第11話

「寝て食ってセックスして……」


 はぁ、と溜息が漏れる。本当に自由な女だ、こいつは。


 そして、その自由な女に飼われている私は、籠の鳥か。

 籠に屋根なんてないのに、何故か逃げない馬鹿な鳥。


 せめてもの抵抗で、今回は途中から、主体的に動いてみた。前回されたのを真似するように、リードを試みたのだ。

 でも間仲人見はの役にも慣れていたのか、私の腕の中で鳴いて。


 そんな、絶対勝てない飼い主の痴態に嗜虐心を刺激された私は、次はどうしてやろうか、なんて考えて、喜ばそうと頑張ってみたりもしました。

 ――まぁ、飽きたのか途中から主導権を奪われたんだけど。


 ベッドから天井を見上げていると、きらり、と視界の端で何かが煌めいたように感じた。


「うん……?」


 そちらに目を向ける。今日はまだ明るい時間でカーテンも空いていたから、陽の光が部屋に差し込み、部屋にあった何かの金属に反射したらしい。

 ベッドから這い出て、光の元へ向かう。空っぽの本棚の、一番下の棚の奥――立っていると絶対見えないところに、それはあった。


「指輪……?」


 とてもシンプルな、装飾のない指輪だ。

 内側には文字が彫られているようだが、英語の筆記体で全然読めない。

 数字だけはなんとか読めそうなので解読してみると、『2018.7.18』と書かれているようだ。それは今から6年くらい前の日付だ。


 きっと、誰かがこの部屋を掃除した時には見つけられなかったのだろう。

 もよこが使ってるのはここではないリビングから一番遠い部屋だし、前の住人の忘れ物であることは間違いなさそうだ。


 ――しかし、間仲人見は教えてくれるだろうか。

 たぶん結婚指輪。ふつうは、大事なもののはず。

 でも置いてったまま、少なくとも1カ月は取りに来ていない。いやひょっとしてこれは間仲人見本人のなのでは――と頑張って筆記体の解読をしようと指輪の内側をじっと見つめていると、背後からもぞもぞと動く音。


「姫乃、……どうしたの?」

「なんでもない」

「……そう」


 ひとまず手の中に握って隠すと、間仲人見は目を瞑ったまま「めがねめがね……」なんてベッドの中を手探りする。「ソファの脇に落ちてたわ」と伝えると、「そうだった」と返された。っていうかあれ、伊達眼鏡でしょ? なくても見えるでしょ。わざとらしい。


 二人とも裸のまま、リビングに移動する。

 最中でもないのに裸なんて、なんだか不思議な感じだ。私は別に裸族というわけではないから裸なことに違和感を覚えてしまうけれど、間仲人見が服を着ようともしないので、私もそれに倣った。


 定期的に私の身体をねちっこい目で見てくるのだけはちょっとキモいけど――、まぁ見られて恥ずかしい身体でもないしな、と堂々としてる。今更裸見られて何っていうのよ。見せたくないもの全部見せた後よ。

 間仲人見は素っ裸のままキッチンに立ち、レンジの隣に置かれていたエスプレッソマシンでコーヒーを淹れていると、雫が跳ねたのか「あつっ」なんて声を漏らした。馬鹿じゃないの。服着れば?


 私は脱ぎ捨てられた自分のバスローブと、ついでに間仲人見が着ていたドレスを持ち上げる。これ洗濯機に入れてしていいやつ? 洗濯表示のタグすらないんだけど、ひょっとして市販品ですらないの?

 コーヒー片手に戻ってくるので、「これどうすればいいの?」と聞くと、「ゴミで良いよ、もう着ないし」と返される。

 何か言い返そうと思って、――やめた。言われた通りゴミ箱に放り込む。もよこが見たらドン引きしそうね。ゴミ捨てはあの子の当番だから(とはいえ私は何の当番でもないが)。


 二人でソファに腰掛け、テレビを付ける。

 昼間にテレビを付けると学生向けではなく主婦とか老人向けの番組ばかりだけど、もう夕方に差し掛かった時間なので、見覚えのある番組や子供向けのアニメが放送されていた。

 何を言うでもなくコーヒーを飲みながらテレビを眺めていた間仲人見は、ふと時計を見て「あ、」と声を漏らすと、慌てた様子で服を着る。どうやら着替えを持ってきていたようだ。

