3話 女友達

今日は、就職活動で合格した会社の入社式。

スーツ姿で、私は、社長の訓示を受けていたの。


外では定番の桜が一面を覆っている。

寒さが緩み始め、草木が一斉に息吹き始める。

本当に心が華やぐ。

これから声明が溢れる時間が訪れる。


大学の時は、途中からの生活で仲がいい人は作れなかった。

でも、この新しい環境なら、人間関係を作り変えられる。

心機一転できる、この機会に大きな期待を持っていたの。


もう人生には疲れていたの。

でも、生きている以上、前に進んで行かなければならない。

だから、心にムチを打って前に進む。


そのなかで、心を支えてくれる人が欲しかった。

私に共感し、一緒に笑える人との時間が欲しかった。


特に、女性の友達を作りたい。

いじめられて怖い思いをした男性はもういい。

女性にも嫌な思いもしたけど、誰もが悪人ではないはず。

優しい人がきっといる。


新入社員数は300人で、かなり広い会場だったから少し寒かった。

1時間ぐらいの入社式が終わると、研修センターに移動になる。

そして、2ヶ月の研修になった。


研修センターでは、もう学生じゃないと言われたわ。

でも、新入社員は、まだまだ学生気分から抜けてなかったと思う。

1日目の研修が終わり、学生ののりで渋谷で飲もうとなったの。

女性5人、男性5人の10人が渋谷で。


少しシックなレンガ造りのイタリアンレストラン。

周りは、大学生や若い社会人たちが騒いでいる。

おしゃれな雰囲気ではないので、カップルとかはいない。

私は、ラザニアとグレープフルーツサワーを頼んだ。


「一ノ瀬さん、しばらく一緒に研修だね。どこに配属になりたいとかあるの?」

「よろしくね。わたしは、世の中に役立つサービスを作って社会に貢献したいかな。だから公共事業部に行きたい。」

「僕は、法人事業部で、身近な小売業界のシステムを作りたいかな。お互いに、どうなるか楽しみだね。まあ、飲もうよ。」


木内さんが、さっきから積極的に迫ってきてる。

無視するのも角が立つし、適当に話題を変えたりとか面倒。

あなたなんかに興味はないのにってことに気づいて欲しい。


内定式から見ていて素敵だと思っていた女性がいたの。

この飲み会に来たのは、その女性と話したかったから。

木内さんとかだけだったら、最初から参加していないし。


その女性は、遠くから見ていると、周りの人に誠実で清楚。

それは、会話の内容からもにじみ出ていた。

相手を貶めたり、陰で悪口を言ったりするような素振りは全くない。


直接、話したことはないから、まだ分からない部分があると思う。

だから、その女性を男性たちが飲みに誘っているのを見て思ったの。

この会に参加して、その女性と一緒に話そうと。


どちらかというとガーリーな感じ。

でも、嫌味はない。

可愛らしくも、言うときはちゃんと話すという感じかしら。


小柄な体からは、ハツラツとした力も感じた。

瞳からは、どんな人も受け入れるという社交性も溢れている。

口元からは、上品で知的な声が穏やかに発せられる。


私は、そんな彼女をみて、心地よさを感じていた。

なんか、一緒にいて、落ち着くというか、懐かしさも感じていた。

彼女も、私に親近感を持ってくれているように感じた。


木内さんは、私が男性の誰かに興味があって来たと勘違いしたかも。

そんなことは気にせず、私は、さっそく、その女性に話しかけてみた。


「橘さん、これからよろしくね。私のこと瑠華と呼んでね。」

「じゃあ、私は、芽衣と呼んで。どこの所属に希望出してるの?」

「私は、社会の役に立ちたいから、公共事業部かな。」

「私も同じ。一緒の部署になれるといいね。」

「芽衣と一緒になれると嬉しい。」

「お二人さん、僕と一緒に小売業界のシステムをやらない。」 


木内さんはうるさい。

芽衣とは私が話しているのよ。


「トイレで噂話ばかりしている女性って嫌よね。そういう時って、だいたい悪口だし。この会社は、そんなことは少ないと聞いているけど、本当はどうなのかしら。」

「本当に、そういうの嫌よね。欧米なんかではトイレを男女共有にして、そんな恥じらいのないことを防いでるとか聞いたこともあるけど、そうするのもいいかもね。」

「それもありね。ところで、男性の前だけ声が高くなって、かいがいしく男性の世話をするけど、女性の前だと態度が悪いという女性も嫌い。」

「そういう人いるわよね。本当に見苦しいというか、そんなことしなくて自然に振舞って、それで好きになってくれる人と付き合う方が楽なのにね。」

「本当に、そう思う。」


しばらく、私たちは、大笑いしながら2人で盛り上がっていた。

嫌な女性についてとか。


2ヶ月の研修が終わり、芽衣とは同じ部門への配属になった。

木内さんは、希望どおり小売業界を担当する部門の配属。

ほとんど接点がない部門だったから朗報だったわ。


芽衣は、その後も親しくしていた。

そして、知れば知るほど、とても素直で優しくて素敵な女性だと思った。

その場ではいいことを言いながら、全く違うことを考えている女性とは大違い。


芽衣は、付き合ってみると、裏表がない。

私のことが悪ければ、悪いと言ってくれる。

いつも、暖かく私のことをみて、アドバイスもしてくれる。


楽しいときは、一緒に楽しむ。

悲しいときは一緒に悲しんでくれる。

私も、この気持ちに応えたかった。


だから、芽衣には、正面から付き合っていた。

親友と言ってもいいと思う。


休日、一緒にショッピングをしたり、旅行とかもしたわ。

温泉に入りながら、悩み相談とかをした。


お互い、励まし合ったりもした。

そして、いつも2人には笑いが溢れていたの。


一緒に渋谷にでかけて、このイヤリングかわいいねなんて。

お互いの顔をみて笑いあう。

お店をめぐりながら穏やかな時間を過ごす。


カフェとかで笑いながら夕食を一緒にとった。

そんな日が続いたの。


こんな穏やかな時間があるなんて。

久しぶりの感覚。

ずっと、このままの時間が続いてほしい。


本当に、芽衣は私にとってなくてはならない人だった。

永遠に親友でいたいと思ってた。

本当に心を許せた女性は芽衣だけだった。


私は、この芽衣との穏やかな時間を失いたくない。

だから、転生を続けているとか自殺したことがあるとかは言えない。

嫌われてしまうもの。


でも、そんなことを超越することが日々、私には起こっていたの。

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