9話 失ったもの

「あれ、リビングで飲むんじゃないですか?」

「いや、別荘って、部屋で飲んで、疲れたら、その場で寝ちゃえるからいいんだよ。」


そんなものかしら。

2つのシングルベットに4人が座った。

私と結城先輩が1つのベットに。

あとの2人が別のベットに。


ベットの横にはシャンパンが置かれている。

私は、おしゃれな雰囲気とお酒に酔っていた。

そして、結城先輩の肩に顔を寄せた。

別の2人がいるのに。


その時だった。

結城先輩は、いきなり私にキスをしてきたの。


「え、まだ早い。」

「そんなこというなよ。いいだろう。」


私は、そろそろキスぐらいして欲しいなんて考えていた。

そんなうぶな女性ではないもの。


だから、ベットに横になり、上にいる先輩のキスを許したの。

横をみると、一緒に来た美羽も同じようにキスをしている。


でも、その時だった。

いきなり、乱暴に服は引きちぎられた。

昔、国会議員に乱暴されたときの記憶が蘇ってきた。


国会議員との時は、エッチについて、まだ男性目線だったのかも。

でも、最近は、エッチについて女性の立場で感じ始めていた。

女性として長く過ごすことで。


エッチをすると子供ができちゃうかもしれない。

未婚の母なんて大変だし、周りからの目は今でも厳しい。

堕ろすこともできるけど、体が傷つくのは女性だけ。


だから、エッチに踏み切るにはそれなりの覚悟がいる。

ピルとかで避妊してれば別かもしれないけど、私は今、避妊していない。

この人の子供を産むという覚悟がないと、エッチは怖い。


それに加え、国会議員から受けた暴力がトラウマになっていた。

この体では男性にはかなわない。

こんなふうに、上から力で押さえつけられたら、もう何もできない。


私は、恐怖で動けずに、悲鳴をあげていた。


「いや、やめて。」

「紬衣も、したいんだろう。キスだってしてたじゃないか。」

「でも、痛いからやめて。肩を押さえつけないで。」

「ここまできて、お預けなんてできないよ。」


私のワンピースはビリビリに破かれた。

そして、ブラも、パンツも、ナイフで切られていた。

いつの間にか、ナイフなんて持っている。


「怖い。怪我しちゃうからやめて。」

「胸が大きいな。前から見てみたかったんだよ。」

「いや。」


バストを揉まれていたけど、恐怖で体はこわばっている。

そんなに乱暴にしないで。

私は、ナイフの前に、怖くなり、動けなかった。


「ほら、気持ちいいだろう。なんか、最初は、あそこの形が少し違うかなと思ったけど、濡れてきたじゃないか。やっぱり女だな。嫌なんていいながら、その気なんだろう。この感じだと、初めてじゃないな。そうなら、そんなに嫌がるなよ。やりたいんだろう。燃えちゃうね。」

