第25話 群馬県高崎討伐戦3
魔法少女達が防御を固めた瞬間、崩壊を始めていたハウスイーターが大爆発を起こした。爆発地点周辺は、瓦礫や埃が舞い、視界が潰された。どうなったか気になってしかたない俺は、エインセルに状況を聞いた。
「エインセル! どうなったの?」
――――ちょっと待って…… とりあえず魔法少女達は無事。今は魔力のノイズが酷くて……
と、再びの数度の爆発音。これで子ガイマも全部潰れてくれればいいんだが……
――――むっ。小型ガイマの魔力を感知! 数は1、2… 4… 8。8発よ! 8発発射された! 方位は北東方向!
「そうは上手くいかないようね! それに北東、やっぱ駅じゃない! 行くわよエインセル!」
そう叫んだ俺は、トリプルサルコウで高度50メートルに上昇。結界の外に出て北上開始。石原町上空に出た。先ほどの爆発のせいか、付近に突風が吹き荒れ、煙が急速に拡散される。その中に固まっている魔法少女達を発見。向こうもこちらに気付いたようだ。
「あっ!! あれ!」
「スケートマジシャン!」
「どうしてこんな所に!?」
「あぁ、やっと会えた!」
何かごちゃごちゃ騒いでいるが、今はそれを気にしている暇は無い。俺はウィンド・ヴォイスを起動。下の魔法少女達に声を届ける。
「皆さん。ハウスイーターが子ガイマを発射しました! 数は8発! これはミサイルのようなもので、高崎駅に向かっています。到着すれば大爆発を起こします。打ち落とさなければなりません。私について来て下さい!」
「了解した、スケートマジシャン! おい、みんな行くぞ!」
さすがはモナセロス先生! 状況判断力がピカ一だな。四の五の言わず、まずは素早く決断。一応俺を信用してくれてるわけね。皆に呼びかけたのは、初見の敵に対する一応の保険だ。8発全部俺が落とすつもりだが、何が起こるか分からんからな。こういう時は、味方ユニットでできるだけ包囲する必要がある。魔法少女大決戦のゲームではそうだった。
――――子ガイマ飛行中。前方100メートル。高度50メートルぐらいで広範囲に広がってる。でも万全の発射じゃなかったからか、速度が出ていない。現在時速20キロ。増速中。
「了解。こんにゃろ!」
俺は一番左側を飛んでいる子ガイマに一気に接近した。真っ黒い金属質の体で、弾頭に赤い発光色が複数見える。外見は生体爆弾といったところか。下を見て確認すると、穴だらけの平地の住宅地が見える。ここはデブリ・ブレスの被害を受けたあたり。避難は終わっているだろうが、一応、確認だ。
「エインセル。下に人はいるかしら?」
――――いないよ。攻撃するなら今ね。
「わかった! シャイニング・スター!」
『shining star erementsu』
マニューバ・ヴォイスを確認した俺は、右腕を突き出す。ガントレット型星機装シャイニングシューターが可変。魔法陣を形成し、青い光弾が発射された。事前に防御力が高いと聞いているので、10メートルまで距離を詰めている。発射された光弾はすぐに命中。子ガイマはバラバラになる。これで1匹撃墜。残り7匹。
と、子ガイマの飛び散った破片のいくつかが、俺の体に引っ付いてきた。なんだこれ!? ありゃ、移動スピードが落ちていく。魔力を使おうとするが上手く行かない。どうなってんだ?
