第24話 群馬県高崎討伐戦2


――――あのガイマは子持ちよ。体内で18体の小型ガイマを製造中。眠っているように見えるのは子ガイマの製造に集中しているからでしょうね。



 偵察に出て、ハウスイーターという名のガイマの体内を調べて来たエインセルが、予想外の報告を行った。俺はエインセルに詳細を訪ねる。



「子ガイマ…… そいつはどんな性能なの?」


――――空中浮揚で空を進み、一定の距離で自爆するミサイルのようなもの。射程は数キロ。速度は時速60キロ程度と遅いけど、防御力は高い。魔法なら10メートル以内で撃たないと、防御を抜けないわね。あの背中の18個の突起が開いて、子ガイマを発射する。



「ということは、あのハウスイーターは、体内でミサイルを製造出来る、移動型生体ミサイルランチャーと言ったところか。一体どこが標的か…… あぁ、なんかすごく嫌な予感がするわ。あいつ新幹線嫌いらしいの。なら目標はJR高崎駅か……」



 それは最悪だぞ。俺が泊っているビジネスホテルもそうだが、駅が吹き飛ばされると鉄道が麻痺する。子ガイマは時速60キロと低速だが、石原町から駅までは直線で2・5キロぐらいしか無い。あっという間に着弾だな。それならガイマを倒せて、鉄道が動いている区画まで自治体がバスを出すとしても、横浜まで帰るのに8時間ぐらいは掛かるだろう。俺の観光計画が破壊される。



「ハウスイーター自体はどうなの? 強いのかしら?」


――――魔法庁でいうところの、レベル4を少し上回る程度。合体ガイマよりは弱いわよ。例の6人が来るなら負ける要素は無いわね。子ガイマが全弾発射可能になるのは、明日昼過ぎぐらいかしらね。


「魔法庁の作戦開始は明日の午前中。なら間に合うか。エインセル。ハウスイーターを倒したとして、体内の子ガイマも破壊できるのかしら?」


――――おそらくは破壊できる。でもあいつが死ぬ前に何発か発射する可能性もある。断言は出来ないわ。サトルも戦闘に参加すればいいんじゃない?


「そうなのね。断言できないなら魔法少女達に情報を伝えるのはやめておきましょう。情報に振り回されて混乱するだけだし。……私はね~。過去2回の戦いは上手くいってないし、今回はサポートに回る。ここで明日観戦して、もし子ガイマが発射されたら参加する形にするわ」


――――分かった。あいつが家を食うのは、壁の合板? のようなものが目当て見たい。それと金属。それらを用いて子ガイマの外殻を形成しているようなの。そして溜まった不要な瓦礫を口から、デブリ・ブレスとして放出しているわ。無駄のない構造ね。


「家の合板? 合板ね。……そうかサイディングね。サイディングボードを利用してるのか。エインセル。サイディングは住宅の外壁に張る仕上げ用の板材のことよ。軽量で頑丈。断熱性能も高い。表面に金属コーティング。なるほど、ミサイルもどきの外殻にはうってつけか。それでマンションは食べなかったのね」


――――なるほどね。その板材、魔法で加工することができると思う。3重~4重構造にすれば、簡単には攻撃を通さないでしょうね。


「厄介ね。誰がこんなこと思いつくのかしら? まあ偵察して良かったわ。日も傾いてきたし、そろそろ引き上げましょうか。宿に帰ってごはん食べて、大浴場に入って、明日に備えて英気を養いましょう」



 というわけで、現場からそそくさと退散。男に戻って電車に乗り高崎駅に戻る。


 そして高崎駅前グルメ。今回は宿の部屋で食べるつもりなのでテイクアウトを選ぶ。イーサイト高崎2階のバーベキュー・ファストフード店に向かう。ここはプラスチック容器に食品が入っているので、持ち帰りが可能だ。店内にイートインスペースもある。


 今回は、明日に備えてガッツリ系で攻める。黒毛和牛100%使用のチーズバーガーセット。ハーフポンドステーキ。やきそば。ベーコン&フランクを購入。朝食用に、同じ階にあるパン屋で、カリカリメロンパン、黒チーズカレーパン、ベーコンエッグパンを購入。こんだけ食っても胃もたれしない若い肉体に感謝だ。


