卒業予定第三号:魔女ッ子は、 負けヒロインに 贔屓する。

「ごめん、ヒロ。こんなことになっちゃって」


「いやいや、そう謝られても。気にすることないよ。ラブコメじゃ、あるあるじゃん」


クラスメイトのトモは心底すまなそうに謝り、タケトの方に歩いていく。途中からスキップに変わった。


ここまでの一連の流れは、あたしの場合、テンプレ化している。せっかく男の子と仲良くなっても、恋は成就しない。


「お人好し!

 意気地無し!

 色気なし!」


親友のケイは、容赦なくズバズバと私のハートに刃(やいば)をぶっ刺す。


「ウチは、あんたのことを思って言ってんだからね。どれかひとつでも直しなさいよ」


直しなさいって、あたしはどれも悪いとは思わない。個性であり、素顔だ。


「そういうケイはどうなのよ!? なんか最近、余裕ヨユーって感じじやない?」


「ニヒヒ、わかっちゃう?」

「なにかあったのかな?」

「犬も歩けば棒に当たるってやつでね」


やっぱ、よくわからん。


「ヒロも行動を起こしなさいな、じゃないと何も始まらないよ」


行動を起こせって言われても、何をどうしていいか、わからない。

とりあえず放課後、家まで走って帰ることにした。 


お、けっこう私走れるじゃん。これなら、逃げる男に追いつけるぞ!

……きっとそういうことじゃないんだろうな。


あたしはヤケクソ気味に狭い通学路をやみくもに走る。


ドシン!


「「テテテッ」」


「ごめんごめん!大丈夫?」

「ああ、問題ない。お互い前方には注意を払おうではないか」


その女の子は脱げ落ちた三角帽をかぶり直し、ローブをパタパタと払った……

ローブ!?

あたしを助け起こしてくれたその子は……どうみても魔女ッ子だ。ハロウィーンはまだまだ先だ。


「やはり地べたを歩くものではないな、これにて失礼」

そういうとその子は指をパチンとならし、箒(ほうき)を取り出した。そして、それに跨がり宙に浮かぶと、あっという間に視界から消え去った。


カランコロン。


彼女が浮いていたあたりの地面に何かが転がった。  

拾い上げると小さくて細いスティック状のもの。

魔女ッ子さん、商売道具の魔法の杖をお忘れですか!?


“ああ、落としてしまったか。”


どこからともなく魔女ッ子の声が響く。

どういう仕掛け?


“ついでと言ってはなんだが、貴女にそれを進呈しよう”


「え? くれるったって、魔法の杖の使い方なんかわかんないよ」


“なあに、かんたんじゃ。『メイク ヒロイン』の呪文だけで、なんでもできる……では、サラバじゃ!”


狐につままれた気分だ。


あたしは魔法の杖?をセカンドバッグにしまい、家路についた。

そして、その存在を忘れた。



翌週、ケイと学校の中庭でランチタイム。

「あー、いい加減この腐れ縁ランチから脱け出したいわ」

ぼやくあたし。


「あら、そうでしたの? そしたら明日から別々に食べませんこと?」

ケイ、言葉使いがキショイ。


「どういうこと?」

「ウフフ、B組のオサム君に、今度一緒にお昼食べないかって誘われてるの」


「この裏切り者!」

あたしはムカつき、食べかけの弁当をセカンドバッグにしまう。


カラン。


ん?

なんだっけコレ?


拾おうと手を伸ばすより先にケイがそれを引ったくった。

「やば! あんた、なんでこんなの持ってんのよ」

「あー、人とぶつかって、お詫びに貰ったのよ」

我ながら随分ハショった説明だ。


「あ、魔女子(まじょこ)ね!」

「ケイ、あんた知ってんの?」


「知ってるも何も。ウチもその子とぶつかって、お詫びに一振りしてもらったんだから」


「随分とドジっ子な魔女ッ子ね」

「なに呑気なこと言ってんのよ! せっかくだからそれ、うまく使いなさいよ」


「さっきから、一振りとか、うまく使えとか、いったいなんなのよ、これ?」

「ヒロ、あんたホントに何も知らないのね……ちょうどよかったわ。ウチの魔法、こないだ切れちゃたから、かけ直してもらおう」


「?」


「いい? そのスティックをウチに向けて振りながら復唱して」


“メイクヒロイン、クリクリマツゲ!”

「メイクヒロイン、クリクリマツゲ!」


なんと、ケイの顔に一瞬白い煙がかかり、それが晴れると、ケイは、ぱっちり瞳のクリクリまつ毛に変身してるではないか?


そこに、男子生徒が歩いて来た。

「ケイちゃん、明日こそ、一緒にお昼食べよう、約束だよ」

そして、手を上げて去っていった。


「誰あれ?」

「か・れ・し!」


中庭でお弁当を広げていた女子たちは、今の一連のやりとりを見逃していなかった。


「ねー、ヒロ、私も!」

「アタシも!」「わたしも、」

あっという間にあたしの前に行列ができた。


訳もわからず、”メイクヒロイン”という呪文に、束感たっぷり、可愛いめのカールで、まつ毛伸び伸びで、というリクエストワードを加え、順番にスティックを振る。


「ほら、あんたやっぱ、お人好しねー」

こら、ケイ! まつ毛をクリクリさせながら、お前さんが言うな。


変身した女子たちは、めいめい手鏡を取り出すと自分の顔を映し、勝利を確信して校内のあちこちに散っていった。


やれやれ……さて、あたしも魔法を使わせてもらおうか。

スティックの先を自分に向け、呪文を唱える。


あれ?

何も変わらないぞ!?


何度やってもだめだ。

あせってスティックをクルクル振り回していると、背後に人の気配を感じた。


「貴女は、魔法を使いすぎじゃ」

魔女ッ子さんがあきれ顔で立っていた。


「充電切れとか?」

「こらこら、スマホなんかと一緒ににするでない」

彼女はあたしの手からスティックを取り上げる。


「この子は生き物みたいなものだから休息が必要なのじゃ」

魔女は、スティックをひと撫でして、あたしのセカンドバッグに放り込んだ。


「貴女には、特別に我輩が魔法をおかけいたそう」


そう言うと、彼女は指をパチンと鳴らし、呪文を唱える。


Make Heroine with Make Heroine !

“『メイク』ヒロイン ウィズ 『マケ』ヒロイン”


負けヒロインをヒロインにしてあげなさいって・・

なんかムカつく呪文だが、あたしは甘んじて受けた。


手鏡をみると、アニメのヒロインのようなキュルキュルまつ毛の私がそこにいた。


すると、中庭の入口から、タケトを始め、五人の男子が走り込んできた。

あたしを『選ばなかった』男どもだ。

「僕とつきあわない?」

「いや俺と!」

「またまた、ボクとだよ」

「俺様に決まってるだろう!」

「拙者こそ」


「どうじや」

魔法使いは自慢げにそう言うと、あたしに向かってウインクした。


その時の彼女のまつ毛。

超可愛いと思った。

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