることにした。
外に出てみると、いつの間にか春らしい景色。
小川の横では、スイセンが咲いてる。
道端にはアセビも咲いている。
時折、風が吹く。
私の長い髪の毛と、白いレースのスカートがゆれる。
遊歩道で木々の枝から漏れる陽の光を見上げた。
暖かさに包まれる。
わずかな時間だけかもしれない。
でも、心落ち着くひとときを味わっていた。
ずっと、こんな穏やかな日が続けばいいのに。
芽衣と笑顔で付き合えるから、そう思えるのね。
本当に、芽衣のおかげなんだと思う。
芽衣は、これからもずっと大切にしていくね。
だから、芽衣もずっと私の親友でいて欲しい。
でも、そんな日は長く続かなかった。
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