第8話 別れた2人
翌日の午前。
リビングに2人。
マークの両親はまもなく帰宅すると言う。
「ねぇレオ、この先どうするの?」
「どうするのとは?」
「この街にどの位滞在するのかって話。他の場所に行く予定は無かったの?」
「いや予定はないがな。君に会って、やりたかった事も済んだ。欲を言えば、もう半年ばかり、興味をそそる場所に行くとするよ」
「でもレオはお金持ってないでしょ?」
「それなんだが、金貨を換金すれば、何とかなると思っていた」
レオは巾着から持ち寄ったお金をマークに見せた。
「見たことないなぁ。でも金貨ならそこそこの値段で換金出来ると思うよ。よし!駅前のトレーダーズショップに行こう。換金の金額によって滞在期間を決めるというのはどうかな」
「そうだな。君にも返さなきゃいかんし、服も欲しい。そうするかマーク」
※※※
その後……。
レオとマークはトレーダーズショップを訪れた。
レオの金貨を換金するためだ。
金貨の鑑定の結果、かなり高値で売却出来た。
ゆうに1年はホテル暮らしが出来る位の値で売れたのだった。
「レオ、何でそんな高価な物を持っていたの?」
「い、いやなにね、亡くなった親が残したものさ。こういう時にしか役に立たないだろ?ついでだから残りの金貨も換金しても良かったんだが……」
鑑定後の提示された金額に、マークが取り合って、金貨1枚だけ交換することにした。
残りの金貨があることはそのスタッフには知らせなかった。
「いやいや、金貨1枚で充分だったよレオ。凄い価値のある金貨だったなんてビックリしたよ。スタッフの手が震えてたくらいだよ。これで普通のホテルで1年は暮らせる」
「ところでホテルとは何?話の流れから察するに宿の事かな?」
「そうだよ。駅前のホテルくらいなら2年は暮らせるかも。食事込みなら面倒無いしお勧めだよ」
その後、キャリーケースと服を2着、靴とスニーカーを1足ずつ購入した。
キャリーケースは現金を納めておく、いわゆる金庫代わり。
※※※
そうこうして帰宅した2人。
リビングでコーヒータイム。
レオは俯き考えていた。
「この国の中心地に行きたい」
レオは唐突に言った。
「中心地?アメリカ合衆国の中心地?……ワ、ワシントンDC。そこに行きたいの?」
「そうだな、観光を兼ねて行ってみたい」
「アメリカが初めてなのは分かってるけど、いきなりワシントンかぁ……。確かにレオが好きそうな博物館もあるし、行くことを止めはしないよ」
マークはノートの切れ端にワシントンへの行き方をメモしてあげた。
「一緒に行きたいのはヤマヤマだけど、来週試験が控えててさ。もー、ほんとに両親がうるさいんだよ。今後の為だからとか、自分の仕事の為だとかさ」
「ならば、君の試験結果を確認してから移動するとしよう」
「えぇっ?な、何で?僕の試験結果は気にしなくていいよレオ。いつも追試なのは分かってるんだから」
「追試?」
「結果が悪いと、もう一度やらなきゃいけないんだ。でもいつも追試でクリア出来るから大丈夫だよ」
結局のところ、マークの試験結果を聞いてからワシントンに向かうというレオの判断だった。
それまでの間は、駅前のホテルに滞在を決めたレオである。
試験結果が伝えられた日の事……。
マークは大学から帰宅したところだ。
一方、レオは駅前のホテルから歩いてマークの家に向かっていた。
玄関ドアを入るなり座り込んでいるマーク。
「うーん、またしても追試。試験の結果、僕は結局負けたんだ。勉強不足だった」
頭を抱えるマーク。
しばらくすると、レオがやって来た。
ドアホンが鳴る。
マークはドアホンには応答せずに玄関ドアをゆっくり開けた
「やぁレオ、多分君だと思っていたよ」
レオを招き入れると、2人はリビングの椅子に腰掛けた。
「大学の試験とやらはいかがした?」
「試験の結果?また追試さ。僕はいつも負け。勉強不足だから結果ダメだった」
レオはマークに向き合うと、ゆっくりとした口調で言った。
「マーク、勉学に勝ち負けは無い。勝者とはな、物事を始める人ではなく、それを続けた人なのだよ。その場の勝負ではない。今のまま続けるのが肝要、継続は力なりだ」
「レオ……君ってさ……いや、何でもないや」
その翌日……。
「これ、僕のアドレス。何か困ったら連絡してよ」
「あぁそうか。アドレス?これは?」
「メールをよこして。そうすればすぐ僕に届くから」
「なるほど、近未来の伝達手段とな。承知した」
「伝達手段ってレオ……」
「なるようになるさ。ワシントンでは面白い所を探してみるよ」
「カフェでもいいし役所の中でもメールは送れる。ホテルのロビーに完備されてる所もあるよ。とにかく近況報告でもいいから送ってよ。もしかしたら合流できるかもだからさ」
「ふむ、理解した。役所ならば公的機関。何とかなろうさ」
こうしてレオはマークの住む街を離れることになった。
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