 これは転生しての持論だが、お金と若さがあれば、どんな世界でも楽しく暮らしていける。まあ逆も真なりなんだがな。



 ビジネスホテルに戻り、大浴場に露天風呂を堪能。これ男の娘だったら男湯女湯どっちも入れないな。部屋に戻り夕食を堪能。無料のぐんまちゃんのアニメを見て、ネットしてそのまま眠った。






観音山ファミリーパーク


 群馬県といえば、高崎白衣大観音がある慈眼院(じげんいん)や近くの観音山公園などが有名であるが、そこから南東に2キロ下がると、山中に観音山ファミリーパークという地元民に愛されるレジャースポットがある。


 広大な森の芝生広場を中心に、サービスセンター、バーベキュー広場、ふわふわドーム、多目的広場があり、大きな駐車場を備えている。近隣には、ふれあいの森、フェニックス自然の森などがあり、ハイキングや散歩を楽しむことが出来る。



 本来なら親子連れ等で賑やかなファミリーパークであるが、今日は物々しい雰囲気に包まれていた。駐車場には対ガイマ警備隊の車両が停まり、芝生広場に天幕がいくつも設置され。重装備の警備隊員が警備を行っている。その一角に、6人の魔法少女達が集結していた。


【モナセロス・ルステニア】【バーゴ・スピカ】【スキュータム・ソビエスキ】【コマ・ベリニセス】【リンクス・アルシャウカト】【ヴェルペキュラ・アンセル】いずれも「みなとみらい」にて合体ガイマと戦ったメンバーだ。そして今回もモナセロスが現場で指揮を執ることになった。モナセロスは作戦を説明する。



「さて、皆よく聞いてくれ、今回の作戦は2段階に分かれる。まずは第1段階。我々は石原町に居座るガイマに対し、西の山から遠距離攻撃をかける。狙いはガイマにデブリ・ブレスを吐かせることだ。ハウス・イーターがデブリ・ブレスを発射出来るのは1回だけだ。補充には、また家を食べなければならない。だからデブリ・ブレスを一度発射させれば、もうブレスを警戒する必要は無い。ここで肝心なのが吐かせる方向だ。」



 モナセロスは机に広げた地図を、指揮棒で差しながら説明する。



「西南西方向にデブリ・ブレスを吐かせるよう誘導する。ブレスの射程は300メートル。この方角で吐かせれば大部分のデブリは、ふれあいの森に落下するだろう。しかし、その先にある山中の高圧電線塔までは届かない。ブレスにはスキュータムを前面に出し、背後に我々が隠れることによってやり過ごす。次は第2段階。私、スキュータム、リンクスが正面を受け持つ。バーゴが左側面から、コマとヴェルペキュラは右側面から攻撃、奴の足を潰せ。足を潰したら各自、自由攻撃だ。なにか質問は?」


「ブレスをやり過ごすときは、私たちは地面に着いてるのかしら?」


「そうだ。全員山に着地してスキュータムの背後に固まる。木も沢山あるので、ある程度デブリも削れるだろう。今回も新種だが、合体ガイマと戦った我々なら恐れる相手では無い。ただし何か隠し玉があるかも知れん。油断はするな。他に質問がなければ、今から30分後に作戦開始だ。各自周辺にて待機しておいてくれ」



 モナセロスがコマの質問に答え、作戦会議は終了。後は作戦開始を待つだけになった。






高崎市斎場 北30メートル山中


 というわけで、ジェミニ・クレアトゥールで今日も全力疾走して、昨日の偵察時と同じ位置に来たサトルです。ここにエインセルは魔道器を設置。これは裏杉戸町で使った、魔力を吸収する魔道器。エリアは10メートル四方で設定。俺はこの中で変身して、すでにジェミニ・パラックスの姿になっている。周りにバレてはいないようだ。


 残念ながら結界内だと、俺の魔法技術ではウィンド・ヴォイスが聞き取れないので、結界から顔だけ出して聞き耳を立てることにする。合体ガイマと戦った時は訓練が足らず、魔法少女のウィンド・ヴォイスはほとんど聞こえなかったが、その後、頑張って訓練してウィンド・ヴォイスを並には使えるようになったはずだ。



