8話 女子大生
女子大とはいえ、大学生活には明るい日々を期待していた。
思っていたより、みんなと笑顔で笑い合う日々が訪れていたわ。
昔通った大学よりは狭いけど、女性しかいないのは違和感もあった。
でも、仲がいい女友達を作るのは今しかない。
周りには女性ばかりなんだから。
積極的に、周りの人に話しかけ、ランチとかも一緒にしてみた。
でも、なんか女性の会話は難しい。
高校でも女性とあまり接していなかったから。
闇バイトしていた時代はもっと、周囲とは関わっていなかった。
だから、まだ女性に慣れていなかったんだと思う。
でも、習うより慣れろね。
そのうち、論理で会話しているわけではないことに気付いた。
会話で結論を出すことより、気持ちで会話している。
相手との楽しい時間を作り出すことが重要。
少し話しているうちに、そんなことに気付いたの。
そんな中で、美羽という女性と仲良くなれた。
心理学科という同じ学部にいた女性。
高校の時の彼氏について話したら、共感してくれたのがきっかけ。
美羽には、私からキスをしたことが別れた原因かもなんて話していない。
そんなこと、わからないし、話しても意味がないでしょう。
ただ、彼がひどくて私が被害者になったとごまかすぐらいがいい。
真実が知りたいんじゃなくて、美羽と共感することが目的だもの。
でも、そんな私の嘘も、笑顔で聞いてくれた。
なんか、飾らない美羽は話しやすかった。
心理学科では、これまで触れなかった新しいことを学んだ。
ロジックは目新しいものばかり。
でも、人生経験がある私には容易に想像できる。
授業後に、あれは間違いじゃないのなんていつも話し合っていたの。
美羽にも高校の時に彼がいて、今も付き合っているんだって。
湊くんのこと話したときは、ひどいって本気で怒っていた。
怒ってあげるから会わせなさいなんて言っているの。
そんなことはできない。
別れたのは私のせいかもしれないし、もう湊くんとは会えないもの。
もう忘れたからと断っておいた。
美羽とは、渋谷のアパレルショップとかにも一緒に行ったの。
このトップス、美羽に合うんじゃないとか言いながら。
こんな感じはとても楽しかった。
最近は、おじさんだった頃を思い出せない。
年数からいえば、10年ぐらいだけなのに。
そういえば、妻も子供たちもいたけど、顔も思い出せない。
結婚した時、子供が産まれたとき、頭でわかっていても思い出せない。
どんな生活をしていたのかしら。
まあ、結婚なんていうと、もう40年ぐらい前だから、忘れてもおかしくないかな。
でも、忘れちゃう人生って、なんだったんだろう。
いろいろな経験をしたから?
この体がでる女性ホルモンとかに影響されている?
そういえば、最近は、生理による感情の起伏への影響が大きい。
男性の頃とは思考の形態が変わったような気がする。
もう、見た目だけじゃなく、脳も大きく変わったのかもしれないわね。
それに加え、男性への憧れ、好きな気持ち。
これは明らかに女性ホルモンによるものだと思う。
卵巣が子供を欲しがっているんだと思う。
よくわからないけど、今は、1人の女子大生に染まっている。
なにをしても楽しい。
何をしていても笑顔でいられる。
美羽とは、そうそうなんて言いながら大きな声で騒いでいた。
そんな中で、女性どうしの会話にも慣れていった。
大学に行くのが毎日、本当に楽しかったわ。
新入生には、サークル活動の勧誘があった。
そこには男性もいたの。びっくりでしょう。
どうも、サークルごとに連携大学があるみたい。
そこの男性が、女子大の正門前で勧誘する。
私はやったことがないものをやってみたかった。
だから、社交ダンスサークルに入ることにしたの。
慶早大学と連携している。
体育会と違って、練習は週に1回。
その他にレッスンを受ける真面目な人もいた。
でも大半は適当に練習して、その後の飲み会が楽しみみたい。
最初は、ダンスパーティーで入部を誘われる。
美羽と一緒に参加してみたの。
男性が優しくリードしてくれる。
高校時代に教室で男性に囲まれていた頃を思い出していた。
だから、舞い上がっちゃった。
ところで、サークルには、私の大学以外の女子大からも来ていた。
なんか別の女子大の子とは、あまり仲良くなれなかったかな。