 シンプルなワンピースにコートを羽織って、眼鏡と帽子を装着し、壁に埋め込まれた鏡を見てセルフチェック。「よし、」と呟き、こちらを見た。


「姫乃と一緒に居るのが楽しくて、時間忘れちゃった」

「そ」


 その言葉が嘘でも嬉しい、自分が嫌だ。


「じゃあ、またね」

「うん」


 それだけ言うと、間仲人見は出て行った。

 急いでいただろうに律儀にコーヒーカップまで洗っていったが、私がコーヒーを飲まないことを知ってるもよこが見たらすぐに気付きそうね。何ならもよこに言われるまでそこにある黒いのがエスプレッソマシンってことすら知らなかったわ。

 どうやらそれはカフェにあるような高いマシンらしいが、コーヒーは苦いって印象しかない私にはマシンが高ければどうなるのかというのは全然分からなかった。

 ある時「紅茶は出ないの?」ともよこに聞いたら「出るわけないでしょ」と呆れられたっけ。だって高いならドリンクバーみたいになんでも出せると思うじゃない。

 長尺で説明されたのを聞き流したが、どうやら豆からひいて? 自動で抽出してくれるらしい。それによって何がすごいのかはよく分からない。飲み比べても泥水だと思う。


 30分もすると、もよこが帰ってきた。リビングに入ると、すんすんと鼻を鳴らす。

「……誰か来てた?」

「うん」


 警察犬かよ。


「軽率に連れ込まないで。私居る時バッティングしちゃったら気まずいし」

「あっ、そうだよね。ごめん」

「……いえ、謝られるほどじゃ……」


 どっちだよ。ともかく、勘違いしてくれたようだ。

 同居が始まってもあまり雑談をするわけでもないので、私について他の女子が噂していることくらいしか知らないようで、そうなると『男遊びばかりしてる、派手な女子』という印象になるのだろう。まぁ、実際そうだと言われたらそうなんだけど。


 実際ここにさっきまで居たのは家主だけど――、まぁ、いいや。話すほどじゃないでしょ。

 それに、バッティングしたら気まずいのは間違いない。膝枕で寝かしつけてたかセックスしてたか事後に全裸のまま抱き締められて寝てたかのどれかよ。見られたら最悪ね。

 そういえば部屋はまだ全然片付けてないけど――もよこが入ることはないだろうし別に良いか。私がバスローブ一枚なのは普段通りだし。(ついさっきまで裸だったが、一人になったらなんかいたたまれなくなったので着た)


「もよこさぁ」

「ねぇ何度も言ってるけどもよこじゃなくてホウコなの! せめてもえこって呼んで!? 小学校の時はそう呼ばれてたから別に気にしないしっ!!」

「ごめんごめん、んで、もよこはさ、」

「わざとでしょ?」

「うん」

「なんで?」

「他意はないけど……」

「せめてあって!?」

「処女?」

「…………は?」

「いやなんとなく」


 真似してすんすん鼻を鳴らしてみたが、コーヒーの残り香は少し感じたがそれ以外は分からない。もよこが何の匂いに反応したのかは分からないが、流石にベッドから情事の匂いが漏れていたということは……ないだろう。今日はソファでシてないし。

 全部終わって冷静になってから事後の部屋に入るとよく分かんない匂いするのよね。あれ何の匂いなんだろ。体臭?

