第29話 横浜デート?


 俺は群馬県から帰還してから、仕事漬けの毎日だった。12月末から1月中旬まで、新横浜スケートセンターに足繫く通っていた。今は冬休み集中スケート講習の期間だから、生徒もバンバン来る。それにどこかのスケート魔法少女のおかげで、客は増加傾向だ。2月くらいまでは、それなりに忙しいだろう。


 2010年が終わり、2011年の始まり。年始はエインセルと共に迎えた。



「明けまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」


――――あけおま、ことよろ。


「お前なぁ、省略すんなよ。この重々しい挨拶がいいんだろうが。まったく、変な習慣ばっか真似しやがって」




 正月3日は基本、俺は毎年寝正月であり、今回も家でダラダラしていた。叔父さん家にも出かけて新年の挨拶と群馬県の土産を渡す。6日からは新横浜スケートセンターでの仕事だった。


 かりんちゃんからの連絡で、7日の魔法少女交流会の準備で、魔法少女達も忙しいようだった。冬は大体、ガイマの出現はほとんど無い。群馬県の出現以降、ガイマはめっきり姿を現さなくなった。出たとしても、レベル1が1体程度なので、警備隊や警察で排除可能だ、


 かりん達も、交流会の後は本格的なオフシーズンが始まるとツーラインで言っていた。俺の渡した動画は、魔法庁サイトにて7日に公開、魔法少女捜索隊ブログやニッコニコ動画でもニュースとして取り上げられ、ネットで大きな盛り上がりを見せた。



 今の所、魔法少女の中でしょっちゅう連絡のやり取りをしてるのは、かりんちゃんだけ。モナセロス先生からは動画公開決定の連絡1回のみだった。やはり、かりんちゃんが魔法庁の代表として、俺との情報交換の窓口になるようだった。


 さて、仕事もある程度落ち着くと思われる2月初めに、俺はかりんちゃんと横浜に遊びに行く計画を立てている。どこに行けばいいか。とりあえず俺が行きたい所はラーメン博物館だ、冬だからラーメンも上手いしな。けど中学生ぐらいの女の子を連れて行くのには向かないか? いや、別に中に照和気分に浸れるレトロな喫茶店はあるし、女の人も沢山来てるんだけどな。



 そんな風に考えてると、ふと、思い出した事がある。そういや横浜中華街には「横浜大世界」と言う名の総合エンターテイメント施設があるのだった。あそこにある写真館は、チャイナドレスのコスプレをして写真を撮ったり、館内をうろつけるのだった。以前から興味を持っていたが、ナナの姿ならば、チャイナドレスの姿も映えるだろう。


 みたいな事を、かりんちゃんに伝えると、彼女はあまり中華街に行ったことは無いようで、大いに食いついて来た。けどなぁ、あそこで遊ぶとなれば、結構お金を使うぞ。写真館のコスプレだけでも5000円。他に食事や買い物代などを考えると、余裕を見て3万円ぐらい用意しないとダメだろう。



 が、かりんちゃん的には、それぐらいの出費は余裕だそうな。むしろお金が溜まりまくって、使える時に使いたいんだそう。さすがは、現在日本で1、2を争う高給取りの魔法少女だけはあるか。


 というわけで、2月初旬に、横浜中華街でかりんちゃんとデート? することになった。それから一緒に遊びに行くのは、かりんちゃんとその友達の【ヴェルペキュラ・アンセル】さん。名前はみか。というらしいが、3人で中華街に行くことになった。


 まあ当然だな。良く知らない俺と遊びに行くんだ。みかさんは、護衛兼お目付け役といったところだろう。待ち合わせは、みなとみらい線の「元町中華街駅」の改札でということになった。



――――ふぅ~ん。それで中華街に行くことになったのね。私もついていっていい?


「勿論だ。不測の事態になる可能性もあるからな。エインセルが居てくれたほうが心強い」


――――それにしても、かりんちゃんて、いい娘そうだったけど、本当に魔法庁との窓口になりそうなのかしら? 突然泣き出した時はビックリしたけど。


「あれはなぁ…… 根はいい子なんだと思うよ? だけどまだまだ経験の少ない子供だ。魔法庁の命令からのプレッシャーなんかもあったんだろ。命令通り、なんとか俺と接点を作ることが出来て、安心して泣いちゃったんだと思う。情報交換は既定路線だからな。彼女はあまり追い込まないように、優しく接してあげないとな」






横浜市中区山下町 みなとみらい線 元町中華街駅


 というわけで、ナナに変身してやって来ました。ここは、みなとみらい線の終点、元町中華街駅。


 みなとみらい線は、横浜駅から元町中華街駅までを結ぶ6駅の路線だ。横浜から、みなとみらい中心部を通って、横浜市役所前を経由して、中華街に至る。軟弱な地盤の埋立地の為、みなとみらい線は地下4階~5階の深い所を通る。全線地下を走ってるが、地下鉄ではないらしい。地上では合体ガイマとの戦いがあったが、ここには被害らしい被害は発生しなかったようだ。


