第37話 禁断の愛
翌日。俺はかりんちゃんを迎える為に大倉山駅へ。無事合流を果たして、駅横の大人気パン屋へ直行。ばななパンはかりんちゃんも気に入ってくれたようで、二人でホールのばななパンや、色々なパンを購入した。それから、俺の自宅に行き、偽サトルの出迎えを受ける。
今回はナナの部屋に入る前に、ダイニングで俺、本物サトルが焼いたクッキーを摘まみながらお茶をする。エインセルが化けた偽サトルは、ダイニングにあるテレビで、魔法少女落ちもの系ゲーム「プチッと、りにあしゅーと」で遊んでいたが、何故か3人でゲーム対戦することになった。
「はははっ、今回も俺の勝ちだな」
「むぅ。サトルお兄さん強いですね。でも次は勝ちます。もう1回です!」
どういうわけか、偽サトルとかりんちゃんの白熱したバトルが繰り広げられた。かりんちゃんは純粋で気持ちの優しい女の子だと思っていたが、意外と負けず嫌いだった。予想外の側面に俺は驚いた。
いやいや、よく考えれば当然か。
言い方は悪いが、魔法庁は年がら年中、ガイマと殺し合いをやってる組織だ。そこの最前線に所属する魔法少女が気弱なわけがない。かりんちゃんは、性格が優しい女の子なのは確かだが、戦いと勝負ごとは別腹なんだろう。と、そこへインターホンが鳴った。応答すると宅配便の声。そうだ、忘れてた。通販で魔法少女のぬいぐるみ「もちもちコマちゃん」を購入してたんだ。
今日が配達だったか。対応するために俺は玄関へ。その前に偽サトルに釘を刺しておく。
「宅配便が来たから、私は玄関に行くわ。お兄ちゃん、かりんちゃんに変な事したらぶっ飛ばすからね!」
「そんなことしねえよ。俺をなんだと思ってるんだ」
ヘンタイな妖精だと思っているが。まあとにかく、宅配便を受け取って、かりんちゃんを回収。さっさとナナの部屋に入る。エインセルに全部任せるとロクでもない事になりそうだからな。
箱から出した「もちもちコマちゃん」の感触をかりんちゃんと楽しむ。そこから部屋に置いているノートパソコンで、これまでの出来事を振り返った。まずは合体ガイマの動画を視聴、この時かりんちゃんは俺に声を掛けたそうだが、全然気づいてなかったよ。
それから群馬県高崎市のハウスイーター戦、子ガイマ戦。観音山ファミリーパークでの妖精との空中ダンス。バーベキュー場での交流の動画を見た。しかしなんていうか…… かりんちゃん俺のこと、もの凄く高く評価してね? 頬を赤く染めながら、興奮してジェミニを褒めたたえてくれる。勿論嬉しいといえば嬉しいが、過大評価が天元突破してる気がするんだが……
「あの時は本当にピンチだったんですよ? そこへ爽快と駆け付けたジェミニちゃん。凄いキラキラな魔法で合体ガイマを瞬く間に粉砕して、私あの時、天から女神さまが現れたと思っちゃいました!」
「子ガイマとの戦いは、本当に助かりました。ジェミニちゃんがいなかったら、町が吹き飛ばされましたよ。子ガイマをやっつけるジェミニちゃんのカッコイイ姿。あぁ…… 生で見られて最高でした。今でも夢に見ます!」
「ファミリーパークでのこのダンス。ジェミニちゃんの美しい心が、妖精を呼び出す魔法になったんです。私凄く感動して、思い出すと涙が…… フフフ、それからジェミニちゃんと会話して、私幸せ過ぎて気が遠くなってしまいました」
「い、いえ……。そう言ってくれるのは嬉しいけど、私なんか大したことしてないよ」
「なんてこと言うんですか! ジェミニちゃんは最高で最強の魔法少女ですよ! ナナちゃんは自分の価値を分かっていないです。まさに迫りくるガイマの危機に現れた、私達の救世主なんです。私はジェミニちゃんにどこまでも付いて行きますとも」
こんな調子だ。これじゃあジェミニのファンを通り越して、ジェミニ教の信者だよ。俺は笑顔が思わず引きっつった。興奮するかりんちゃんを宥めて、今日の本来の目的に軌道修正する。本日は、昨日作った魔法少女ラーメンの試食会をするつもりだったのだ。俺は部屋を出て、やかんに火をかけてお湯を沸かす。それから割りばしの準備をしてと……
ラーメンを作る準備をしていると、いきなり偽サトルに背後から抱き着かれて、唇を奪われてしまった。
しまった! 完全に油断してたわ!
