第1話 転移の人物
マークは望遠鏡を覗きながら
「うーん、今日は満月だったのに、ちょっと雲が邪魔してよく見えないなぁ。月を見るのは少し飽きたし惑星に変更してみようかな……」
その時、マークの背後で光る
塊は人の形を成していた。やがてその塊は鞄を抱えた人の姿に変わっていった。
「ぐ……ぐぐぐ。ううむ、身体が……身体が痛い……」
その光の塊は人へと変わり、うずくまっているのが分かる。
白髪混じりの男、髭を蓄えているそれも白く、年齢をうかがわせる。
その男は屋上のぺったりとした防水塗装に触れると、何か今までに感じえない物に触れたかの様に、一瞬、
望遠鏡を覗いていたマークは、人の声にようやく気付き、声の方へ振り向いた。
うずくまっている妙な服装の男。その男に驚くマーク。
「な、何なに!誰?一体いつの間にここに?……ん?なんだ?こいつ。妙な格好してるな」
マークから見て、玄人、いや仙人そのものの
「あんた誰?もしもーし」
「ぐ……ぐぐ……どこだここは」
「妙な格好だけど、あんた何処からここに来た?もしかして泥棒?」
その男は仰向けに向き直るとマークを見上げた。
「ここは?」
「兄さん、ここはって、一体どうやってうちの屋上に上がってきたの?」
マークは手を差し伸べて、男を起き上がらせた。
「あ、ありがとう。ここはどこだい?」
「ここは僕の家の屋上だよ」
「屋上?屋上って何?」
マークは男の格好といい、いきなり現れた事に不思議ではあったが、マークの性格から、ここは楽観視されたのだった。
そもそもマークはオカルトや都市伝説といった
「君は?宇宙人?それとも幽霊?」
手を差し伸べられ起き上がった男は答えた。
「宇宙人?幽霊?ははは、まさか。この私が
「だよね、ちゃんと足があるし
「あ、ああ申し訳ない。何処に転移するか分からなかったのでな」
「転移?」
「あ、あぁ~こっちの話。勝手に上がり込んで済まなかった。なに、ここが目立ったものだからついね」
「確かにここらじゃ高い建物だけど……。ついね、でここまで上がってこれるのは驚きだよ。それで君は一体何処から来たの?その服からして、昔の人みたいだけど……」
マークは舐めるように男を見た。
「あ、あぁ。これはその~、なんだ、私の趣味でな」
転移してきた男は何とかはぐらかした。
「して、少年。今は何年かな?」
「わー、いいね。ありがちな展開―。あぁ僕マーク・ガードナー、君は?」
「わ、私か。……れ、レオだ。レオという」
「ふーん、レオ。僕にはそのままマークって呼んでくれていいよ」
何やら戸惑うレオ。更にマークに聞いた。
「うむ、してマーク。今は何年かなと尋ねておる」
「何年?西暦2030年さ」
「西暦とやらは理解出来んが……分かった」
屋上で、不思議な巡り合わせの展開が繰り広げられていた。
屋上フェンスの片隅の天体望遠鏡に気付いたレオ。
「マーク、これは何だい?」
「はぁ?レオは知らないの?見たこともない?……これは天体望遠鏡。宇宙を覗く拡大鏡だよ。初めて見た?」
レオは白髪混じりの髭を撫でながら、
「私が書き記した、いや、ノートに書き留めた
マークは眉間に皺を寄せながら、
「レオは天体望遠鏡、つか、宇宙に興味があるの?なんなら覗いていいよ。そのまま覗けば月の海が見えるから」
望遠鏡を勧められたレオ。
先ずは望遠鏡の形に興味を持ち、それから舐める様に端から端まで見ている。
「別に珍しいモデルじゃないけど、それなりの倍率はあるよ。フィルターを付ければ太陽の黒点も見られるんだ」
「太陽?黒点?それは本当かいマーク。見てみたいな」
「良いよ、明日の日中は晴れそうだから良く見えると思う」
マークは望遠鏡を覗き込み、クレーターが見える位置を決めると、
「レオ、覗いてごらんよ。コペルニクスって名前が付いてるクレーターが見えるよ」
レオは望遠鏡を覗いた。
雲に邪魔され薄いグレーにしか見えなかったが、そこにはレンズ越しのクレーターが雲の無い時にはくっきり映し出されている。
「おぉう、素晴らしい!これぞ私が望む眼鏡。ここまで進化しているとは嬉しい限り」
「何ブツクサ言ってんのレオ。僕はもっと先の星に興味があるんだけどね。だからこの倍率の望遠鏡を買ってもらったんだ」
「なんだ、マークは自分で作ろうとしなかったのか」
レオは望遠鏡からマークに向き直ると言った。
マークは呆れて答える。
「バカ言え。自分で作るより売ってるものを買った方が早いって」
「何っ?眼鏡を売ってると言うのか」
「眼鏡?望遠鏡だよ。まぁ、高いけど売ってるよ」
レオはメモを取り出し、挿し絵を入れながら書き込み始めた。
「へー、上手くまとめてるね。ん?その文字……あれれ?イタリア語?」
「あ、あぁノートに書く時はイタリア語にしてるんだ。君が気にする事じゃない」
「ところで、レオは何処からここへ?この後は何処に行くの?」
「いや、行き当たりばったりだ。細かく説明できないが、この先何処かで宿を取るとするさ」
サンダル履きに、タオルケットを纏ったような服装。白髪まみれの人相で鞄を抱えている。これにはマークは我慢できなかった。
「その格好で非常ハシゴを上がってきたのかな?……それにしてもレオ。その服装ってレオのお気になの?」
「ん?お気に?それはどういう意味?」
マークは徐々に状況が見えてきたのか、
「分かった。とりあえず僕の部屋に入ろうレオ。暫く両親は戻らない。だから話は部屋でゆっくり聞くよ」
レオはマークに促され、彼の部屋へ招かれたのだった。
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