君、どこから来たの?
ほしのみらい
プロローグ
ここは知性の神の神殿。主たる女神は横たわりながら考えた。
(かれこれ千年は経ったかしら。有能な人間が見付からずに今まで過ごしたけど……)
古代の神々の争いから逃れながら今まで有能な人間に知性を与えて過ごしてきた。
ところが、この千年程は有能な人間が見当たらずとても退屈している様だった。
ピキーン。
女神の脳裏に賢い人間の反応。
横たわっていたがスッと立ち上がる。
『はっ、これは有能な人間の反応!早速出向かなきゃ』
※※※
青年は大学に行くと、大抵の場合はまず他の学生から
「やぁマーク。そろそろ月に出掛けるのかい?是非その時には誘ってくれよなー」
「マーク、宇宙人には会えたの?」
「宇宙船はいつ迎えに来るの?」
等々、男女を問わず声を掛けてくる。
揶揄われている青年の名はマーク・ガードナー。
絵画鑑賞、天体観測が趣味のインドア青年だ。
このインドア趣味は、大学を欠席する理由に度々使われた。
その為に同じ大学学部の学生から揶揄われるようになったのである。
ところが、マーク本人は揶揄われても気にする事もなく、何を言われても微笑み返すだけだった。
(僕の趣味って、そんなに皆んなと違うものかなぁ……。でも授業欠席の理由に使わなきゃよかったのかもね)
※※※
市街地から離れた郊外にある家。2階建てに屋上を備えた建物。
すぐそばには単線の鉄道、長距離列車の線路に沿ってその家は建っている。
それがガードナー家であった。
その鉄道は、以前まで蒸気機関車が貨物を引いたり客車を引いたりしていたが、近年ではディーゼル車が客車を引くようになり、蒸気機関車はイベント列車牽引ばかりになっていた。
近くには線路を横断するように道路が交差し、列車が来るたび警笛を鳴らしては通り過ぎていく。
交差する道路は市街地へと繋がっている幹線道路だ。
ガードナー家2階建の建物には屋上を増設して作りつけた、約3階建の建物が線路沿いから見える。
家の周囲には平屋建ての建物が数棟あるが、ガードナー家の建物はその沿線では一際目立って見えていた。
約3階のその屋上は、大学に在籍する少年、マーク・ガードナーの願いで増設したもので、天体観測用にマーク本人が希望したものである。
ハイスクールに進学した頃からマークが興味を持っていた天体を、屋上から観測出来ればとガードナー家祖父トランディス・ガードナーが増設したものだった。
マークは屋上に観測場所が作られてからというもの、暇さえあれば望遠鏡を夜空に向けて構えていた。
マークの両親はというと、父親は弁護士、母親はジュニアハイスクールの教師。
両親共に旅行が好きで、週末の短い旅行から夏季休暇時の長距離かつ長期滞在旅行まで、幅のある旅行夫婦。マークがハイスクールに上がったころには両親は旅行で外出しがちだった。
留守がちな両親の代わりに相手をしていたのが祖父トランディスである。
彼はマークに対して決して甘やかしていた事は無かったが、屋上増設には協力的であった。
それもそのはず、トランディスも天体観測を趣味としていたからである。
トランディスの趣味は他に絵画鑑賞が挙げられる。
これもまたマークに影響を与えている。
絵画や天体に関する蔵書は全てマークに与えられていた。
そのトランディスは、マークが大学に進級する頃に他界してしまったのだった。
※※※
ある日の事。マークは晩の食事を済ませるなり、いつものように屋上に上がり望遠鏡を覗いていた。
最近では、月のクレーターをよく見ている。
(今日は満月。さてどこのクレーターにしようかな)
すると、マークの背後に光る
光る塊が人に変わったのだが、その人物はうつ伏せになったまま身動きしなかった。
この時、マークは望遠鏡を覗いていたために、背後には気が付かなかったのである。
※※※
場面は変わり過去の時代、西暦1500年半ばイタリア。石造りの建物のとある発明家の工房に。
発明家……というか何でも屋だ。彼の沢山のノートには色々な分野の手記が挿絵入りで書かれていた。
工房内は、発明家よろしく、試験的に作り上げた模型があったり、書きかけの絵が置いてあったりする。絵も彼の得意分野(?)である。
彼は広く深く物事を追求する他、自分自身で試さなければ気が済まない。
常に色々なアイデアが浮かび、その度に手記を書きながら自身で結果を確かめる所は誰もが呆れるくらいだった。
最新の手記を書き終えると、天井を見上げ独り言を呟いた。
「家を出て、ここまで色々な事を手記として認《したた)
》めてきた。多くの絵も描いた。だが結局は後世の者達が理解出来ねば無駄足。私の発想を理解し実現してくれたら幸いなんだがなぁ。ま、ラファエロとは今後上手くやれそうだが、それもどうだろうか……。そうだなぁ、出来ることなら未来を見てみたいものだな」
そこに突然、暇を持て余した退屈しのぎの知性の女神が降り立った。退屈しのぎは発明家の彼に失礼だが、女神アテナにとっては久しぶりの賢い人間の反応。
『もし?そなたは今、未来へ行きたいと考えましたかしら?』
発明家は一瞬驚きの表情を見せたが、即答した。
「貴方は誰です?私は見ての通りの老体で、ぐうたら暮らしている発明家。多くの書き物や絵を記しましたが、これを未来の者が理解できるかどうか……。だったら自分が未来を確認すればいいだろうと、そう思いましたよ」
『
「やれやれ暇な神様もいたもんですね。……好きな未来へですって?そんな
知性の神は、今までの自分の退屈さを顔に出さぬよう、なんとか隠して再び話した。
『私は千年程に渡り、人々に知性を与えてきた。ところが最近はピンとくる人が現れなかったのです。でも貴方に引き寄せられました。自分のやってきたことが
女神アテナは早口に説明した。
発明家は半信半疑な面持ちで、暫くの間、天井を見上げていた。
「1年間だね、承知したよ女神様。1年経ったらまたこの工房に戻されるんだね?」
『その通り。1年後には今のこの時間に戻るだけ。繰り返すが貴方の素性は隠し通すことです。で持ち物は……
発明家の手には金貨が3枚渡された。
さて1年間で自分の発明の数々を確認できるだろうかと不安だった。
(未来……自分の発明は反映されているだろうか。一体どの位の未来に送られるのか。まぁ少し不安ではあるが色々見てみたい)
鞄には少しの貨幣。貨幣には女神の金貨も含まれた。それに筆記用具に画材とノート。サンダルの予備と上掛けにするポンチョ。
それを奥から抱えて出てきたのだった。
「さて準備出来た。女神様、お願いします、さあ未来へ送ってください」
『貴方の様子はこの時代から見守っています。未来で1年過ごしていくことは想像しがたいけれど、向こうでの話し言葉は降り立った地の言葉を与えます。大丈夫、上手く過ごしていけると願っています。では未来の時代へ!』
知性の女神がそう言った瞬間、発明家は
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