第3話 絵画に映るレオの想い

 夜が明けたころ。マークの家の玄関先。


「ありがとうマーク。して、宿は何処に行けば良いかな?」

「駅まで行けばホテル位はあるけど、レオはこの先どうするの?」


 しゃがみ込んで話すマークは、ドアを出ようとするレオに言った。


「色々見たいものがあるんだよ。それでこの地に来たんだ。一旦宿に入ってからどうするのか決める」

「あ……レオ?良かったらここで過ごしたらどうかな?ちょうど両親は外国に旅行に出掛けてるから、その間だったらここに居てもいいよ」


 2人に暫くの間の沈黙……。


「レオは何か見たいんだね。どこの何を見たいの?」

「そ、それは……色々とだな……色々とこう……とにかく見たいものが沢山あってな」

「蒸気機関車といいレプリカの望遠鏡といい、レオは古いものが好きなの?」

「いや、そうとも限らん。絵も見たいしな」

「絵も好きなんだね。僕さ、フランスに絵を見に行きたいんだ。でもなかなか難しい。いつもネットの画面を見て満足してる」

「フランス?そこはフランソワの国?」

「もーレオは古過ぎだよー。今は2030年だって言ったろ」

「うむ、2030年の絵に興味があるのではない。フランソワしか思い当たらなくてな」


両手を挙げて、呆れた表情のマーク。


「フランスで絵画といったらルーブル美術館に決まってるだろ。……あ、レオはイタリア語いける口だっけ?僕、ミラノにも行ってみたいんだ」

「い、いや。イタリア語はその……」

「話せるんでしょ?レオにガイドしてもらってミラノも良いなー。パスポートが無きゃ行けないけどね」

「パスポート?それは何かな?」


 もう一度両手を挙げて、呆れた表情のマーク。


「外国に行くにはパスポートが必要なんだよ。レオは持っていないの?」

「初耳……いや、持っていない」


 やれやれの仕草をしつつニッコリ笑って、

「部屋へ戻ろうかレオ」


再びマークの部屋に落ち着いた2人。


「僕は大学の合格祝いに絵画巡りのプレゼントを考えてた。ルーブル美術館やイタリアミラノへ。フィレンツェも良いなと思ってた。実際、準備は大変、お金かかるしパスポートも必要だからね。僕はパスポートをまだ持っていなかったから諦めた。でもネット上の絵画巡りは出来るから、それでも満足さ」

「フィレンツェ……して絵画とは?本に載っているものかい?」

「うん、本に載っているもの、それを実際に見たいと思っててね」


 マークは本棚からお気に入りの絵画の本を取り、レオに開いて見せた。


「レンブラントも好き。ルーベンスの絵も見てみたい。ほら、この作品は最高だよ」

「ほぉう、遠近法や明暗の表現、素晴らしいな」

「でしょ。絵画の遠近法は凄く神秘的でいいよね」

「遠近法……ドナテッロ……」

「ん?ドナテッロを知ってるの?じゃあダビンチも知ってる?」


 そう言うとマークは別の本を取り出し、レオに見せた。

レオナルド・ダヴィンチの作品集。


「このモナ・リザって絵画は最高にクール!ルーブル美術館に展示されてるんだけど、一度は見たい作品。それからこれが彼の作品では最高にクールさ」


 ページをめくり、レオに見せる。


「これは!……まだ残っているのか?」

「はぁ?何言ってるのレオ。修復されながら今迄残ってるんだよ。知らないの?」

「あ、あぁ。私も見てみたいと思っているよ。素晴らしい作品じゃないか」

(この時代まで残っているとは……。しかし色褪せているな)


 マークはレオが見入っているページを強引に捲り、

「これがモナ・リザ。さっきの最後の晩餐と同じレオナルド・ダヴィンチの作品。ルーブル美術館に行ってみたいのはこの作品があるからなんだ。どうだい素晴らしいでしょ?この陰影といい……」

「陰影といいこの遠近法。まぁ陰影は何とも評価しがたいがね」

「へー、レオは厳しい目で見てるね。確かに謎多き作品だよね。まぁダビンチは謎を多く残した人だからね。そこがまた魅力なんだけどさ」

 

 レオは眉間に皺を寄せながら顔をそむけた。


 マークはまた、別の本を開いて見せた。


「これはダビンチに影響を受けた画家達の作品。凄い作品ばかりだよ。なんたって、これはひとえにダビンチがいたからだよ、彼は何を思って、何を感じて絵を描いたのだろう。それを画家達は想いながら描いたんだと思うんだ」


 レオはマークが熱く語っている事には何も横槍を入れる事は無かった。



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