第26話 接触作戦開始


 高崎市斎場の北の森を飛び出した俺は、高度50メートル、時速30キロの低速で森を西へ横切る。ここから観音山ファミリーパークまではすぐなので、急いで移動する必要は無い。


 今回の接触作戦の第1の目的は、魔法少女達の歓心を買うこと。友好的な関係を築き、プレゼントを贈り信頼関係を築く。


 第2の目的は、俺が事前にジェミニ・パラックスで撮影したコメント動画を渡し、魔法庁のサイトに掲載してもらうこと。これはネットの騒動を止める火消し動画であり、世間に対する俺の自己紹介でもある。


 この2つの目的が達成されれば、今回の作戦は終了ではあるが、先方が希望するなら、ツーラインのアカウントではあるが連絡先を交換するつもりである。こちらの情報もある程度は流れるが、一方的に向こうの情報ばかり得るのは、フェアでは無いからな。


 ということで、俺はこの作戦の為に、新装備を使用することにした。



「さあ、出てきてライト・フェアリー達!」



 俺の呼びかけに胸の大きな金色の宝石、アストランティアが光り、中から全長20センチ程の、白く光り輝く妖精が8体出現した。この妖精たちは、俺と同じ速度で飛行し、追従してくる。


 この妖精たちは、ゴーレムロイドと言われるロボットの妖精ドローンだ。人工知能を持ち、ある程度の自立機能を持っている。俺の命令を聞き、離れて追従させたり、体にひっつけたり、発光色を変えることができる。マギアプリでの細かい調整も出来る。


 もともとこれは、エインセルに貰ったもので、空中戦や格闘戦が苦手な、ジェミニ・パラックスの為の補助装備として使うことになった。空中戦の後、俺はエインセルにどうにか空中でも、まともに戦うことが出来ないか相談したんだ。


 俺のイメージで、白い機動戦士の脳波コントロール兵器みたいなものは開発できないかと尋ねたのだ。するとエインセルは…



――――そういう妖精ドローンならあるわよ。魔道器をサトルのアイテムボックスに入れる必要があるし、サトルの魔力で充填しなくちゃいけないけど、サトルは魔力が豊富だもの。十分使えると思う。



 というわけで、俺のアイテムボックスの3分の1は、その魔道器と妖精ドローンで埋まることになった。


 ただし、今回使うライト・フェアリー達は、戦闘用ではない。こいつらは、俺のダンスを演出し盛り上げたり、照明代わりに使ったりする程度の性能しか無い。そのかわり魔力消費は小さいが、まずは試験運用で、この作戦で使用することにしたのだ。


 ライト・フェアリー達は、エインセルの収納魔法の肥やしとなっていたので、俺が譲り受けた形だ。さっきは宝石から出て来た様に見せかけたが、本当は俺のアイテムボックスから出現したということ。



 戦闘用の妖精ドローンは、エインセルが鋭意生産中だ。こいつは魔力消費が大きい代わりに、キリングパワー1~3程度の攻撃が出来る。3体生産中で、ビット・フェアリーと呼んでいる。全長30センチ程で、エインセルに似た外見を持っている。この妖精ドローン達は、俺が変身しなくても使えるので、早く完成させて欲しい所だ。




 さて、小さなライト・フェアリー8体を引き連れた俺は、観音山ファミリーパーク上空に侵入する。ファミリーパークは北から、多目的広場、カフェテリア、森の芝生広場と続いていて、芝生広場の南にバーベキュー広場、ふわふわドーム、クラフト工房がある。


 本来は家族連れでにぎわうレジャースポットだが、今は一人もおらず、代わりに芝生広場の中央、公衆トイレ周辺に天幕が立ち並び、対ガイマ警備員が60人ほど、魔法少女6名がいるのが見えた。全員俺の方を注目している。



「あっ、スケートマジシャン!」

「おぉー。なんか来たし!」

「あの後ろのちっこいピカピカは何?」

「何しに来たんだろ?」



 ウィンド・ヴォイスで、魔法少女達が騒いでいるのが聞こえる。君たちとお話にきたんだよ。警備員も騒いでいるが、何を言ってるかはこの距離では聞こえない。まあ皆さん、まずは俺の演技を見て、緊張をほぐして下さい。俺はライト・フェアリーを