 かりんちゃん達は、JRで横浜駅まで出て、みなとみらい線に乗り換える予定。俺は大倉山駅からそのまま乗って到着した。東急東横線とみなとみらい線は、相互直通運転を行っているので、乗り換え無しでここまでやって来れるのだ。



 横浜中華街のお店は、大体10時半ぐらいに開けるので、11時に待ち合わせとなっている。今は10時45分ぐらい。だがツーラインでの連絡で、二人はすでに改札で待っているとか。二人とも随分せっかちだな。


 この駅は地下深くにあるので、長いエスカレーターで上へ上る。そして中華街・山下公園改札を出ると、すぐに待っている2人を確認した。向こうもこちらに気付いているようで、手を振って来た。俺も振り返す。魔法少女同士だと認識阻害が効かんからな。顔見りゃ分かる。



「おはようございます。かりんちゃん、みかさん」


「おはようですナナさん。エヘヘ……」


「おはよーございます」



 かりんちゃんの恰好は、長袖Tシャツの上にキャミソールワンピース 上に白いカーディガンを纏った可愛らしい格好だ。みかさんは、パーカーにロングスカート。2人ともカジュアル王道という感じ。ようするに普通の格好だ。


 対して俺は、長袖ロング丈の黒のワンピースに、緑のカラースカートを下に重ねている。以前コーディネーターに指南された格好だ。俺自身もこれは結構気に入っている。カラースカートは、緑、青、オレンジの3種あり、着回しが非常にしやすい。秋口ならこのままでもいいが、今は冬なので、長袖ラウンドネックのデニムジャケットを羽織っている。



「フフ… ナナさんの私服姿初めてみました。大人っぽくて素敵ですね。それに髪は紫色だったんですね。瞳は同じオレンジ色ですが」


「褒めてくれてありがとう。それほどでも無いわ。魔法少女の時より大分地味でしょ?」


「ですけど、今の方がよりお嬢様っぽい雰囲気です」



 かりんちゃんまで俺をお嬢様扱いか。まあナナは顔も良く、スタイルも抜群なので何着ても似合うんだが、特に大人っぽい雰囲気の服の方が顔が映えるとは、コーディネーターの言だ。全員、スマホと財布しか入らなそうな、小さなバックやポーチしか持ってない。皆アイテムボックスを使用できるので、買い物したらそこに入れるつもりだ。といわけで早速出発。



 俺たちは、先にあるエスカレーターで再び上って、短い階段を上がり地下通路に出た。ここは長い長い通路で、しばらく歩くことになる。俺は群馬県の後の話を振る。彼女達は、あの後すぐにヘリに乗って相模原に帰り、その後はレポートを出して、すぐに魔法少女交流会の準備で忙しかった様だ。


 俺は群馬県での観光の話をする。榛名山やカルビラーメン、焼きまんじゅうの話をした。かりんちゃんは横でちょこちょこ歩き、俺を上目遣いに見て、ニコニコしながら話を聞いてくれる。なんかあれだな、猫娘のくせにやたら行動が犬っぽくないか? 何でか知らんが、俺に凄い懐いている感じがする。みかさんは普通の反応なんだが。



 というわけで、長い長い通路の終点。突き当りの階段を登って地上へ。外に出たらすぐ左折。すると道路を挟んで向かいに、中華街の入り口の朝陽門が見える。道路を渡って朝陽門をくぐり、開港道に入る。



「そういえば、かりんちゃんやみかさんは、あまり中華街に来たことは無いのね?」


「はい。数回来たぐらい。最後は小学校の時、山下公園のイベントで来てマリンタワーを登って、赤い靴はいていた女の子像見て帰りました」


「フフフ、あの像ね。皆に靴を触られ過ぎて、地金が出て、赤い靴じゃなくて金ぴかの靴を履いた女の子像になってるわね」



 俺たちは雑談しつつ開港道を進み、最初の二股の道を左に進み、南門シルクロードという道に入り南下する。なお、この二股の道路の間に大きな歩道があって、ここが中華街大通り、中心部に行きたい場合は、この歩道を進んで、横浜中華街の象徴的な玄関口として有名な、善隣門に至るまでがメインストリートだ。高校の時に食べ歩きに来たときは、いつもこっちのコースで行ったっけ。


 さて、南門シルクロードを数分進めば、横浜大世界に到着するが、ここで休憩タイム。途中のチャイティー専門店に立ち寄ることにした。ここのチャイティーは、スパイス薄めで飲みやすいので俺は好きだ。食券を買って注文する、喫茶店というよりイートインといった感じの店だ。