 男の体液はかなり独特な臭いがするからすぐに気付いておかしくないんだけど、もう流石に煙草の残り香とかも感じないしなぁ。何の匂いに反応したんだろ。


「……えーと、それ答える必要ある?」

「じゃあ質問変えるけど、未経験?」

「同じじゃないの!?」

「違うでしょ」

「なっ、何が……!?」


 いやだって、ほら。女同士だとたぶん道具使わないと膜破れないし。そうなると『経験者だけど処女』という概念は生まれるんじゃないかな、ふと思ったから聞いただけだ。

 もよこ、レズらしいし。ならそっちの経験あるのかなって。


「…………未経験よ」

「そう」

「なんで?」

「なんでって?」

「急に、聞くことじゃなくない? それとも普段からそういう下ネタキャラなの……?」


 なんかわなわなと震えてる。怒ってるというより、困惑してる感じだ。


「いや別に。誰が処女かなんてちょっと話したらすぐ分かるし」

「そうなの!? なんで!? 匂いとか!?」


 そんなんで分かるかバーカ。


「するでしょ友達と。そういう話」

「しませんけど……!?」


 しないんだ。


「もよこ、友達少なそうだもんね」

「はぁー?」

「前ハブられてたんでしょ」

「そうですけど!?」

「今はどうなの? 友達とか、彼(かれ)――じゃなくて彼女とか、作んないの? もよこ折角顔良いんだし」

「か、顔良っ……、急に何!? 金銭でも要求されてる!?」


 しとらんわ。


「……まず、一つ誤解を解いておきたいんだけど、良い?」


 もよこは電源が入ったままだったエスプレッソマシンでコーヒーを淹れ、ダイニングの椅子に座る。そうだよね、帰ってきていきなりソファの隣、それも5人掛け出来そうな巨大ソファで密着するほど近くに座ることないよね。そっちにも椅子あんだし。

 ちょっと話長くなりそうな気配を感じたので、「えぇー……」と返すが、問答無用で話は始まった。


「あの、まず伝えておかないといけなくて、これは最初に言っておくべきだったかもしれないけれど――」

「そろそろ眠くなってきた。寝て良い?」

「まだ始まったばっかなんだけど!? あのね、私は広義ではレズビアンに該当されるけど、別に誰でも良いってわけじゃなくて――」

「そりゃそうでしょ」

「……そこは理解あるのね。うんと、月舘さんはデミセクシャルって知ってる?」

「知ってると思う?」

「……よね。えっと、まず第一に、私が好きになる相手は仲が良い人だけなの」

「そんなもんじゃない?」

「えっ」

「何に驚いてるの?」


 えっ、分かんない。普通に驚愕って感じの顔なんだけど。

 好きになってから付き合うのか、付き合ってから好きになるのか――、まぁ人によって違うと思うけど、同意したのがおかしいほどのことを言われたとも思えない。


「あの、月舘さん」

「何?」

「あなたはその、所謂――」

「ビッチ?」

「…………そう、その、そういう噂を聞いたことが、あるんだけれど」


 なんて言いづらそうにしてんのよ。まぁ、そういう噂は耳にする。あえて本人に聞こえるように噂するものだしね、女子って。


「私の経験人数、何人だと思う? ヒントはこれ」


 指を2本、ピンと立て、聞く。


「にっ、……200!?」


 多いわ馬鹿か。


「二人」

「えっ!?」

「うち片方はレイプ魔」


 親だけど。


「どういうこと!?」

「そういうこと。仲良くもないところから漏れる女子の噂なんてそんなもんでしょ」

「で、でもその、いつも男子と遊んでるのよね……?」

「それはそうだけど、女子とは遊ばないわけじゃないし」

「誰でも良いってこと!?」


 なんか誤解されてない? 違うっつーの。


「誘われて暇なら付き合ってるだけ。彼氏も、作ったことないし」

「そうなの……!?」

「だからその、好きな人なら好きになる? みたいの、別に変な話じゃないと思うけど、一般的には違うの?」

「あっ、えっと、……ごめん言葉がちょっと悪かった。うまく説明出来る気がしないから、調べてみてくれる?」


 「はいはい、」と答えて、検索してみる。


 デミセクシャルというのは『相手の性別は関係なく親友に対して性欲を抱く』性別を表す言葉なようで、なるほどその親友が女の同性ならばレズに、男同士ならゲイに、異性ならばヘテロになるということか。ちょっとめんどいな、それ。

