第6話
一週間が経った。
間仲人見は、あれから一度も帰ってこないし、私は一歩も外に出ていない。いやバルコニーには何度か出たけど。
ベッドは使っていない。一人で寝るときは、いつもソファだ。
ほぼ床と一体化してる布団で寝ていた身としては、5人は余裕で座れそうな大きなソファが十分ベッドとして機能するというのもあるし、なんとなく、ベッドはそういうことをする場所だとインプットされてしまったというのもある。そんなわけないのに。
まぁ、それはそうとして。
私は何をするでもなく、毎日ぼうっとして過ごしていた。
スマホは充電していない。鞄に充電ケーブルは入っているけれど、刺したところで連絡したい相手が居るわけでもない。
これまでは毎日何時間でもスマホを触っていたのに、この家に来てからはなんとなくそんな気分になれなくて。床に落ちてると踏んじゃいそうだったから鞄にしまって、それきりだ。
テレビは何度か付けたけれど、何を見ても頭に入ってこなかったから消した。
私がこの一週間でしたことといえば、ご飯を食べて、トイレに行って、お風呂に入って、寝たくらい。
こんな堕落した生活、人生で一度としてしたことがない。
外にも出ずに、ただ家に引きこもる毎日にそのうち飽きてしまいそうだけど、気が付くと一週間経っていた。
もしかしたら、このまま1カ月とか、1年とか過ぎてしまうかもしれない。
何もしなくても、時は進む。何かしてる時に比べたらずいぶんとゆっくりだけど、それでも時が止まることはなく、お腹はすくしトイレにも行きたくなる。
食べて、出して、寝るだけ。それでも、人は生きていられる。
「……学校、どうなってるのかな」
アパートが全焼したのは、学校にも伝わっているだろうか。いや、母が連絡してなければ伝わらないかな。無断で休んだ生徒の家を訪ねるほど教育熱心な担任でもないし、そうなると誰も気付いていない可能性はある。
こう見えて真面目だった私は毎日休まず学校に通っていたし(通うだけだが)、無断で休んだ経験なんて、本当に一度もない。もしかしたら、心配されているかもしれない。
昨日見たニュースの時点では、私は行方不明者にもなってなかったみたいだけど、1週間帰って来なかったらあの母でも心配――するわけないか。おかみさんのお店で暮らしてた頃は2,3か月アパートに帰らないのなんてザラにあったし。
今もまた、どこか知らない人の家で寝泊まりしてると思ってるのだろう。――正解だ。
それでも、ふとした時に学校のみんなのことを思い出す。
特に、喧嘩別れのようになってしまった、愛梨のことが心配だ。
あの子のことだから数日休んだかもしれないけど、もう復帰している頃だろう。私があの日から一度も学校に来てないことを知ったら、――たぶん心配する。
そういう子なんだ、あの子は。
雄介くんのことを話さなかったのは、本当に悪いと思ってる。でも、言うわけにはいかなかったんだ。それが彼との、約束だったから。
浮気じゃない。――ああ見えて、彼も愛梨にゾッコンなのだ。
小学校の時からずっと一緒の学校に通ってる雄介くんからは、昔から恋愛相談を受けることがあった。そういえば小学4年生の時に告白されたけど断ったっけ。あれから私に告白してくることはなかったし、私と二人の時も他の女の子の話しかしなかったから、もう私のことはなんとも思ってないはず。
今回も、バイトを始めてお金が貯まったから、愛梨の誕生日に何かプレゼントしてあげたいと話していた。初めて手にした大金で(といっても高校生基準だが)何を買うか決まってないと言っていたから、買い物に付き合ったのだ。
その後一緒にご飯を食べたりはしたけれど、それだけ。これが浮気と言われたら雄介くんが可哀想だし、私だって親友の彼氏を奪う気は毛頭ない。
――それをあの時説明出来なかったのは、私の弱さだ。
雄介くんは、きっと正直に話したはずだ。でも、愛梨は言葉をそのまま信じなくて、穿った目で見ちゃうから。私が彼を奪ったのだと、そう思い込んでしまったのだろう。
そんなつもりは、本当になかったのに。
こんな世界はもうどうだっていい、――そう考えて間仲人見に話したはずなのに、それだけがどうしても心残りで。
二人が私の所為で別れちゃったりしたら、――ちょっとは、罪悪感もあるし。
まぁ愛梨の彼氏が変わるのは高校入学から度々あって、偶然4人目が私の幼馴染だったからちょっとだけ彼氏側に協力していたというのはあるけれど、何年もずっと付き合ってると信じられるほどでもない。それでも、だ。
朝起きると、もう10時を回っていたけれど、バスローブを脱ぎ捨て制服に着替え、メイクをばっちり整えて、しばらく引きこもっていた家を出た。
愛梨に一言、謝るために。
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