――――これは…… 魔力吸収金属よ。強い魔力のあるものに吸着して魔法の発現を妨害するわ。瘴気と違って魔力は4割ほど使えるけど、効果時間は長い、10分ほどよ。物理的な金属だから、モナセロスのホワイト・キュアも通じない。
「こ…… この… 面倒なものを」
――――今の所、最大速度は時速60キロまでしか出ない、シャイニング・スターは発射不能。
おのれぇ。嫌らしい攻撃をしてきやがる。これなら足止めは十分か。奴は何が何でも駅を吹き飛ばしたいらしいな。ならばこちらも保険を使うまで。俺は後ろから追ってくる魔法少女達にウィンド・ヴォイスを送る。
「皆さん! 子ガイマは固いので10メートルまで接近して魔法攻撃をしてください。ただし、子ガイマが爆発すると魔力吸収金属をばら撒きます。これに当たると、魔法を4割しか使えなくなります。効果時間は10分。ホワイト・キュアも通じません。気を付けて!」
「了解スケートマジシャン! 情報感謝する! 私とバーゴ、ヴェルペキュラはこのまま前進、あの川の上で同時攻撃だ。コマとスキュータムは高度100まで上げて、次に同時攻撃。リンクス、高度150まで上げて先行、駅付近で待ち伏せしろ! 一人一殺を心掛けるんだ!」
「「「了解!」」」
「リンクス、行っきまーす!」
さすがモナセロス先生! 打てば響くように返事が来た。指揮能力高いなぁ。俺の情報に素早く的確な攻撃プランを組み立てた。魔法少女達はそれぞれに高度を変更。リンクスは上空に上がり、空中を全力疾走で走っていく。
「よし、川の上だ! 攻撃開始!」
モナセロス先生の号令により、鳥川河川敷、石原緑地上空で攻撃開始。ホワイト・サンダー、フレイム・バースト、ファイヤー・ボールが発射される。10メートルの距離に詰めての攻撃。外す訳もなく、3匹を爆破撃墜。しかし、魔力吸収金属を受けて、モナセロス、バーゴ、ヴェルペキュラは脱落。スピードが落ちてゆっくり降下を開始した。残り4匹。
そしてそこから200メートル先、高崎市城南野球場の上空でコマとスキュータムが仕掛ける。コマはスターライト・レーザー、スキュータムはシールド・チャージで攻撃。2匹を爆破。2人も脱落。残りの子ガイマは2匹。
いやそれにしてもマギ・アプリ便利だな。エインセルに入れてもらったアプリだが、ステータスでマップを確認できる。正確な地名もこれでバッチリ。俺は時速60キロという低速で、子ガイマを追跡中。相手も同じ速度なので追いつけない。効果が切れたら、即座にもう1匹の子ガイマを攻撃する態勢だ。
しかしこれ間に合うのか? 子ガイマはあと2匹。駅まで500メートルぐらいしか無いんだが、とそこへ、上空から逆落としに猫娘が落ちて来た。
「いくよー。マウンテン猫パーンチ!」
リンクスの勢いが付いたパンチが、子ガイマに炸裂。見事に爆発した。下は無人の鶴見町公園という場所。上手い場所取りだ。爆風で木は何本か折れたが、周辺に住宅に被害はほとんど無し。
「うにゃ~」
しかしリンクスが、魔力吸収金属を体に引っ付けながら、爆風でぴゅ~、と飛んでいった。あれくらいなら大丈夫だろう。きっと。だが問題はこっちだ。残りの子ガイマは1匹。駅まで200メートルしかない。駅と俺が泊っているビジネスホテルも見えるんだが。
「エインセル! まだ効果時間は切れないの?」
――――あと2分ぐらい。
エインセルの返事を聞いて俺は絶望した。間に合わない。
そりゃたしかに8発中7発を撃破した。1発だけならそれほど大きな被害は出ないだろう。だが、高崎駅に命中すれば、俺は榛名山もカルビラーメンも諦めなければならないのだ。おまけに横浜に帰るのに6時間以上は確定だ。
そんな馬鹿な……
そんな馬鹿なことがあってたまるか!!
「許さない!!」
俺の怒りに空気が震え、体内の魔力が駆け巡る。そして俺の私利私欲パワーに魔力が反応して、背中から妖精の羽根が顕現した。
「うおおおおっ!」
俺は気が抜けそうな可愛らしい声で雄たけびを上げる。すると妖精の羽根は崩れて、光り輝く粒子となって体の表面を巡り、魔力吸収金属を消し飛ばした。
――――おおっ、この土壇場で新技だわ!
エインセルのセリフはほっておいて、俺は風魔法を使い急加速。前方に見える小学校が無人かどうかをエインセルに確認。エレメンツを繰り出した。
「セクスタプル・アクセル!」
『sextuple axel erementsu』
マニューバ・ヴォイスを確認するやいなや、俺は飛び上がり6回転アクセルを繰り出す。狙いは勿論、学校グランド上空を通過しつつある子ガイマ。
俺の観光計画を!
カルビラーメンを妨害する奴を許す訳にはいかない!
俺は!
新幹線に乗って!
横浜に帰るんだ!
だから絶対に!
「壊させはしない!!」
俺の裂ぱくの気合が乗ったアクセルが子ガイマに激突!
その攻撃に耐えきれず、子ガイマは高崎市立南小学校のグランド上空で爆散した。どうだ! 正義は必ず勝つのだ!