追従モードからダンス演出支援モードに切り替える。



 高度50メートル、時速40キロで、まずはアラベスクスパイラルで突入。こいつは前傾姿勢で両手を広げ、片足を高く掲げて、バレエのアラベスクのような姿勢で進むスパイラルだ。ライト・フェアリー達も俺の1メートル後ろに接近し、編隊を組んで追従する。

 

 フィギュアスケートにおけるスパイラルとは、片足を腰より高い位置にキープして滑ることを言う。3秒以上姿勢をキープして、演技として評価される。なお、俺の必殺技、スパイラル・アクセルとは何の関係も無い。あれは単にらせん状のアクセルという意味だ。



 それから、軽くステップを踏んでのトリプルアクセル。空中着地すると青と白の氷を意識した波紋が足元に広がる。また氷を叩いたような高音も響く。次はステップ・シークェンス。トウステップ、シャッセ、モホーク、チョクトウ。複雑にステップを組み合わせるのが、ステップ・シークェンスだ。これくらいは5級落ちでもできらぁ! もっとも、魔法少女のパワーも大分借りてるが。女性らしい仕草を加えての柔らかい演技。



 ステップを踏みつつ、俺は芝生広場からはみ出さないように、大きく円を描くように移動。そこからのジャンプ・コンビネーション。トリプルトゥループとダブルサルコウを連続で繰り出す。その後にステップを入れて、バレエジャンプ。


 そこから小ジャンプしてのフライングスピン。からのレイバック・スピン。上体を弓なりに反らせて、手を上にあげてのスピン。これな、このスピンをやるのは、ほとんど女性だ。男でやる奴は少数。俺も試したことはあるが、これマジで息ができないんだ。女のスケーターは呼吸が平気なのか、今の俺は魔法少女パワーで、息を10分くらい普通に止められるので分からん。真相は闇の中だな。



 俺がクルクル回っていると、ライト・フェアリー達も一緒に追従して周囲を回転し始めた。2人一組で円を描くように飛ぶ。飛行する軌跡を1メートルほど引きつつも、妖精の粉のような光の粒子が真下に落ちる。俺は高度をゆっくり目に20メートルにまで落とす。



「うわぁぁぁ、すごい綺麗!」

「あの小さなピカピカ…… まさか妖精!」

「うっ、綺麗すぎるよ…… 胸が苦しくなる。あの子はやっぱり…… グスッ」



 どうやら観客は俺の演技に満足してくれてるようだ。安心した。演技をやってる最中は忙しくて、周りに気が回らんからな。ライト・フェアリー達も十分機能し、幻想的な光景を作り出し、俺の演技を支援してくれてる。


 ここでレイバック・スピンは終了、ステップを軽く踏んでからの、かの有名なレイバック・イナバウアーを決め、体を弓なりに後方に反らせながら円状に滑走。高度を10メートルに落とす。



 それから繋ぎのジャンプ、ダブルトゥループを実行。そこからスピン・コンビネーションに入る。


 まずはキャメル・スピン。次にシット・スピン。高度は5メートルまで落ちる。最後に変形アップライトスピン。右手を肩において、片足でクルクル回る。


 これもなぁ、よく見かけるんだが、このスピンの名前が分からんのよ。単なる繋ぎスピンと呼んでいいのか。



 そんなことを考えつつ、高度は10センチに到達。ライト・フェアリー達は2メートル上で、小さくクルクル飛行していた。俺は回転をやめ、魔法のブーツ、トゥウィンクル・スターのオレンジ色のブレードを消去。完全に地面に着地する。



「おいで」



 俺が両手を上げて、ライト・フェアリー達を呼ぶと、フェアリー達は一斉に俺に群がって来た。俺の髪にぶら下がったり、肩に乗ったり、頭の上に乗ったりと好き放題だ。俺は左腕を上げ、しがみついていた白い小さな妖精を指でつつく。妖精は俺の指を両手で掴んだ。