「んっ、んうぅ……」
こんのぉ、エインセル! かりんちゃんが部屋に居るというのに。いや、居るからこそ仕掛けてきたか。舌まで口に入ってきて絡め合ってしまう。俺は抵抗しようとするが、あまり騒いでかりんちゃんに気付かれるのはマズイ。
俺の手は所在なさげに、偽サトルの背中を彷徨う。偽サトルにガッチリ頭を固定され、キスを受け入れてしまう。あぁ……、ダメだ。エインセルの巧みで濃厚なキスに動揺して、ドキドキして目が潤んでしまう。
この野郎……
いつまでもエインセルの手のひらの上だと思うなよ。俺はなんとか偽サトルの後頭部に手をやり、髪の毛を思い切り引っ張る。偽サトルはのけ反り唇が離れた、偽サトルと俺の唇に、唾液が糸を引く。
「いたた……」
「ちょっとエインセル、何のつもり? かりんちゃんに見られたらどうするつもりよ」
「い、いやぁ。普通にキスしても平然と受け流されるからさぁ。こういうシチュエーションだとサトルも興奮するかと思って」
「このヘンタイ妖精。最近ちょっと調子に乗り過ぎよ。もうお湯も沸いてるし、とにかく離れて」
小声で口論ののち、俺は偽サトルを強引に引き離した。それから偽サトルをサトルの部屋に押し込んで、出てくるなと厳令。髪の乱れを直して、やかんを持ってナナの部屋へ、かりんちゃんは、ラーメンを開けて準備していた。
「お待たせしたわね。お湯持って来たわ。さっそく注ぎましょう」
「は…… はい」
俺はかりんちゃんに笑いかけるが、かりんちゃんの様子が変だ。少し頬が赤いような…… そりゃさっき俺の話で興奮してたからなぁ。興奮が冷めて気まずくなったのだろうか? とにかくラーメンをお湯を注いで、蓋を閉める。早くできないかぁと無言で待っていると、かりんちゃんから話かけてきた。
「あ、あの…… ナナさん……」
「ん、なあに?」
「き、聞きたいことがあるんですが…… あっ、嫌なら… いいんですけど…」
「いいわよ。なんでも聞いて」
「そ、その…… ナナちゃんて…… サトルお兄さんに…… 恋してるん…… ですか?」
ほほぉ、そう来たか。どういう経緯でそういう結論に達したかは知らんが、これまでの工作が功を奏したか。ここはナナのブラコンを印象付けるチャンスだ。ではさっそく、と、口を開きかけて、ローテーブルの上に置いてあるナナのスマホが目に入る。んんっ!? ひとりでにロックが解除されてたと思ったら、いきなり動画が再生され始め……
「!!!!」
俺は超音速かつ無音で、スマホを回収して胸に押し付けた。かりんちゃんのほうに目を向けると、彼女はうつむいていた。
セーフだ! セーフ!! 動画を見られていない!!!
さっきの動画は、俺の! ナナの! 夜のお楽しみ動画だった!!
この動画を持っているのはエインセルだけだ。スマホのロックを自動解除して、動画を勝手に流す芸当が出来るのもエインセルだけだろう。
あ、あんの野郎! とんでもない事しやがって!!
