第33話 かりんの気持ち


「♪~」


 観音山ファミリーパークで、初めてジェミニちゃんとお話ししてから1か月。やっと今日、ナナちゃんと一緒に遊びに行けるのだ。場所は中華街で決まった。私はいつも長津田か相模原だ。中華街は行ったことはあるけど、詳しくはない。


 そこのエンターテイメント施設で、なんとチャイナドレスを着て、写真撮影が出来るらしいのだ。私はチャイナドレスなんか着たことないから、とても楽しみ。ナナちゃんは、お金がかかることを心配していたが、大丈夫大丈夫。3万円ぐらい余裕で準備できるよ。


 魔法少女の貴重なオフシーズンは、1月中旬から3月末。それ以外は、ガイマ退治に訓練に、お勉強にと忙しい毎日なのだ。正直、お金を使う余裕も無い。それに総本部や支所なら、食事やお菓子、お茶なんかは無料なので、お金が使う機会も無いから、貯金は溜まりまくっているのだ。



 そして今日もみかちんと長津田駅で待ち合わせて、一緒に横浜に出かける。みかちんにチャイナドレスの写真撮影の件を話したら、行きたがったので、みかちんも一緒に連れて遊ぶことになったのよ。


 JRの電車に乗って、東方向、横浜駅へ向かう。5つ目の駅が新横浜。そこから菊名、大口、東神奈川を通って横浜に到着。そこで、みなとみらい線に乗り換え。終点の元町中華街駅に、長津田から40分ほどで到着。待ち合わせ時間より20分早かった。私は改札前でツーラインに連絡を入れる。それから10分ほどして、ナナちゃんがやって来た。



「おはようございます。かりんちゃん、みかさん」


「おはようですナナさん。エヘヘ……」


「おはよーございます」



 初めてナナちゃんの変身前の姿を見たけれど。なんかナナちゃんは、大人なお嬢様の雰囲気。黒いワンピースにカラースカートを重ね着。デニムのジャケットを羽織ってる。瞳は私の髪と同じパンプキン色だけど、髪は紫色。すごーい。変身して髪色が変わる魔法少女なんか、初めて見たよ。


 ナナちゃんと私達は、中華街に向かってお話しながら歩く。ナナちゃんはあれから、2日ほど群馬県を観光したんだって。私も一緒に遊びたかったな~。


 それから地上に出て、中華街に入り、横浜大世界前の喫茶店に入った。チャイティーなんか飲んだこと無いけど、おいしいと思った。ナナちゃんによると、店によってはスパイスが効きすぎることもあるから、この店のチャイティーは、比較的飲みやすいらしい。



 私達は、チャイティーを楽しみながら、しばしお話。ナナちゃんが以前、杉裏戸に住んでいた事を聞いてビックリ。ナナちゃんの歳は、私と同じ15歳と聞いたから、

3~4歳ぐらいで、あの事件に遭遇したんだ。私なんかお家で、のほほんと暮らしていた時期だ。波乱万丈な人生だよ。


 それに魔力値を聞いてビックリ。200%! 私そんな魔力値聞いたことないよ。間違いなく日本一の魔力値だ。やっぱりナナちゃんはすごーい。一方、ナナちゃんは、私達の待遇に興味深々だった。



「へえ、まあ年俸に関しては、公開されてるから大体知ってるけど。モナセロスさんが3400万円。かりんちゃんで2400万円か。それにしても、ガイマを倒しても報奨金が出るのね。それにキャラの版権やTV出演。ゲームなんかのギャラが意外に高い。結構な収入になるのね。そりゃ命掛けてるんだから当然か。こうして見ると、公務員ぽくない収入獲得法ね。それだけ魔法少女を大事にしてるのか……」



 現在、日本では魔法少女が1、2位を争うほどの高収入だ。その代わり魔法少女として活躍できるのは、12歳~19歳くらいまで。だから公務員としては異例の年俸制なんだけどね。


 ベーシックインカムが始まってから、それ以前の高収入の仕事は軒並み崩壊。野球選手やサッカー選手でも年俸2000万円が限界。それはアメリカのメジャーリーグでも同じ。サラリーマンも年収700万ぐらいが限界なんだって。だからハリウッド映画の俳優、スポーツ選手なんかも激減。でも低収入の仕事は、そんなに変わらず、むしろベーシックインカムの分、収入が増加して元気らしい。


 魔法少女は、歳をとって変身できなくてなっても、魔力は残るし魔法も使える。そういう人を魔法庁は再雇用して、魔道師として仕事をさせるの。年収は700万円ぐらい。今はまだまだ各方面で魔法を使える人材が不足してるから、30年ぐらいは年収はこのままだけれど、数が揃ってきたら、年収は下がるかも知れないって、魔法庁の勉強会で言ってたよ。



 その後もナナちゃんは、関東総本部と支所の様子や、人間関係。無料の食堂のことや、様々な手当。有給休暇に病気やケガの対応。法律の訴訟関連。死亡時の遺族への給付年金とか、色々な事を細かく聞いて来た。私達でも答えられない質問もあって、そういうのは冊子に書いてあるんだけどね。あれは部外者には渡せないのよ。


 そんなことを話してると、あっという間に時間が経って、横浜大世界に行く時間になった。ナナちゃんは、質問攻めにしたことを謝った。



「ごめんね。魔法庁で働くのか迷っているから、出来るだけ情報を知りたいのよ」



 私としては全然大丈夫よ。出来ればナナちゃんも魔法庁に所属して、一緒に働けたらなぁ。て期待してるけど……




 そして横浜大世界に到着。1階で「だいろんぽう」とか言うスープを掛けた肉まんや、ごま団子串なんかを食べてから、3人で変身写真館へ。撮影の為にチャイナドレスに着替える。私とみかちんは、可愛い感じになったけど、ナナちゃんは大人な雰囲気。