 そう、俺は今日から、妖精とお話できる、痛い系女子へと進化したのだ。



「ふふふ」



 俺はにこやかに妖精に笑いかけるが、内心は結構緊張しているのだ。何故なら……



「あの、すみません」



 その呼びかけを聞いて、俺はゆっくり横を向く。するとそこには呼びかけを行ったモナセロス先生と、5人の魔法少女が立っていた。モナセロス先生は前に出て、自己紹介を始める。



「お話をよろしいでしょうか? 私は魔法庁所属のマジシャン。モナセロス・ルステニアです。こちらからバーゴ・スピカ、スキュータム・ソビエスキ、コマ・ベリニセス、リンクス・アルシャウカト、ヴェルペキュラ・アンセルです。どうぞよろしくお願いします」


「ご丁重にどうも。私は、双子座を根源に持つ、弟星のジェミニ・パラックス。金星のマジシャン。ジェミニ・パラックスといいます。初めまして、では無いですね。以前合体ガイマとの戦いで出会いましたね。どうかこちらこそ、よろしくお願いします」



 俺は自分の名を名乗り、右手を胸に当て、丁重にお辞儀した。そしてにこやかな笑顔を皆に向ける。



「ジェミニ・パラックス。双子座… やはり黄道12門か……」

「うわぁ~。声も可愛い」

「ジェミニちゃん……」

「見た今の。やっぱりお嬢様だよ~」

「お嬢、お嬢」



 なんでやねん。と俺はエセ関西弁で突っ込みを入れてみる。まさか、彼女達にも俺のお嬢様説が蔓延していたのか。まあこの見た目だもんなぁ。俺が鏡で見ても、どこかの高貴な生まれかと勘違いしそうになる時がある。それよりもまずは……



「まず最初に謝らせてください。ハウス・イーターの件です。この子たちに話を聞いて、子ガイマの情報を知りましたが、ハウス・イーター撃破の時に、すべて誘爆する可能性も、何発か発射する可能性もあるとこの子達が言うので、確定した情報ではない為、皆さんには伝えませんでした。しっかりしていない情報で皆さんを振り回すわけにはいかず、代わりに私がいざという時に介入する事にしたのです」



 と、俺は苦し気な顔をして謝罪する。しれっと妖精さん達にすべての責任を負わせる保身である。虫も殺さぬお嬢様のような顔で、まったく性根が腐った女だぜ。



「そうだったのですか。いや、それは気にしないで欲しい。結果として町に被害はなかったのです。それで十分でしょう」



 と、モナセロス先生が素早くフォローを入れる。女声優の少年役みたいな声だな。鋭い目つきの女の子のキャラとよく合っている。



「それでは、立ち話もなんですから、バーベキュー場までお越し願えませんか。あそこなら椅子も机もありますし、お茶も用意しています。そこでゆっくりとお話しませんか?」


「丁寧な対応。ありがとうございます。ではさっそく。と、その前に。みんなお帰り……」



 責任もなすりつけて、用が済んだので俺は妖精を収納する。妖精たちは胸元の金の宝石に次々吸い込まれる。と見せかけて、俺のアイテムボックスに格納された。



「おぉ~。あそこから出入りするのね」

「バーゴさんの赤い糸と同じ感じかな」



 コマちゃんとヴェルペキュラさんがしきりに感心して話していた。俺たちはバーベキュー場へ歩き出した。






 うぇ~ん。怖いよー。


 俺は周囲を本物の女の子達に囲まれて、バーベキュー場にドナドナされた。なんか捕まった宇宙人の気分だ。もちろん俺は、前世で鍛えた鉄壁な社会人スマイルで、何食わぬ顔をして歩いているが、心の中は不安で一杯だ。



 バーベキュー場に行ったら俺はどうなるんだろう。いきなり豹変して、お前生意気なんだよ! とか言われて締められるんじゃないだろうか?


