12話 闇の仕事へ
弁護士になってから3ヶ月ぐらい経った頃かしら。
組織に呼ばれたの。
先日会った男性とは違い、体は締まり、突き刺すような目をしている。
実務家で、隙がない感じね。
まあ、これだけの大掛かりな組織には優秀な人も多いのだと思う。
「佐久間さん、君のことは優秀だと聞いているよ。検事のことは残念だったね。」
「あなた達が仕組んだんでしょう。よく、そんなことを言えますね。」
「まあ、そんなに怒らないでくださいよ。さて、今日はお願いがあって、来ていただきました。」
「なんですか?」
「我々をサポートしてくれている政治家が、今度の総裁選に出馬する。それで、対抗馬の山本総務会長を失脚させてもらいたいんです。」
「弁護士の仕事と関係があるんですか?」
「いや、検事の経験を活かし、問題行為があるというロジックを固め、週刊誌に情報を流してもらいたい。別に失脚すればいいから、シナリオはお任せします。成功すれば、聞いていると思うが、3,000万円を渡すから安心してもらいたい。」
「断ったら?」
「帰り道には気をつけてもらうしかないね。」
「断るという選択肢はないんですね。」
「ああ。」
私は誰が総理になってもかまわない。
でも、もうここまで来てしまったら、断ることはできない。
戸籍の主の女性のことが明るみにされても困る。
私は、この山本総務会長には娘がいることを突き止めた。
調べていくと、その娘は私より1歳下で、同じ高校を卒業した女性。
そう、最初にがんを付けていたあの子だった。
そして、偶然に、高校卒業後10年の同窓会の案内が来たの。
同窓会に行ってみると、山本という子はすっかり変わって明るくなっていた。
「あら、山本さんも来ていたのね。」
「佐久間さんじゃないの。」
「なんか山本さんは明るくなったわね。清楚という言葉の方がぴったりかも。」
「あの時はごめんね。すこし荒れていたのよ。若気の至りというか。でも、今は順調というか、のっているの。佐久間さんとも仲良くしたいわ。」
「そうよね。TVでよく見てるわよ。この前も、刑事ドラマだったっけ、まっすぐな女性捜査官の役で光ってたわよね。」
「ありがとう。佐久間さんはどうしているの? 紬衣だったわよね。」
「ええ、弁護士している。地味だけど。」
「そうなんだ。すごいね。あの頃から優等生だったから、どうなるかと思っていたら、弁護士先生なのね。すごい。」
言ってることは普通だけど、何か一言一言に棘が感じられる。
他人を上から見下すような嫌な性格は変わっていない。
言葉の表面上だけ、明るく振る舞っているだけ。
「ねえ、この会、終わったら、私の行きつけのバーに行かない?」
「いいわね。じゃあ、朋美と、咲も一緒に行こう。行くわよね。」
3人を、昔行っていた赤坂のカウンターバーに連れて行ったの。
「紬衣はしぶい所知っているのね。高そう。」
「昔の彼によく連れて行ってもらったの。それほど高くはないわよ。」
「そうかしら。渋谷の松濤に家があるお嬢様だし、弁護士先生だからお金に困っていないものね。でも、今日は、久しぶりに紬衣と会えたし、ここの代金は、私が払うわ。パパにお小遣いおねだりすればいいから。」
「お父様、お金持ちなのね。どんな仕事しているの?」
「政治家なのよ。民自党の総務会長って、わかるかしら。」
「そうなんだ。総務会長って、よく知らないけど、偉いんでしょう?」
「そうね。将来は総理を目指すとか言っていたし。」
「そうなんだ。すごい。凛は、あいかわらずお姫様なのね。」
「それ程でもないけど。」
いい気持ちになっている間に、2人の友達は時間だからと帰っていった。
そして、凛がトイレに行っている間にカクテルに薬を入れる。
レイプドラッグを。
「凛、こんなに酔っ払っちゃって。帰ろう。」
「ここ何処?」
「カクテルバーだよ。家に帰ろう。」
「わかった。」
私は、凛の肩を抱きかかえ、外の車に乗せた。
そう組織の車に。
車の中でもすっかり寝ていた。
桜丘あたりの道は渋谷といっても人通りは少ない。
そんな路地に、凛を放りだした。
「ここはどこ?」
「家に着いたわよ。シャワーを浴びて寝ましょう。」
「わかった。ありがとうね。」
ろれつが回らない凛は本当に自宅だと思っていたのね。
シャワーを浴びようと服を脱ぎ始めた。
よろけながら、全て自ら脱ぐ様子を、動画で週刊誌の記者に撮らせる。
何も着ていない姿で、ビルの壁に手をあてている。
シャワーを浴びようと、よろけながら歩き始めた。
そして、3人のガラの悪い若者がニヤニヤしながら凛を取り囲む。
山本凛だと話していた。
そして、酔っ払った3人は、抵抗できない凛を犯したの。
もちろん、この3人も闇バイト。
その顛末を週刊誌記者は動画で撮っていた。
それだけじゃない。通行人も集まり始め、スマホで動画を撮り始めた。
凛は派手な喘ぎ声を出していた。抵抗もせずに。
だれかが警察に連絡したんだと思う。
すぐに警官がやって来て、タオルをかけ凛を守ってあげた。
しかし、3人の男性はどこかに消えて逮捕できなかったみたい。
翌日、週刊誌には、女優 山本 凛の記事が1面にでていた。
酔っ払って、渋谷の道路で自ら衣服を脱いで裸で男性を誘惑した。
そして、道路でエッチに及んだと。
芸能界で衝撃が走った。
そして、その夜には、凛の父親が民自党の総務会長だと報道されたの。
凛の父親は、過去に文部大臣もしていたから政治評論家も責め立てた。
こんな大臣のもとに子どもたちは教育されてきたのかと。
ネットでは汚い女だという投稿が絶えなかった。
もともと男性にだらしなかったと。
ドラッグをやってたに違いないとの投稿もあった。
実態は、凛が自ら脱いだものの、周りにいた男性から強姦された。
でも、無責任な観衆は、単純なストーリーに飛びつく。
だから、自ら脱いで男性を誘惑し、エッチに及んだ。
それが真実だと誰もが思っていたの。
凛の番組、CMは全て中止になり、企業からの多額の損害賠償を受けたわ。
そして、凛の事務所は倒産した。
悪いことは続くものね。
というより、金の切れ目は縁の切れ目ということかしら。
内輪から、総務会長の不正の告発があったの。
そして、総務会長は失脚し、議員辞職、逮捕までの事件に及んだ。
結局、執行猶予がついて家に帰ったようだったけど。
その後、後味は悪いけど、総務会長、その妻、凛は自殺をした。
ガソリンをかぶり、家に火を付けたとか。
まあ、私にがんをつける嫌な女がいなくなったのはよかったかも。
組織をサポートする政治家は、それを契機に総理大臣に上り詰めていった。
私は、組織に問題が起きる都度、解決に向けて動いたの。
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