なんか、好きな先輩を取らないでって敵意を感じたし。
なんか女性どうしの関係って難しい。
グループがあるというか、笑顔で攻撃してきたりとか。
そんな中、私は背が高いから、背が高い男性が声をかけてくれた。
イケメンで、私は一目惚れしちゃったかもしれない。
自分でも不思議だけど、最近は、心もすっかり女性になっていたのだと思う。
練習の後の飲み会でも、ずっと、その男性はやさしく話しかけてくれた。
そう、女性は守れられるものなの。
こういう経験は男性のときにはなかった。
美羽もこのサークルに入ってくれたの。
あの人、かっこいいよね、私にお似合いじゃないのなんて言ってくれた。
それからも、毎週、先輩たちと飲みに行った。
どうも、あの背の高いイケメンには彼女がいるみたい。
飲み会で、美羽が彼に声をかけた。
「結城先輩、紬衣のこと、どう思いますか?」
「紬衣さんは可愛いよね。」
私は、何を言っていいか分からずに下を向いていた。
「紬衣は、結城先輩のこと憧れているようですよ。」
「美羽、やめてよ。誤解されちゃうでしょう。」
「本当じゃない。ねえ結城先輩、紬衣と付き合っちゃいなさいよ。」
「でも、結城先輩には彼女がいるって聞いたし。」
「そんな噂があって、困っているんだよね。そんな彼女なんていないんだけど。」
「そうなのね。そうだとすると、こんな私でも、気に入ってもらえるかしら。」
「紬衣さんだったら、誰にでも自慢できるよ。どう、今度2人でデートでもしてみない?」
そう言われたら期待しちゃうでしょう。
でも、なかなか私に声をかけてこなかったの。
やっぱり、彼女がいるのかしら。
それから3ヶ月ぐらい経ち、夏休みが訪れた。
サークルの男性2人と、美羽と私の4人で旅行に行くことになったの。
あの背が高いイケメンも一緒。
結城先輩の親が持っている軽井沢の別荘に。
軽井沢はおしゃれなのね。
それで人がいっぱい。
もっと、山の中でひっそりしていると思っていた。
そういえば男性のときにも軽井沢には来たことがなかったし。
ショッピングをしたり、滝とか自然をみたり。
初めてのテニスもしてみた。
先輩が教えてくれて、夢のような時間を過ごしていた。
あまりに楽しすぎて、有頂天になっていたんだと思う。
夕方になると別荘に戻り、庭でバーベキュー。
別荘は2階建てで、それ程は大きくないけど、部屋はいっぱいある。
まずは美羽と私は、ベットルームに通された。
「ここからの景色、緑も多くて綺麗ね。ねえ、紬衣。今日は絶対に先輩をゲットしないさいよ。紬衣は奥手なんだから、横で見ているとじれったいし。」
「そうしたいけど、先輩、私を本当に好きになってくれるかしら。声もなかなかかからないし。」
「声がかからなければ、こちらからアタックすればいいのよ。」
「恥ずかしい。でも、頑張ってみるね。」
「そう、その意気よ。」
「そう言えば、美羽には彼がいたよね。4人で来て、怒られないの?」
「そうなのよ。なんか、ずっと一緒だったからマンネリ化してたと言うか、最近、自然消滅しちゃってさ。紬衣の先輩には手を出さないから、私達2人は放っといてくれる。」
「なんだ、美羽にもこの旅行、狙いがあったんだ。じゃあ、頑張って、2人とも笑顔で帰れるといいね。」
「そうしよう。」
下から先輩の声が聞こえた。
「おーい。女性陣、下に降りておいで。バーベキューの用意ができたから。」
「はーい、いま行きまーす。」
2人は笑顔でドアを開け、階段を勢い良く降りていった。
「ほら、さっそくチャンス到来。楽しみ。」
庭でバーベキューが始まった。
未成年だけどお酒もいいよねと誘われる。
誰も見ていないし、いいよねという気分。
いつの間にか、甲高い声で大笑いしていたの。
ああ、楽しい。
こんな世界があったんだ。
美羽はもう一人の先輩と仲良くしている。
だから、先輩の中では、今は私が一番。
私しかいない。
お姫様みたいな気分を味わっていたの。
「そろそろ部屋に戻ろう。」
「片付けますね。」
「いや、もう暗いし、片付けは明日の朝にみんなでやろう。今夜は、そんなことより楽しもうよ。」
「それじゃあ、部屋に戻りましょう。」
みんなで向かった先は私達のベッドルームだった。
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