 前世の彼女が、女のいじめは陰湿。とか言ってたからな。指に箸を挟んで踏んづけたり、官能小説やBL小説をみんなの前で朗読とか、鼻フックを付けてクッキー作りとか、ボールギャグを付けての全力疾走だとか、彼女には色々ないじめ方を聞かされた。俺そんなことされたら泣いちゃうよ。


 俺は内心戦々恐々としていたが、ふと横を見ると、一緒に歩いていたリンクスちゃんと目が合った。なんとなしに俺がニッコリ笑うと、彼女の頬がポンッ、と赤くなった。彼女はそのままうつむいて前を向く。なんだこの反応。可愛いなぁ、彼女だけは唯一安心出来る子だと感じる。



 そんなこんなで、バーベキュー場に到着。そこには、いかにもバーベキューが出来そうな木のテーブルに、2人掛けのベンチが4つ地面に固定されていた。俺は2人掛けベンチに1人で座り、6人が周りのベンチに座る。警備隊の人がお茶や茶菓子、ペットボトルを持ってきた。俺はステンレスマグカップを渡され、警備隊の人に紅茶を入れて貰った。モナセロス先生が俺に茶を勧める。



「では、どうぞ。お菓子もありますよ」


「ありがたくいただきます。あっ、そういえばお土産があるのでした。よく知らないのですが、有名パティシエールの田崎クリステルさんのケーキとか。伝手があって手にいれましたの。美味しいケーキですから出しますね」



 そういうと俺はアイテムボックスから、時間遅延機能が付いた魔道具箱を出して開ける、中には田崎クリステルという人が自由が丘でやってる、クリスタ・レストというスイーツ屋の箱が入っており、俺は箱を開いて、中のケーキを取り出した。


 中には小さな可愛らしいケーキがいくつも入ってる。種類も豊富で、ストロベリーモンブラン、ミルキープリン、プチ・フルーツタルト、レアチーズケーキ、半生チョコレートケーキ、チョコレートサンド、フルーツロールが入っている。俺はそれらのケーキを紙皿に乗せて、みんなに配った。



 こいつが、エインセルが用意した土産だ。何でも田崎クリステルさんは、自覚無しの魔力値20%の魔力持ちで、パティシエールだったが、エインセルが出会って、魔法をケーキ作りに生かす方法を教えたらしい。そのおかげで、高そうなケーキをタダで入手できた。俺も2個ほど試食したけど、このケーキ、ビックリするほど上手いんだ。きっと魔法少女達も気に入ってくれるだろう。



「こんな高級そうなケーキを…… ありがとうございます」

「うわぁ~。おいしそう」

「こ、これは……」

「マジかよ……」



 ケーキを見て魔法少女達は歓声を上げる。が、リンクスちゃんは目を見開き、バーゴさんに至っては大口を開けて驚愕の表情。バーゴさんはスイーツ詳しいのかな? 自由が丘がスイーツ激戦区なのは俺も知ってる。きっと有名な店なんだろう。



「なっ、これは……」

「ナニコレ。こんなおいしいケーキ食べたことない」

「美味しすぎる」

「本物だわコレ。信じられないんだけど」

「フハァ……」



 魔法少女達は、ケーキやプリンを2個づつ確保して、無言でひたすら食べた。あれ? こういう時は女の子は、お喋りしながら食べるもんじゃ無いの? なんか失敗したかな? まあいいか。皆幸せそうな顔だし、やっぱ女の子はスイーツが好きなんだな。


 というわけで、無言のケーキ会は終了。お茶を飲んで一息ついて、いよいよ話し合いだ。モナセロス先生が口を開く。



「ゴホン。おいしいケーキをありがとうございます。まずはジェミニさんに感謝を。みなとみらい、東京湾、そして今回とジェミニさんのおかげで、被害を最小限に留めることができました」


「いえ、少しでもお役に立てたなら、嬉しいです」


「それで、ジェミニさんは魔法対策庁に所属する意思はあるのでしょうか? 私達としても所属してくれれば大変心強いです。一応、これまでの活躍の報償を低額ですが用意しているのですが、いかがですか?」


「所属するかどうか、今は正直迷っています。家族が心配するもので、私も離れたくない気持ちもあります。報償については、頂ければありがたいですが……」



 と、ここで家族の話をする。こいつはブラコン作戦の前振りというやつだ。報償は正直助かる。ここんところ出費が多いので、少しでもくれるならありがたい。どれくらいくれるんだろうか? 30万円ぐらい貰えるのかな?