 そうなると、もよこは厳密にはレズじゃないことになる気がするが――


「これまで好きになった相手、どれだけ居たの?」


 一応聞いてみると、もよこはゆっくりと指を2本立てる。


「200?」

「ふ・た・り、よっ!!」

「あっそう、んで片方が早田なのね」

「……うん」

「んでフラれたと」

「まだ返事は貰ってないんだけど!?」

「いや……、コクったの去年でしょ? それで返事ないってことは、普通に無理筋でしょ」

「……それは、分かってるけど」


 落ち込むなよ。私が虐めたみたいになってるじゃない。あんたがコクってあんたがられた、ただそれだけでしょ。


「それから早田とは?」

「何度か、話す機会はあったんだけど……」

「避けられてんのね」


 コクリ、と悔しそうに頷いた。去年のまだ引きずってるとか、乙女ね。男子でも女子でも、とっくに諦めて次の恋探してる頃でしょうに。


「もよこ顔だけは良いんだから、ちゃんと探せば次の相手もすぐ見つかるんじゃない?」

!?」

「いやだって、ガッコで話したことないから、今でも顔くらいしか知んないし。これでも知ってるとこ全部褒めてるつもりなんだけど」

「そっ、そうなの? それはごめんなさい……」


 小さく「私が謝ること……?」と呟いたが、知らん。


「……その、早田さんのことはもう、なんとも思わなくて。でも去年の一件が知れ渡ってるせいで、なんだか避けられてるような気がして」

「そりゃそうでしょ」


 一度広まってしまった同性愛者という噂を消し去るのは難しい。それこそ男と付き合ってラブラブ見せつけてれば話は違うかもしれないけど、そういうんじゃないみたいだし。

 そうなると、女子に避けられるのも当然だ。口では「気にしないよ」と言っても、内心性的な対象として見られることに嫌悪感を抱かれても仕方ない。

 私は別に、もよこがだと知ってもなんとも思わないけど、そういう女子は少数派なのだろう。


「じゃあさ、私は今まで男も女も好きになったことないんだけど、これを表す言葉もあるの?」


 ふと気になったので聞いてみる。なんか詳しそうだし。

 仲良い子には話したことあるが、愛梨くらい私のこと知ってる子じゃなかったら「今好きな相手がいないだけでしょ?」って返されちゃうのよね。なんなら愛梨にも言われる。「運命の人に出会ったことがないからよ!」って。愛梨は年1くらいで運命の人に会えてて羨ましいわ。


「うーん……、いくつかあると思うけど、月舘さんの性自認は?」

「えっとそれは自分が男か女かってこと?」

「そう」

「なら女」

「……セックスしたいとか、そういうことを思う相手は居る?」

「い――いない」


 今脳裏に間仲人見のことが浮かんじゃったけど、違うから。ホントに違うから。さっきシたばっかで浮かんだだけだから。


「近そうなのは、『アロマンティック・アセクシャル』かしら。日本だとアセクシャルって呼ぶことの方が多いかも」

「長い……」


 『オトコ』とか『オンナ』みたいな名前じゃないの? 絶対自己紹介で使えないわよ。間違いなく聞き返される。

 さっきもよこに言われたデミセクシャルすら聞き覚えのない横文字で右から左に流れるとこだったのに、文字数倍くらいあるじゃない。


「所謂『無性愛者』ね。自他の性別関係なく、そもそも他者に恋愛感情も性的欲求を抱かない性別を表す言葉で、そんなに珍しくもないって聞くけど……」

「けど?」

「……男性はともかく、そういう女性は、普通に男性と結婚する傾向にあるらしいの」

「あー……」


 なるほどね、なんとなく言いたいことは分かる。

 性的に好きでなくとも人間的に好きという感情はあるし、性的に見なくともセックスは出来る。快感を得ないわけでもない。それなら一緒に居て不快じゃない無難な相手と結婚しておく――という気持ちは、分からなくもない。


 逆に男でそれだと、好きでもないしセックスしたいわけでもない相手を養う必要が出てくるので、結婚しない。――故に男女どちらにもありうる性別でも、女ばかりが結婚することになるのだろう。


「じゃ、それってことで」

「そんなのでいいの?」

「だってあんまり興味ないし。自分が男かもとか、好きになる相手は女かもとか――、そういうこと、考えたことないから」

「…………そう」


 どこか寂しそうな顔で返されると、私が悪いこと言ったみたいになっちゃうじゃない。

 それこそ他の友達に言われるように、まだ好きになれるほどの相手がいないだけという可能性は全然ある。というか、私自身もそっちだと思ってた。


 確かに自分の感情に名前を付けられると安心できるけど、その感情が真のものである保証はない。むしろ、「私は誰も好きになれないんだ」なんて考えながら生きる方が辛いわ。どう考えても「まだ好きな相手がいないだけ」の方がマシじゃない。