 撮影では、真ん中に椅子に座って足を組んだナナちゃん。両サイドを私とみかちんで固める。手に扇子を持っての笑顔で撮影。写真を大判でプリントして貰った。やったー、ナナちゃんとみかちんとの写真だ。これは額に入れて部屋に飾っておかないと。



 撮影が終わってから、茶房で一服。スマホで撮った写真を見せ合い。そこから小学校の時にどんな遊びをしていたか、というお話になった。私達が小さい時によく行ったのは、長津田から専用の電車が出ている「こどもの国」なんだけど、なんとナナちゃんも、そこで遊んだことがあるんだって。


 こどもの国は、広大な自然豊かな公園に、子供が遊べる色々な遊具や乗り物や施設があるんだよ。林に沢山ある道を歩いてもいいし、ミニSLや園内バスで移動してもいい。レストランや牧場もあるし、動物園やプール、サイクリングコースやボート乗り場もある。いつも子供たちで賑わっている公園だね。



「こどもの国には何回か行ったわね。長津田から乗り換えで、東急唯一の単線路線だから印象に残っているわ。北の野外プールの隣に、アイススケート場があるでしょ? あそこで数回滑ったことがあるわ」


「そうなんですね。へぇー、じゃあ子供の頃に、私達と会っていたかも知れないですね」


「そうかもね。あそこでハマったのは、何といってもレストランね。こどもの国牧場は自家製の牛乳が生産されてるでしょ? 確かサングリーンと言ったかしら。あれを使った料理、牛乳ラーメン、冷やし牛乳ラーメン、カルボナーラ、牛乳うどんは全部美味しかったわ」


「えー、私達も牛乳ラーメン食べたことあるけど、あれ牛乳が入った、ただの塩ラーメンじゃん」


「そうだけどね。他には無いラーメンだから、希少性はあると思うわ。ああいう料理こそ、旅の思い出になると思うの」


「あそこの牛乳なら、私はアイスクリームをお勧めするよ」


「それには同意するわ。あの濃厚すぎて夏でも溶けないアイスクリームね。いつも行列作っているけど、あれは並んで食べる価値があると思う」


「あれ美味しいですよね。私はワッフルコーンで食べるのが好きです」



 前の会話でも話題になったけど、ナナさんて、本当ラーメン好きだよね。ラーメン博物館に通っていると言ってたけど、今度3人で行きたいな。日が傾いてきたので、私達はお話をやめて、横浜大世界の向かいにある、キラキラの中華寺にお参りすることになった。


 ナナちゃんは前に1回来たことがあるらしく、私達に参拝の作法を教えてくれる。


 ビックリしたのは、自販機で買ったお線香。物凄く大きい。家の仏壇で差したら、灰皿がひっくり返ちゃうよ。近くにいたおばちゃんに線香を渡して、七輪で点火してもらう。そりゃあこの大きさだもんね。ライターで火を付けたら凄い時間がかかっちゃうよ。


 ナナちゃんの見事な解説を聞きながら、私達はお線香を立てていく。なんだかナナちゃん。社会見学の時の先生みたいになってる。


 それにしても、フフッ…… ちゅうせいにゃんにゃん、だって。可愛らしいお名前の神様ね。なんか食器洗剤みたいなお名前にも聞こえる。


 後は「赤い糸伝説」の元の神様、月下老人。にゃんにゃんのインパクトが強すぎて、他の神様はまるで覚えられなかったよ。 



 お寺のお参りが済んだ私達は、パンダ専門店でお買い物。ナナちゃんが探していた電動パンダを見つけて、喜んでいた。可愛らしかったので、私とみかちんも電動パンダを購入。それから気になったパンダ商品を色々買って、今日の予定は終了だ。


 そして、帰りの電車の中で、今度はナナちゃんの家で遊ぼうと誘われた。でもいいのかな? まだ1回しか遊んでないのに。


 ナナちゃんとの遊びは楽しかったけど、ほとんど初対面の私達で家に押しかけたら、お兄さんの迷惑にならないかしら? そう思って、ナナちゃんに聞いてみたけど……



「いいわよ。だって私達、お友達じゃない。お友達を家に呼ぶのは当然でしょ?」



 お友達!!


 ナナちゃんそう言ってくれた。私達を友達と認めてくれたんだ。うわー、なんか凄く嬉しい。ナナちゃんともっともっと仲良くなれるね! 私は勢い込んで、ナナちゃん家で遊ぶ約束をした。



「はい。お友達です! それじゃあ来週またお願いします!」





 それから家に帰って、3人で撮った写真を飾ったり、パンダのぬいぐるみを両親に見せたりしてたら、関東総本部からお電話。ジェミニ・パラックスの情報を知りたいんだって。はいはい、分かってますよ。一応八木さんにもナナさんと遊ぶことは連絡してたから、その様子を知りたいんでしょうね。といういわけで、みかちんと2人で関東総本部に出頭した。



「そう、ナナさんにはお兄さんがいるのね? ふうん。こっちの待遇に興味があるのか。魔法庁で働くか迷っているのね?」



 八木さんは、細かいところまで、根掘り葉掘り聞きだしてきた。なんかやな感じ。私はナナちゃんのお友達として遊んでるだけなのに、まるでナナちゃんが悪い事してるって、疑っているみたいな聞き方だよ。私は胸の中でモヤモヤを感じた。

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