第7話 レオのスケッチとウンチク

<<< 猛獣と大きい獣達の草原 >>>


 トラ、ライオン、チーター、ハイエナ、象、カバ……。


「レオー、次行くよー」

「待て待て。スケッチの時間だけは待っててくれよマーク」


 ピューマ、タイガーの檻を過ぎて、ベンチに腰掛けた2人。

レオはノートにスケッチを重ねていた。


「レオは生き物好き?僕は動物園の獣よりネトゲの獣が好きだなー」

「ネトゲの獣?」

「うん。この世に存在しない、しなかった架空の獣達。ドラゴンもいいね」

「ふむ、架空の獣か……。人間が想像、創造したものであろう。それらはリアルかな?」

「うーん、見た目はリアル。でも想像上のって言われると右にならえみたいな」

「そうであろうな。どうすればリアルに近づくか分かるかな?」

「なーんにも考えてない。考えたこともない」

「それはだな、よりリアルに見せるには、実在の動物に似せる必要がある。あらゆる長所を融合させることだな」

「とは言ってもさ、世の中の資料が多過ぎて」

「ま、普通の事を普通と思わず疑問を持つことだな」

「そっかー。この動物園には何度も来てるけど、それが普通じゃいけないんだね。動物達に疑問を持たなきゃいけないのかー」

「その通り。当たり前は存在しない。当たり前は一個人の物であって、万人の当たり前では一切無いのだよ」

「深いねレオ。なんとなく分かるよ。もうスケッチは大丈夫?さ、次行こー」



 <<< 水生生物の住処すみか >>>


建屋がある。そこへ入る2人。


 水族館ではない。水生生物を展示する建物だ。

主に両生類の展示ブースだった。


 カエルを筆頭に、イモリ、ヤモリ。

ナマズやウナギ、ドジョウ。近年観賞用に流行しているメダカも展示されていた。


 レオは、スケッチを欠かさない。気に入った展示水槽の前では暫くスケッチしていた。


「レオ、早くー先に行くよー」

「待て待てマーク。私はやると決めたら1ミリも残さずやり切る。しばし待たれ」


 こんな調子で、レオは都度スケッチ。

かすマークの図。


 一回りして入場最初に休憩したホットドック屋の前。

空いているテーブルに着く2人。


「レオ、お腹空かない?」

「いや、あまり」

「ホットドックセットどうかな?」

「いや、あまり」

「だからぁ、お腹空いたからホットドックセットー!!」

「あ、うむ、分かった」


 レオはここに来てもスケッチの補足をしていた。

マークの言葉も上の空だ。


「レオ!!まったく……。ペプシコーラでいいね?」

「あ、ううん。いい」


 マークは呆れて両手を挙げる仕草。


 その後、入場時と同じくコーラのセットを運んできたマーク。


 チラッとレオのスケッチを覗いた。

「ねぇレオ。僕にはイタリア語は解らない。一体何をスケッチしてるの?」

「見たもの全てだよ。これが私の経験になる」

「確かに君のスケッチには感心する。でもさ、そこまで動物達をスケッチしたいの?」

「うむ、その通り。それは私の経験じゃ。経験からは知恵が生まれるのだ。だとしたら、やらない手はないだろう?」

「ん?それは確かにー……」

「さぁ終わった。美味いコーラを片手にハンバーガー。もう何も言いますまいよ……」


 黙々と食べ始めたレオであった。



※※※


 そして動物園から帰宅した2人。

マークの部屋に落ち着いている。


「ねぇレオ。数日後には両親が帰って来る。その前に行きたい所はない?」

「うーむ、昔の物を見てみたいとは思うが。特にこれと言って指定はないさ」

「両親が戻ってきたら、ここまで自由に行動できないんだ。だから希望があればと思ったんだけど。レオは本当に行きたい所は無い?」

「あぁ、今まで十分連れてってもらった。それで十分さ。この地へ来た希望は叶った」

「でもさレオ。それは君の希望でしょ?イタリアからわざわざここまで来るなんて。何か夢を持っていたんじゃない?」

「何故だい?君はそう感じたのかな?私は、ここへ来て、君に出会えた。たとえ夢を叶えられなくても、得られるものはあったよ」


(ん?また何かの受け売り発言……。レオは何考えてるんだろ)


「そ、そうなんだ。それなら僕もあちこち連れて行った甲斐があるってもんだね」

「この時代、色々見てきた。先人の思いが伝わってると感じたよ。何と言っても、先人を越えるのは人間の使命なのだからな」


(そ、それもどこかで聞いたような見たような……)


鼻高々に話すレオを見つめるマークだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る