「だめ。」


もう、私を守るものはなにもない。

大声で悲鳴をあげたけど、この近くには誰もいないし、聞いていない。


「やめて。本当にお願いだから。」

「ここでやめられないだろう。」

「痛い。入ってる。だめ。」


もう、何も考えられないし、抵抗できる力はない。

こんなに屈辱的な状況なのに。


横をみると、美羽も泣きながら声を出していた。

私も減量して筋肉も落ちているから男性の力には逆らえない。

というより、強くて逆らえないという恐怖を感じていた。


美羽からも、私の屈辱的な姿は見えていたんだと思う。

こんな姿、見せたくなかった。

うつ伏せで腰をあげられ、後ろから入れられている。

まるで雌犬のよう。美羽、見ないで。


「だめ、子供ができちゃう。」

「嘘だろう。生の方が気持ちいいからな。」


先輩は中に出し切るとスッキリした顔つきになっていた。

私は、自分の下半身に目をやった。

いままで入っていた所をみると、白いものが中から流れ出ている。


先輩は、もう大きくなった自分のものを私の口に入れてきたの。

私は、グロテスクなそんなものを口に入れたくなかった。

でも、体はもう抵抗できない。


私の口は、白いネバネバしたものでいっぱいになった。


「紬衣ちゃん、吐き出さないで飲んでくれないかな。」


もう、話すことはできなかった。

なんで、こんなことになったんだろう。


「楽しかったな。じゃあ、記念に写真とるから。今夜のことは誰にも言うなよ。言ったら、この写真を学校にばらまくから。」

「そんなことやめて。」

「ほら、掛け布団で隠すなよ。」


布団は剥がされ、美羽と私は体を寄せ合って震えていた。

スマホを私達に向けて何度も写真をとる。

何も付けていない私達の体が写真に写る。


「じゃあ、俺達は横の部屋で寝るから、君たちはこの部屋で休んでね。」


私達は、月明かりが窓から差し込む真っ暗な部屋で泣いていた。

今から思うと不用心だったの。

子供ができていないことを祈った。


せっかく手に入ったこの体を暴力に晒してしまった。

私の意思に反して、男性のおもちゃに。

なんてことをしてしまったのだろう。


パパとママには言えない。

でも謝りたい。

あんなに私のことを大切にしてくれてるから。


翌朝、私達は、先輩たちが起きる前に家を出た。

ぎこちない歩きで駅に向かい、帰ったの。


それから数ヶ月経ったけど、生理が来ないことが心配だった。

あまりに来ないので、病院に行くと妊娠してるんだって。

おめでとうと言われたけど、その場で、中絶をお願いした。

だって、あんな人の子供なんて産めないでしょう。


病院には、強姦されたと言って、1人で中絶することにしたの。

先生からは、警察とかに訴えないのかと聞かれたけど。

今は、そんなことを考えられない。


気持ち悪くてしかたがなかった。

汚い先輩の精子が体の中で大きくなっていくことを。

はやく、この体から出してしまいたい。


でも、先生には堕胎した子どもについて1つのお願いをした。

子供のDNAデータは残しておきたいと。


その場で中絶の手術を受けた。

子宮に金属のようなものが入れられる。

痛みよりも、悔しさを感じていた。


病院からの帰り道、私の顔は涙でボロボロだった。

周りの風景も何も記憶に残っていない。

でも、パパとママには笑顔を見せよう。

心配させたくないから。


私の反撃はそこから始まった。

警察と大学に、先輩の非道を訴えた。

中絶の証明書と堕胎した子供のDNAを添えて。


思っていたより、ニュースで大きく取り上げられていた。

本当は、顔出しはしない方がよかったんだと思う。

でも、私は許せないと報道陣に訴えた。


パパとママにもバレたんだと思う。

でも、パパとママは何も言わず、いつも笑顔で包みこんでくれた。

ありがとう。そう思っても、私は、いつも部屋では泣いていた。


しばらくは私の顔がTVに毎日のように報道された。

そして、先輩たち2人は逮捕され、大学も退学になった。

当然の報いね。

私の体は、もっと痛めつけられたのだから。


でも、勝った気分にはなれなかった。

だって、先輩たちが逮捕されても私の体が元に戻るわけじゃない。

なにもかも失った気持ちで、大学の食堂で座っていた。


周りの学生達は、強姦されたバカな女だと軽蔑の目で見てる。

いえ、私が誘ったんじゃないかとも。

あなたが悪くて、先輩は騙された被害者じゃないかって。


私は被害者なのに、なぜ、そんな目でみるの?

やっぱり顔を出したのは失敗だったかも。


美羽は、メンタルになり家に閉じこもっていた。

この前会ったけど、目は虚ろで、髪もぼさぼさ。

小さな声で、なんで公表したのよと私を責めていた。


ごめんね、美羽。

あの時の被害に加えて、私の行為で傷つけてしまった。

そんなつもりじゃなかったのに。


食堂の椅子に座っている、その時だった。

考えもしていないことが起きたの。

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