第38話 かりんの気持ち3
ここは新横浜駅の北改札口、私はここでナナちゃんと待ち合わせした。天気は絶好のお出かけ日和。今日はラーメン博物館に行って、ラーメンを食べたり、作ったり、買い物したりする。そして明日はナナちゃんの家にお邪魔する。2日続けて遊ぶ予定なの。
ちょうどやって来たナナちゃんと挨拶して、手をつなぐ。手からナナちゃんの体温を感じて、胸がドキドキした。それから2人で、ゆっくり歩いて、喋りながらラーメン博物館に向かう。
今は本当に幸せな気分。でも残念だけど、3月末からは再び魔法少女としての仕事が増えてくる。高校に通い始めるし、のんびりナナちゃんと遊べるのは、今年はこれで最後になりそう。楽しい時間が過ぎるのはあっという間だね。
「私とみかちん、3日前に地元の玄海田公園でインラインスケートで遊んだんです。結構上達しましたよ。バッククロスオーバーも出来るようになりました」
「へぇ、2人とも運動神経凄いもんねぇ。私より上達が早いわ。でも無茶しちゃダメよ。足を怪我したら大変だからね」
そんな会話をしながら、ラーメン博物館に到着。ゲート前でナナちゃんは上機嫌でスマホを取り出した。そしたらいきなりピタッと体が硬直。しばらく静止した。な、何だろう? するとナナちゃんは、笑顔でこちらを向きながら、こう言った。
「入場料は450円よ」
「は…… はい」
ナナちゃんの謎の硬直の意味が分からなかったけど、ラーメン博物館に無事入館。まずは1階のオリジナルカップラーメン製作所で魔法少女ラーメンを作るのだ。出来上がったラーメンを見て、私は少し照れ臭く感じた。パッケージ上半分には、以前プロモーション撮影時に撮った、リンクスが構えている姿。下半分にタイトル文字。「これはヤバイ。超自信作ヤバイラーメン」と印字してある。
ナナちゃんのラーメンは、パッケージの写真と文字が縦に分割していて、左側にジェミニちゃんの縦長写真。これは子ガイマ攻撃の時の動画の切り抜きだと思う。右側に「お店のような本格的な味 スゴイ☆ラーメン」と印字してあった。後でナナちゃんと2個交換するから、ジェミニ・ラーメンを食べたら、パッケージのフタをキチンと保存しないとダメだよね。
それから地下に下りて、再現された古い町並みを楽しみながら、からみそチャーシューメンを食べた。私は甘いのも好きだけど、辛いのも大丈夫。むしろ親は辛党だ。結局最後には、からみそは全部溶かして食べちゃった。次は地下1階の喫茶店。ここで照和レトロスイーツを食べる。2人でチョコレートパフェを食べながらお喋りする。
「ラーメン博物館って予想以上に面白い所ですね。ナナちゃんが通うのも分かります。でも、ちょっとお嬢様ぽい趣味じゃないですけど」
「まだそれを言うのね。私はお嬢様じゃなくて、ホントに、普通の一般人だから」
「でもフィギュアスケートはお金がかかるんでしょう? 裕福な家庭で無いと学べないんじゃ?」
「それは誤解よ。いえ、テレビに出てくるようなスケーターは、正しくお坊ちゃん、お嬢さんだけどね。一般的な家庭でも、趣味レベルではそんなに高くないわ。一般人よりちょこっと上手くなりたい程度なら、フィギュアスケート教室で月1万円。練習は一般滑走の貸靴セットで1回2,000円ぐらい。月極で1万円。ほら、自分のスケート靴を持たないなら、月2万くらいで十分なのよ」
「そうなんですか。でもそれ以上は?」
「少し本格的に、低級バッジテストも取りたいというなら、貸切個人レッスンで1時間で5,000円ぐらい。自分のスケート靴を用意するなら、靴とエッジの初心者セットで10万円。エッジは1年持つけど、靴は半年で交換として、プラス6万円で、定期的に整体や接骨院に行って、下半身をほぐす必要があるから、通院費年数万円ぐらい。合計で30万円ぐらい。小さな大会に出るとして、プラス15万円ぐらいかな」
「年30~45万円。まあそれくらいなら、一般家庭なら大丈夫そうですね」
「バッジテストが低級なら、出られる大会はほとんど無いけどね。5級以上は欲しい所。私はその段階でリタイアしたもの。小さな大会に出て、自分に才能が無いのが分かって。当時は悔しかったけど、今にして思えば才能が無くて良かったと思うわ。それ以上、上を目指すとなると、かかるお金が洒落にならないもの」
「そんなにかかるんですか……」
「そうよ。かりんちゃんは私のことを高く評価してるみたいだけど、本当の私は大したことのない雑魚よ。魔法少女パワーでズルしてるだけ。お嬢様でもヒーローでも無いのよ。ただ魔力値が高いだけの、普通の人間よ。だから大したことはないの…… どうでもいい存在よ」
「そんなことは無いですよ。命がけで戦ったじゃないですか。それで救われた人は沢山います。自分を卑下しないでください」
ナナちゃんの表情が陰る。私はナナちゃんのそんな表情は見たくない。胸が痛くなる。そうだよ、合体ガイマの時だって、空中戦や群馬での戦いだって、いつだってナナちゃんは懸命に頑張って、結果を出してきたじゃない! 誰がなんと言っても、私にとってナナちゃんはヒーローなんだから! そんな風に励ましていると、ナナちゃんは私を見つめて、ふんわりと笑った。
「ありがとう、かりんちゃん。あなたは優しい娘だわ」
「私は本当のことを言っただけですよ」
「……話の続きをしましょうか。次は目指せ☆フィギュアスケート、全国大会制覇コースね。少なくとも専用コーチをつけての個人レッスン年間100万円。練習も沢山するから、スケート靴は8万円の年4回交換で32万円。エッジ10万円。大会はブロック予選、全日本ジュニア、国体から県大会まで、大会に全部出れば50万円以上かかるかしら」
「ひえ~。200万円以上ですか」
「それだけじゃ無いわ。演技の振付に10万円、衣装10万円。整体や接骨院に通うのに年間10万円ぐらい」
「まだかかるんだ。衣装って結構するんですね」
「あら、これでもまだ安いほうよ。オーダーメイドだからね。テレビに出てくる有名選手だと、衣装100万越えはざらよ」
「おお~。まさにお金持ちのスポーツですね」
「そうなのよねぇ。国内大会だけで年間200万越え、これに海外大会出場となれば、300万越えは確実。だから私のお嬢様疑惑が消えないったら」
そんな愚痴を聞きつつ、調子の戻ったナナちゃんに安心した。でも、どうしてそんなに自分のことを悪く言うんだろう。そんば疑問を抱きつつも、帰りにお土産ラーメンを買って、ラーメン博物館から退館。
18禁ラーメンはやめとけと言われたけど、私は辛いのも大丈夫だから、あとで挑戦しようと考えていた。とりあえずそれは置いておいて、明日はナナちゃんの家でオリジナルラーメンの試食会だ。
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