 3人とも注文は、スタンダードチャイ480円とした。6種のスパイスとスリランカ産のウバ茶を使用した自家製のマサラチャイだ。ミルクと豆乳、黒蜜入りと無糖を選択できる。全員、ミルクと黒蜜入りを選択。1階席はスタンディングだが、2階席はカフェスペースになっている。俺たちは2階のカフェスペースの椅子に腰かけて飲むこととする。



「あの、ナナさんは中華街は詳しいのですか? やっぱり横浜生まれなんですか?」


「まあ横浜は長いけど5年くらいかしら。それ以前は埼玉の杉裏戸に住んでいたわ」


「杉裏戸!」


「まさか……」


「そう、そのまさかね。初のガイマの大規模襲撃の現場に居たわ。それから家に住めなくなって、叔父さんの所に一時期住んで、今は兄と共に港北区に住んでいるわ」


「お兄さんがいるんですね?」


「ええ、兄と2人暮らしよ。お兄ちゃんは私が危険なことに関わるのを心配してくれている。私もお兄とゃんとは離れたくないの。あっ、これが私のお兄ちゃんよ」



 と、俺はスマホを見せる。壁紙は、サトルとナナが笑顔で抱き合っている写真を設定してある。ナナの方が俺で、サトルはエインセルが化けた姿だ。「ナナはブラコン作戦」の演出だ。こういった演出をエインセルといくつか仕掛けている。かりんちゃんとみかさんは、その写真をじっと見る。



「フフ、仲がいいんですね?」


「なかなかハンサムなお兄ちゃんですねー」


「そうね。楽しい時もつらい時も、ずっと一緒に乗り越えてきたの。だから私が魔法少女になって戦うことを凄く心配してくれる。自分で言うのはなんだけど、私は強いから心配しないで、とは言ってるけど…… だから魔法庁で働くか迷っているの」


「あの、ずっと前から気になっていたんですけど、別に嫌ならいいんですけど…… ナナさんは魔力値いくつなんですか?」


「200%よ」


「「200%!」」


「す、凄い魔力値ですね……」


「でもなっとくー。それぐらい無いと、あんな凄い魔法使えないもん」



 かりんちゃんはキラキラ目で俺を見て尊敬のまなざし。みかさんはフンフンと納得顔。ただなぁ、どんなに魔力値が高くとも、俺は基本経験不足、訓練不足だからなぁ。なかなかガイマとの戦いも上手く行かん。早く堂々と訓練できるようになりたいもんだ。かりんちゃん達も魔力値を教えてくれた。2人の魔力値は110%なんだそうな。


 魔法庁の基準では、魔力が30%以下に割り込むと、戦闘不能と判断され、ガイマが暴れて被害が出ていても、問答無用で退却しなくてはいけない決まりになっているとか、ほぅ。魔法少女を大事にしてるんだなぁ。割とホワイトな職場なのか。ということは、かりんちゃん達が戦闘で使える魔力は80%。俺の戦闘での使用可能な魔力値は170%、かりんちゃん2人分ぐらいになるのか。再びかりんちゃんからの質問。



「ナナさんは中華街には詳しそうですけど、いつも来てるんですか?」


「最近は寄ってないわね。久しぶりよ。今は新横浜のラーメン博物館に通ってるわ。あそこはラーメン屋や喫茶店、居酒屋なんかもあるのよ」


「ナナさんて、ラーメン好きなんですか? お嬢様ぽく無いですよね」


「だから言ってるでしょう。私は庶民の一般人だって。それより私も質問いい? かりんちゃん達は普段どこで遊んでるの?」


「私達は長津田出身です。あそこは魔法庁の第1支所があって、私たちはそこの所属です。長津田だと、ショッピングモールのアピタ長津田一択ですね。横にホームセンターと玄海田公園という大きな公園があります。バーベキューが出来て、遊び場とグラウンドもあります。アピタでブラブラ買い物して、公園で散歩みたいな感じです」


「後は相模原。いっつも居るのは、駅ビルのショッピングモールのセレオ相模原。これからの季節は、駅近所のボーリング場と大型リサイクルショップ。大きな焼き肉屋さんにお好み焼屋さん。食べ放題がいいよ。年に1回、さがみ湖のアスレチックパークに泊まり込みで行くよー」


「なるほどねぇ、第1支所と関東総本部か。どうしても職場の近くになるわね。そこには魔法少女の皆で行くのかしら?」


「それと元魔法少女の魔道師さん達だねー。魔道師さんが車出してくれるの。総本部の無料送迎バスもあるよ。良くおごってくれるー」



 ははぁ。後輩を可愛がってくれるわけか。魔道師と魔法少女のコミュニティーが形成されてるわけね。福利厚生もシッカリしているようだ。こうして聞いてみると、なかなか良い職場に思える。そんな風に雑談してると、気が付けば40分ほど店に居座っていた。写真館に予約してるし、そろそろ横浜大世界に行かないと。この店から出て南に歩けばすぐだ。


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