「なるほど。魔法対策庁はジェミニさんを高く評価しています。無理強いはしません。いつでもいらして下されば、と思います」



 ほほぉ、俺の評価は意外に高い? いやそれならなんでコメントしないんだろう? ひょっとして俺をおだてて、取り込もうとしている? いくら俺がしょぼいとしても、魔法少女の力は持っているからな。肉壁ぐらいには使えると考えてるのか? 使い潰されるのはご免なんだが。まあ今考えてもしかたないか。では、今度はこちらからの要望を。



「私から魔法庁にお願いがあります。現在、ネットでは私が原因の騒ぎが起こっています。色々な説が出回っていますが、それは真実ではない。それを私の言葉として、魔法庁を通して、公表していただけませんか?」


「あ、あの……」



 おや? 横からリンクスちゃんが発言。何か言いたそうだが?



「空中戦の後、泣いていたのって、どうしてですか?」


「ちょっと……」



 リンクスちゃんの質問に、バーゴさんが咎めるような発言。いや全然気にしないよ。むしろそこを説明しないと、火消しにならんからな。



「あれは…… 詳しくは言えませんがプライベートなことが原因です。ネットで言われているような、連盟の圧力では無く、外的要因は一切関係ありません。なのでネットでの騒動をなんとか鎮めたいのです」


「そうだったのですか。この件は私の権限では約束は出来ないですが、上に掛け合ってみましょう。それでこちらからコメントを? あるいは書面で公開しますか?」



 モナセロス先生が公開方法を確認してくる。俺は自分のスマホを差し出し、事前に撮っていた動画を再生する。



「動画を用意してあります。これを公開して貰えれば、今回の弁明と世間の皆さんへの私の自己紹介となると思います」


「なるほど…… ふむ、これなら……。確約は出来ませんが、この内容なら上も納得するでしょう。公開できると思います」



 モナセロス先生は、動画を一通り見て判断を下す。この動画では、まず自己紹介。それから昨今のネットの騒ぎに対する回答。これからの抱負なんかを語ってる。良かった。これで騒ぎを鎮めることが出来そうだ。俺はモナセロス先生のスマホと共有設定で、ブルートゥースで動画を送った。作戦通りすべての目的を達し、周りに弛緩した空気が流れる。と、



「あ、あの…… ジェミニさん…… あの、その…… えっと」



 またリンクスちゃんが話しかけてくる。なんか顔が赤いけど大丈夫だろうか。彼女は手で胸を押さえて、こちらを見ている。俺はニッコリ笑って、何の用か聞こうと思ったが、先にリンクスちゃんが勢い込んで話した。



「わ、わたし、古伊万里 夏鈴と言います! 私と…… お友達になってください!」



 俺はいきなりの発言でビックリ。そりゃここからどう交流するか俺も考えてたので、友達発言はありがたいんだが、いきなり自分のフルネームを名乗る必要は無いと思うんだが、ほら、隣のヴェルペキュラさんもギョッとした顔をしてる。俺はニッコリ笑って返事をする。



「嬉しいです。私でよければ是非お友達になりましょう。ですが、ほとんど面識の無い相手に、自分のフルネームを伝えるのは感心しませんよ? そうですね…… かりんさんが名乗ったのだから、私も名乗りましょう。私の名前はナナと言います。苗字は秘密としてください」


「ナナちゃん……」



 しかしあれだな。さっきからリンクスちゃん。俺に対する切り込み隊長みたいな事になってる。ははーん。なるほど。さては俺の情報を引き出すために、上から命令されてるんだな。たしかに彼女みたいなちっこい癒し系ならば、俺も話しやすいし、楽しく会話できそうだ。ま、お互い情報を交換して、大いに利用し合おうじゃないか。



「よかった…… うっ……」



 リンクスちゃんはそう言うと、いきなり泣き出した。


 ちょ~、なんで!?


 俺が泣かしたのか!?


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