 愛梨みたいな恋愛脳にはなれないけど、私だって恋愛そのものを否定しているわけではない。下半身で考えてるとか言われてる男子だって、生殖を前提とした、つまり種の存続を最優先に生きてると考えれば、生物として当然の思考である。

 もよこにとっては自身の性別を表す言葉は精神の寄る辺になるのかもしれないけれど、私にとっては違うし、他の人にとっても、きっと違う。


「もよこその、デミナントカってやつ、早田にも話した?」

「……うん」

「そりゃハブられるわ。当たり前でしょ」

「そうなの!?」

「そうよ。早田がどう思ったのか知らないし、あんたにとっては大事なことなんだろうけど、他人にとっては『私と仲良くなると好きになりますよ』って告白するのと同じじゃない」

「そっ、そんなつもりじゃ……」

「そう思われるのも無理ないって言ってんの。あんたの告白が『私は女だけどあなたが好きです、付き合ってください』だったら、たぶんみんなの反応、今とは少し違ったと思うわよ」

「…………」


 もよこは悲しそうな顔で俯いた。ようやく、自分がどんなことを相手に求めていたのか、どう思われるかを考えたのだろう。

 というかハブられて1年くらい経ってんのにそれに気付かないってどういうこと? 馬鹿なんじゃない? 恋愛脳がよ……。


「じゃあ、どうすれば良いのよ……」


 そんな懇願するような目で見ないでよ。皆が思ってること、代弁しただけよ。


「それでも納得してくれる人探すか、何も知らない人を探すかどっちかでしょ」

「……どうやって?」

「そんなのマッチングアプリでもなんでも使えば――」


 スマホを掲げて、――そういえばそういうアプリはもう全部消したんだった。

 女だてらにパパ活アプリで女漁りをしてた間仲人見みたいな例もあるんだから、どうとでもやりようはあるでしょ。


「無理よ、私は月舘さんみたいに、誰とでも仲良く話せるタイプじゃないし」

「そうなの?」

「……だって、そうじゃない」

「いや知らないけど……少なくとも私とは普通に話せてるし……」


 このやりとりを学校でやってたら「仲いいね」って思われる距離感であろう。

 この家に居る時の私は、だいぶ素に近い性格が出てきてるというのもあるが、普段の方が相手に合わせてるので話しやすいとは思う。

 それはそうとして、別にもよこがとっつきにくいタイプというわけでもなければ、友達が少ないタイプにも思えないのは事実。これはきっと、悪評のせいで避けられているだけだ。


「ま、諦めなさい」

「諦めるの!?」

「だってもう無理でしょ、高校じゃそういう相手作れないわよたぶん」

「そっ、そうなの……?」

「だって、それ知って仲良くしてくれる子、一人でも居た?」

「…………いない」

「そういうことでしょ」


 ただ、もし学校に同性愛者レズビアンが居たら話は違ったと思う。だってもよこ、普通に可愛いし。それでも友達が出来てないってことは、つまりそういうことだ。


「あんたにとっては大事なことかもしれないけど、他人にとっては違うの」

「…………」

「誰かに相談しなかったの?」

「……お母さんに相談したけど、病院、連れてかれた」

「そ」

「それで、嫌だけどお母さんが納得してくれるからしばらく病院通ってたんだけど……」

「ふぅん?」

「なんか、全部嫌になっちゃって。病院の外で泣いてたら、声掛けてくれる人が居たの」

「…………」

「逃げたくなったら教えて、って」

「そういうことね……」


 なんとなく、あの女の手口が分かってきたぞ。

 パパ活アプリの件は、まぁ単純な性欲処理ってことにしとこう。

 そうでないめんどくさい手順を踏む時、間仲人見はに声を掛けている。そして、その心の隙間に寄りそうように、一番かけて欲しい言葉をかけるのだ。


 ――それは、一種の洗脳のようなものだろう。


 相手の心を読む必要なんてない。公園で泣いてる子が居たら理由があるに決まってるし、病院で泣いてる子が居たら理由があるに決まってる。

 その理由なんて、これまでの経験からある程度推察することは出来るだろうし、あの優しい瞳を向けられたら、なんでも話してしまうだろう。


 ――そして、一番欲しい言葉を投げかけるのだ。

 そうすると、はい。自分に従順な女子高生の出来上がり。

 言葉にしてみれば随分単純で、あくどい手口なんだろう。

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