音声が出ていないのだけが救いだな。これで声が出ていたら、叫びながらエインセルに殴りかかっていた所だぞ!!!
俺はひどく動揺して、顔と体が熱くなりブルブルと震えた。瞳は潤んで、今にも泣きだしそうだ。
とにかく! かりんちゃんが帰ったら、あいつは1日説教コース確定だ! どういうつもりでこんなことをしたか、たっぷり問い詰めてやる!!
「あ、あの…… ナナちゃん?」
顔を上げたかりんちゃんが、俺を心配そうに見る。そうだった。質問に答えないと! さっきからハプニング続きだが、今が「ナナはブラコン」を印象付けるチャンスなんだ。吠えろ、俺の演技力!
「ンフフ…… ウフフフフッ…… やっぱり… 分かっちゃう… か」
あかん。さっきの動揺が尾を引いて、変な笑い声になってしまった。だがしかし、ここは強引に押し切らせて貰う!
「私が杉裏戸出身だということは…… 前に話したけど。その時、両親が死んでしまって…… 一時期叔父さんの家で世話になって…… お兄ちゃんが高校に進学する時に、ここで2人暮らしを始めたの……」
「そう… だったんですか…… 私… ごめんなさい」
「謝ることはないわ。叔父さんも忙しくて…… だから家の家事や通学は大変だったのよ? 料理や洗濯、お掃除も…… 親がやってくれたことをお兄ちゃんと二人で頑張ってやって、乗り越えてきたの……」
「…………」
「いつも兄妹で家事をして、一緒に遊んで、お風呂に入って、洗濯物を干して、抱き合いながら眠って…… 2人で生活を築いて… ある時気が付いたら、お兄ちゃんのこと…… 男として好きになっていたの……」
これでどうだ!?
ここで俺はしばらく無言、そしてうつむく。
さりげなくスマホを確認すると、動画は止まって、いつものロック画面になっていた。よし。次にかりんちゃんの様子を確認。かりんちゃんは、口に手を当てて、目を見開いて驚愕の表情。
よーしよしよし。上手くブラコンを印象付けたぞ。ちょっと驚きすぎな気もするが、かりんちゃんは優しく純粋な娘だ。たとえプラトニックな恋愛だとしても、兄に恋してるだなんて、結構なショックなんだろう。ここで緊張した空気を和らげるか。俺は笑顔でかりんちゃんに話しかける。
「というわけで、私の恋バナはここまでね。じゃ、ラーメンも出来たことだし、食べましょうか」
それから2人で、ラーメンの試食を開始。むふん。このジェミニ・ラーメンの濃厚味噌味はなかなかイケるな。角煮チャーシューとの相性もいい。かりんちゃんのリンクス・ラーメンを見ると、ワンタンとたこさんウィンナーと煮玉子が入ってるのが見える。なんか具のチョイスが可愛らしいな。
だけどかりんちゃん、さっきのが衝撃的すぎたのか、あまり元気がない。話しかけると笑って返事してくれるけど、心ここにあらずだ。
それから時間が過ぎて夕方。
俺はかりんちゃんを菊名まで送ることにした。その前に、俺はサトルの部屋に突入。エインセルを糾弾する。
「ちょっとエインセル! どういうつもりよ!」
「ちょっ、いや、あのタイミングで流すつもりはなかったんだ! 操作ミスの誤爆だ、誤爆!」
「うるさい! あとでたっぷり聞かせてもらうからね、覚悟しなさい!」
それから玄関で待っていた、かりんちゃんの元へ。
するとかりんちゃんは、決意をした目で、自分の思いを告げる。
「ナナちゃん。私もナナちゃんの恋を応援するね。いろいろ難しいこともあると思うけど、でも、私はナナちゃんの本当のお友達だから。どんなことがあってもナナちゃんの味方だから…… だから、ナナちゃんは一人ぼっちじゃないよ!」
俺は目を丸くして驚いた。やはりかりんちゃんはいい娘だな。俺は笑顔で答える。
「ありがとう。かりんちゃん」
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