第9話 それぞれのワシントン

その後のレオは、首都ワシントンを聞き付けながら、一路ワシントンへと足を運んだ。

そしてようやく現地ワシントンに到着すると、手持ちのお金を細かく両替するべく街を歩いた。


 レオの手持ちの所持金は、残りの現金だったが、ほとんど100ドル紙幣になってしまったので、買い物をするか両替するか考えた。

考えた末、金貨や銀貨を換金することにした。何故そう決意したのかは分からない。


ここワシントンでも、なかなか取り合う換金所が無かったが、ようやく金貨だけなら引き取り可能だと言うトレーダーズショップに辿り着いた。

 古物商で、古い硬貨を扱っているショップだった。

レオが持ち寄ったのは遥か昔の金貨や銀貨。その内金貨のみ引き取ると言われた。


「お客さんの金貨はかなりのお値打ち物ですよ。換金しますか?」

「そうだな、宿への支払いもあるから、お願いするよ」

「かしこまりました。では、金貨1枚で5万8千ドルでは不服ですか?」


 レオは、当然この時代の通貨の価値など分からなかったので、向こうの言い値で承諾した。


「ありがとうございました」


 レオはかなりの大金を受け取りキャリーケースに詰め込み店を出ると、今度は宿探しに歩き始めた。


 マークの祖父の服を身に纏ったレオ。かなりオールディーな風貌に、すれ違いざま見返す人も多々あった。


(この私のどこが変であろう?この服装かな……マークの祖父のものだと言っていたが、買い物した服を着た方がよかったかな)


 何とかホテルに宿泊する事が決まったレオ。

半年先まで滞在する事で契約した。


ロビーにはネットを完備したホテル。マークのアドレスを忘れてはいないレオであったがまだパソコンでメールを送るに至ってはいなかった。


そしてレオは、その翌日からワシントンを歩き回ることにした。



※※※


 一方のマークはというと、夏休みの終わりに両親が帰宅。慌てて課題を片付けて新学期を迎えたのである。


 マークは帰宅の度に、メールチェックを欠かさなかった。

レオからのメールを待っているのだ。


(レオ……ワシントンを勧めたけど、どうしてるかなぁ)


 レオの事が気になって仕方ない。


 大学では追加試験が始まる頃だった。

マークは普段勉強はほとんどしていないせいか、試験は毎回追試。追試メンバーの常連となっていた。

 それでも、それなりの勉強はする。が、その努力虚しく追試メンバーなのである。


 部屋の机でレオの事を思い出すマーク。


(レオのヤツ。よくスケッチばかりしていたね。君はとても勉強熱心だよ。僕は今、試験勉強さ。今まで僕より上にいた連中に勝たなきゃ。僕は今回の試験で勝者になる!!)


 マークにとっては珍しい一大決心。何も勝者なんて大袈裟なと思うところだった。

いったいレオとどんな所で張り合っているのか……。



※※※


 一方レオの今日こんにち


ホテルでの朝食バイキングには慣れてきた。

ランチは外で、ディナーはホテルに戻ってから。

それなりのしきたり(?)を教わって、街を散策する日々。


 今日はようやく役所に入り、受付嬢から、フリーで使用可能なパソコンを使ってメールを送る手順を教わった。


 マークから受け取ったアドレスを入力、文章を入力して送信。

……無事送信できた。


(これでマークに届くのか。先人の知能は大したものだな)


ホテルのロビーのパソコンでもメールが送れることを教わると役所を出た。


 マークからの返信は受け取れない。片方向のメールではあるがレオには違和感は感じなかった。それよりこちらからの文章が相手に届くことに感心しきりだった。


『マーク。私はワシントンにきて、もっぱら散策ばかり。どこに行けば珍しいものにありつけるのか分からない。私の宿はワシントンシティーホテルだ。君もこっちへ来るといいのだが……』



※※※


 ある日の夕刻。

レオのメールを確認したマーク。


(レオ!やった、メール出来んじゃん。元気ならよかったよ。えーっと、ワシントンシティーホテル……そっか。僕も試験休みにそっちへ行こうかな。)


 自室からリビングに降りるマーク。そして両親に話した。


「パパママ、試験休みにワシントンに旅行に行かせてくれる?」



 そして試験が終わり、マークは……。

結局常連よろしく追試メンバー。


 その追試をクリアして、なんとか試験休みにこぎ着けた。


 マークは両親に、試験後にはワシントンに行きたいと伝えていた。

両親は快く承諾し、ワシントン行きを歓迎した。



※※※


 レオからのメールが無いのにやきもきしていた頃……。


「パパママ。僕、スミソニアンに行ってみたいんだ。試験休みに行かせてもらえないかな」

『試験の結果次第だなマーク』

『そうね、結果が良ければママも認めるわ』

「うん分かった、頑張るよ」



※※※


 試験は、追試となったものの、無事クリア。

マークは両親に見送られ、ワシントンに向かうのだった。



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