――――来たわよ。山の上。



 エインセルからの報告に、俺は住宅地の西側の山を見る。いた。昨日のニュースの通りの魔法少女のメンツだ。



「陽動攻撃開始!」



 これはモナセロス先生の声。おお、訓練の甲斐があった。ウィンド・ヴォイスがハッキリ聞き取れる。魔法少女の内、コマとヴェルペキュラ、バーゴが遠距離魔法攻撃を開始、住宅地中心の公園付近に、相変わらず寝そべっているハウス・イーターに次々に魔法弾が命中する。弱い魔法なのでガイマにほとんどダメージは無いが、さっき言った通り陽動攻撃なのだろう。



「ググゥウウゥ……」



 ハウス・イーターは攻撃を食らって起床。低い唸り声を上げ、グルリと回って6名の魔法少女に向き直る。そして口を大きく開け、腹が大きく膨れた。これはデブリ・ブレスの発射体制だ。



「よし、全員地面に着地。スキュータム!」


「了解、ライトベール・シールド!」



 モナセロス先生の命令に、スキュータムが前面に出て、機械盾アルビオン・シールドを構える。シールドが輝き、周囲10メートルに光の壁が形成される。スキュータムの特殊範囲防御魔法だな。5人の魔法少女達は、スキュータムの背後に固まる。


 なるほど。先にハウス・イーターにデブリ・ブレスを撃たせる作戦か。この方角なら、殆どの瓦礫が背後の森に落ちるだろう。


 そう考えていると、大きな口からデブリ・ブレスが発射された。猛スピードで散弾状の瓦礫が発射される。耐えるスキュータム。まるで瓦礫の嵐だ。森の木がなぎ倒され、地面がえぐり取られる。とはいえ半分以上は上空を通過し、背後の山に落下。魔法少女達にダメージ無し。さすが、たて座の魔法少女スキュータム。たいした防御力だぜ。ゲームでも防衛戦では随分お世話になりました。



「作戦第2段階だ! 前進!」



 モナセロス先生の号令で、魔法少女達が前進。モナセロス先生とスキュータムにリンクスちゃんがガイマ正面。バーゴが左に、コマとヴェルペキュラが右に回り込む。モナセロス先生はブーツ横から光槍ビリアトを抜き、頭のユニコーンホーンが光り輝く。


〇ホワイト・サンダー 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒⇒⇒

マジカルホーミング(魔法誘導)

オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒


 出た。モナセロス先生の十八番、ホワイト・サンダー。光り輝く稲妻がガイマの顔面に命中。彼女は光槍ビリアトを構え突撃。あっという間にガイマの顔面に槍を突き立てる。この人、他の移動は並なんだが、前進速度だけは異様に速いんだよな。


〇刺突×3 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒

キリングパワー ⇒


 刺突による3回攻撃。攻撃力は低いが数で補う。刺突を終えた先生は後退。ガイマは反撃に右腕を振りかぶり殴る姿勢。



「パンチで勝負するのね、いいわよ! マウンテ~ン、猫パンチ!」



〇マウンテン猫パンチ 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒⇒

オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒

ホローチャージ  (貫通力強化)⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒


 おおっ、リンクスの生猫パンチだ! リンクスの輝く拳がガイマの拳と激突する。結果、リンクスが打ち勝った。リンクスは衝撃で数メートル後退したものの、ガイマの拳はひしゃげて指が飛び、使い物にならなくなった。


〇シールド・チャージ 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒⇒⇒

オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒

ホローチャージ  (貫通力強化)⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒⇒


 そこへ盾を構えたスキュータムが胴体に突進。強烈な盾による衝撃がガイマの胴体に命中。ハウス・イーターはあの巨体にも関わらず、数メートル後退した。そこへ左右に回っていた魔法少女達が射撃を開始。右側からコマのスターライト・レーザーが、ガイマの足を1本消し飛ばす。ヴェルペキュラのファイヤー・ボールも足に命中。


 左側のバーゴは、アリアドネ・ネットを発射。ガイマの足に絡みつき、行動を阻害する。なるほど。まずは足を潰して移動力を奪うか。ハウス・イーターに対し、魔法少女達は圧倒的に有利に戦闘を進めていた。しかし……



