6話 風俗
女性の体だけで売れると思っていたが、その考えは安易だった。
男性なんて、入れて出せば、容姿や体型なんて関係ない。
そう考えていたが、そんなに簡単じゃなかった。
気づかれないように昔のツテをたどり、なんとか雇先を見つけた。
ただ、給料がいいキャバクラとかは全滅だった。
男性はかわいい女性の顔を見に来るんだって。
それは否定しない。
だから、いろいろなメイクを必死で試してみた。
でも、この顔には限界があった。
化粧品売り場でアドバイスをもらう。
これを繰り返しても、普通の顔にもなれない。
胸にもパットをしてみた。
でも、ぱかぱかという感じで馴染まない。
結局、バレてもいいからパットは入れることにした。
ただ、幼児体型はごまかせない。
1ランク上に行こうと思ったけど、限界があった。
女性は化粧とかで、男性より簡単にレベルアップできると思ったんだが。
結構、がんばってみたんだけどな。
どうがんばってもキャバクラで雇ってもらえなかった。
結局、働けたのは、男性と寝る仕事だけ。
ベニア板で仕切られたお店の1室で。
料金も安いし、設備はできるだけ安く作られていた。
だから、シャワー室も共用で、部屋にはない。
お客も時間がもったいないからと、シャワーで時間は使わないし。
使いたければ、終わってから、共用シャワールームでどうぞって。
しかも、もらえるお金は少ない。
お店の1室で男性を待ち、男性と寝る。
昔の僕だったら、女性の横に座るだけで大金を稼げたのに。
朝から晩までこの部屋から出ることはほとんどない。
お客がいない時は、スマホで動画を見ていても文句は言われない。
それでも、15時過ぎにお店に来て、深夜まで1日に5人は相手をする。
性交の後に、シャワー時間ということで15分の休憩がある。
幼児体型ということで、女子高生の制服で寝る仕事とされた。
自分でも女子高生は無理じゃないかとは思うが。
学生服を着ると、逆に老けて見える。
簡易のクローゼットには、コスプレ用の制服とかも置いてあった。
だから、ナースとかポリスの服を着させられることもあった。
でも、バストがないって人気はなく、女子高生の制服の時が多い。
バストがなくて、ナースとかは、そそられないかららしい。
すごい昔にFカップだったことが懐かしい。
部屋には女子高生ということでぬいぐるみとかが置いてある。
スカートの下から覗かれたり、写真を撮られたり。
顔は誰も見たくないということだろう。
壁はベニア板で作られ、横の部屋からは女性の喘ぎ声が漏れる。
僕の声も聞こえているんだろう。
1回45分で1万5千円、部屋の質はそんなもんかもしれない。
部屋は暗めで、顔が気にならないよう店は配慮したらしい。
すっぴんで済むのは楽だったかもしれない。
髪の毛は、面倒だったからボブに変えた。
「お嬢さん、あそこ、真っ黒だけど、かなりやってるんじゃないの。本当に高校生なの?」
こんなやつから、そんなこと言われるなんて屈辱だ。
ただ、今の僕には、言い返すことができない。
容姿が貧弱だし、お金もいる。
「高校生だもん。そんなこと言われても。」
「なに、泣いてるんだよ。暗いんだよ。帰る。」
「やったんだから、お金は置いていって。」
お金を捨てるように投げて出ていった。
そんなに、嫌われる姿なのだろうか。
心が清らかだったこの女性の体を汚しているようで心が病んだ。
今の自分をみて、この女性は何を思うだろうか。
この女性は、顔のことを恨んでいたのだろうか?
女性なんて、顔や体の皮を被っているだけじゃないか。
美人もブスも、皮を剥いでしまえば同じ。
そもそも人間としては誰も違いはない。
むしろ、美人の方が心がどす黒くても騙せる。
僕のようにブスなら、相手にしないだろうし、被害は少ない。
でも、普通の人なら、こんな容姿でも愛されたい、1番になりたい。
そう思うのは、ごく普通のこと。
愛されない日々の中で、自然にそう思えるようになった。
誰もが、少しでも上の生活をしたい。
そのために努力するのも悪いことじゃない。
別に周りに迷惑をかけているわけでもない。
努力の結果、成功することもある。
昔だったら分かっていたことが、ホストで楽をしている間に忘れていた。
というより、女性をバカにし尽くしていた。
そのつけが、今の自分に降り掛かってきたのかもしれない。
そうだ、整形という方法があるじゃないか。
今は、そのために我慢してお金を貯めよう。
そのためなら、どんなことを言われてもいい。
そうは言っても、殴られたり、縛られたりすることもあった。
でも、文句を言わず、ひたすら耐えた。
あざを作って翌日を迎えたこともあった。
こいつらに復讐するんだ。
顔と名前は覚えておくからな。
男性がお風呂に入ってる間に、身分証にある名前と住所を書き留めた。
暴力をふるったようなやつには☓を付けた。
絶対に復讐してやる。
僕は、この復讐のために貧しい生活にも耐えたんだ。
風俗店の店主にも、時間外はきっちりと請求した。
それでも、200万円を貯めるのに2年もかかった。
ホストの時に比べると、血が滲むような努力だ。
多少、リスクがあっても安い整形外科を訪問する。
顔、胸、ヒップを整形して、別人の美人を。
そこまでするなら2倍のお金がかかると言われたけど払えない。
でも、失敗しても文句を言わない条件なら200万円でもいいという。
それに同意するしかなかった。
整形の結果はびっくりするものだった。
僕がこれまで見てきたどの女性の誰よりも美しい。
先生も、失敗してもいいならとチャレンジしたと言っていた。
お金が少ないから、文句は言われないだろうって。
だから、認められていない新技術も使ってみたらしい。
そして、風俗店の店主から、店で変死した女性の戸籍も買った。
体は処分したけど、死んだとなると面倒だから助かるらしい。
時々、その子のスマホでSNSにアップしていればいいって。
僕は、25歳の美女として銀座の高級クラブにデビューした。
江本としての存在は消し、死んだその子の名で。
この子が今の自分を見たら、どう思うのだろうか?
でも、もう引き返せない。
僕は、偽物でも美人として幸せになってやる。
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