ハウス・イーターとの戦いは完全に終わった。しかし危ない所だった。高崎駅からわずか150メートル。俺の泊っているビジネスホテルから100メートルも無かった。まさにギリギリの勝利と言えよう。
爆発した子ガイマの煙に紛れて、俺は路地に着地し変身を解除。男の姿で、集まってきた野次馬に紛れて現場を後にする。一旦ビジネスホテルに帰還。休憩してから、再び上信電鉄に乗って根小屋駅へ、そこから高崎市斎場北の森に戻ってきた。
魔道器は置きっぱなしだったので、結界内でジェミニ・パラックスにまた変身。外の様子を伺うと、観音山ファミリーパークに魔法少女6名が集まっているのを確認。
さあて、いよいよ本番だ。あぁ~。緊張するなぁ。
俺は緊張をほぐすためにストレッチをする。その間にエインセルは魔道器を回収。俺の体の中に入った。
「さあ、行くわよエインセル。魔法少女接触作戦のスタートよ!」
――――ンフフ、どんな話になるのか、楽しみね。
ちっ、他人事なエインセルの余裕の言葉を聞きながら、俺は大地を蹴って上空に躍り出た。
観音山ファミリーパーク 芝生広場
ハウス・イーターとの戦いも終わり、私たちは芝生広場で休憩を取っていた。
私はモナセロス先輩の指示で、高度を取って高崎駅付近に先行。子ガイマを発見したので、無人の公園の上で攻撃。爆風で吹き飛ばされた。変な金属が引っ付いて、上手く魔法が使えなかったけど、なんとか付近のビルの屋上に着地した。
これで7体の子ガイマを撃破。でも、あと1体が駅に向かっている。スケートのあの子は追いかけて来ているけど、スピードが出ないみたい。私も魔法が使えないし、どうしたらいいんだろう?
でもあの子は諦めなかった。突然あの子の体が光り輝く。
「許さない!!」
ガイマに誰も傷つけさせはしない! その思いを乗せた無私の叫びに魔力が呼応して、あの子の背中に以前見たオレンジに輝く羽が生えた。その羽はキラキラの粒子になって、なんとあの子にくっ付いていた金属を吹き飛ばしたのだ。凄い!
「セクスタプル・アクセル!」
『sextuple axel erementsu』
あの子は急加速して、アクセルジャンプを繰り出す。以前あの子と出会って、フィギュアスケートに興味を持って、色々とスマホで調べたのだ。今の技は6回転アクセル。生身では出せない魔法少女ならではのエレメンツ。
「壊させはしない!!」
あの子の叫びを聞いて、私は胸が熱くなる。やっぱりあの子も私達と同じ思いを抱いていたのね。
そう、人々の平和を、日常を守るために私たちは戦うのだ。ガイマになんか壊させはしない。
あの子の無私の心と言葉が空気に響き、彼女の攻撃が見事に子ガイマを撃破した。
やっぱりあの子は恰好いい!
最後の子ガイマの爆発が収まってから、私はなんとか魔法を使って、学校まで来たけれど、あの子はどこにも見つからなかった。変身を解除したのは間違いない。でも人が集まってきて、どこに行ったか分からない。
あぁ、せっかく出会えたのに……
私たちにウィンド・ヴォイスで話しかけてくれたのに……
少しくらい、お話したかったな……
暗い気持ちに沈んだ私に、本部から無線の問い合わせが来る。私は状況を説明。作戦が完了したため、一旦観音山ファミリーパークに撤収することになった。
ファミリーパークでみんなに合流。モナセロス先輩に状況を説明する。
「そうか。なんとか被害無しで乗り切ったな。それにしても、またしてもスケートマジシャンには助けられたな……」
本当にそう。あの子がいてくれたおかげで、駅や町を吹き飛ばされずに済んだのだ。以前の合体ガイマや空中戦でも助けられた。いつかお礼を言えたらなぁ。できれば私達と一緒になって欲しいけど……
何か事情があるのかな?
そういえば、あの子の泣いていた写真を思い出す。
どうして泣いていたのか? 誰かにひどい目に遭わされたのか?
誰かに泣かされたのなら、私がその相手を猫パンチで吹き飛ばしてやるのに!
私がうつむいて色々考えていると、突然驚いた声が聞こえた。
「ほぁっ!」
コマ先輩の声だ。さっきポテトチップスを頬張っていたから、喉でも詰まったのかしら?
そんなふうに思っていると、横からヴェルちゃんに肩を叩かれた。
「ちょっと…… かりん……」
横を向くとヴェルちゃんが驚いた顔で上空を見つめていた。
私も釣られてヴェルちゃんが見ている方向へ、目線を向ける。
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