2話 女性としての再出発

私には、誰にも言えないことが3つある。


私は何度も転生して、繰り返し、別人の人生を生きている。

2回も自殺をした。

これが誰にも言えないことの1つ。


そして今は、女子大生として生きている。

今は1980年。おじさんとして大学生をしていたときと同じ時代。

転生から3年が過ぎた。

女子大生としての経験もあるから、そんなに違和感はない。


男子高校生から急に女子大生になった。

親も友人も知らない人ばかりという環境から再出発するのは、何度やっても難しい。

いつも、周りについていけずに、感じが悪くなったとか言われてきた。

誘われることも少なかったんだけど、それ以上に1人の時間が増えていった。


いったん仲が悪くなると、トイレとかで私の悪口が言われている。

正面から、あなたなんて消えればいいじゃないとかも言われたわ。


女性の会話は、男性の会話より極端なのよね。

相手が傷つかないように、核心の周辺を漂う会話。

逆に、上から目線でずけずけと入り込んでくる会話。

親友がいなかったからかもしれないわね。


男性は怖いけど、女性も嫌な生き物。

男性がいなくて、恥じらいなんて考えなくていい女子大。

それが悪かったのかもしれない。


何回も転生してるけど、いつも私の環境は変わらない。

僅かな例外の時間はあるけど、人から嫌われ、いじめられる運命にあるみたい。

だから、大抵、1人で過ごしていた。


もしかしたら大学1年の時に、何かやらかしたのかもしれない。

だから、嫌われているのかもしれない。


もう1人が楽だし、人との煩わしさより寂しさのほうがいい。

心が穏やかでいられる。

優しい気持ちのままでいられる。


よく家の近くにある川沿いの遊歩道を1人で歩いたり。

そこにあるベンチに座り、1人で本を読んでたりして。


横には梅の花が健気に咲いている。

周りには、まだ寒くてお花とかはない。

そんな中で、精一杯生きようとしている梅は美しいと思う。


梅の木の枝をみると細いけど、力強くも感じる。

この寒さに負けないようにと。

私も、心が折れそうになるけど、前に進まないと。


さすがに、自殺をしても逃げられないことは理解した。

自殺によって、何も解決できないことを。

また、自殺することで、周りを悲しませてきちゃったんだと思う。


遊歩道から見える公園に目をやる。

子どもたちが友達と笑い声をあげて遊んでる。

どうやったら、あんなにみんなで無邪気に遊べるのかな。

もう忘れちゃった。


私の前を通り過ぎた2人は、手をつなぎながら歩く。

恥ずかしそうに下を向き、時々お互いの顔を見つめ合っている。

とても楽しそう。

でも、私には、眩しく光る木漏れ日だけが、心を温めてくれる唯一の友達。


ベンチの脇に咲く梅の木の根元で、2頭の子犬がじゃれる。

多分、あれはオスとメスかな。

生きる時間を謳歌しているのね。


この人生でも、近づいてきた男性は何人かいた。

でも、どの男性も、結局、私の身体が目当て。

私の心なんて見ていなかった。


みんな私に冷たい。結局、心は1人だった。

それなら、やっぱり1人でいる方が楽。

だれも、私の心を乱すことがないこの時間が私にあっている。


3年が経ったけど、友達はまだいない。

でも、普通の女子大生としての生活はできていたと思う。

どうして転生を繰り返しているのか、未だに分からないけど。

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