「ウグゥゥゥゥッ!!」



 ハウス・イーターは低く叫ぶと、盛り上がった両肩が開き、中の赤い発光部分から、黒い光線を広範囲に発射。その光線は、前方の3人に命中した。光線を受け、リンクスとスキュータムは浮遊を停止して地面に降りた。どうやら身動きが出来ないらしい。



「うう、体の力が…… 入らない…」



 苦しむリンクスとスキュータム。体を黒い煙のようなもので包まれている。これは……



――――瘴気ね。黒い魔力で体を縛り、魔法を使えなくする。純粋な魔力だから強力だけど、その変わり短期間で減衰する。3分で効果が切れるわ。でも戦場での3分は長いわよ。子ガイマの分析に全力で、他の能力まで調べてなかったわ。


「なるほど。これが瘴気なのね。でも……」


「私に瘴気は効かんよ」



 モナセロス先生の声が響き、ガイマの左肩に槍が付き立った。連続しての光槍ビリアトによる斬撃と刺突で、ガイマの左肩を破壊。そのまま飛び上がって、ガイマの右肩に槍を投擲。


〇スラストスピア 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒⇒

ホローチャージ  (貫通力強化)⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒⇒


 投擲された槍はガイマの右肩を見事破壊する。そうなんだよ。モナセロス先生にはユニコーンの「純潔の守り」なんていう凄い加護が付いている。だから、ほとんどの状態異常攻撃は無効にされるんだ。モナセロス先生は続けて、ユニコーンホーンを発光させ、周囲に光の波を放出する。



「ホワイト・キュア」



 放出された光は、リンクスとスキュータムを縛る瘴気を消し飛ばす。2人はすぐに戦線に復帰。このホワイト・キュアは、他人の状態異常の回復や汚染された水を浄化したりすることができる。さすがはモナセロス先生。関東最強と言われる実力を備えているな。



「グガァァァァァッ!!」



 進退窮まったハウス・イーターは、大きな口を開けて、モナセロス先生に食らいつこうとする。



「バカめ……」



 モナセロス先生は鋭い目つきで一言。いつのまにか手に持っていた、もう1本の光槍ビリアトを口の中に投擲。スラストスピアだ。ガイマの喉の奥に槍が突き立ち、口内で爆発した。



「グゥ… ググゥゥゥッ」



 この攻撃はさすがに効いたのか、一気にガイマの力が弱体化した。その後はまあ、タコ殴りよ。

 ガイマの胴体の両サイドに、フレイム・バースト、ファイヤー・ボール、スターライト・レーザーが命中。ついにモナセロス先生が、一角純潔聖槍ユニコルンを引き抜き、コンボスラストの技で殴りまくり、粛清パワーを存分に見せつける。


 とどめにリンクスちゃんが、猫パンチでガイマの左腕をもぎ取り、最終的に一角純潔聖槍ユニコルンのランスチャージにより、ハウス・イーターの頭が撃ち抜かれ、

ついにガイマは崩壊を始める。


〇ランスチャージ 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒⇒⇒

オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒

ホローチャージ  (貫通力強化)⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒⇒

 

 魔法少女達6人は、最初から最後まで終始ハウス・イーターを圧倒。危なげなく勝利した。まあしょせんレベル4よりちょっと強いだけのガイマ。この展開は読めていた。だがしかし、ここからだ。ここからどうなる?



「やったぁ!」

「勝ったね!」

「まあ、こんなもんよ」



 勝利にはしゃぐ魔法少女達。が、ここで鋭い警告を発する者がいた。バーゴだ。



「ちょっと待って! アリアドネがなんか妙な動きをしている。まだハウス・イーターは死んでないよ!」



 バーゴ・スピカの両手首の魔法の腕輪「カンバリア」から出ている、太くて光る赤い糸、「アリアドネの赤い糸」がハウス・イーターの方向に向かってユラユラと揺れていた。瞬時に判断したモナセロス先生が叫ぶ。



「皆、ガイマから離れろ! 私の元へ来い! スキュータム、前へ出て皆を守れ。こいつは自爆するかも知れん!」


「分かりました!」



 モナセロス先生は的確な判断を下す。以前に自爆するガイマと戦ったことがあるのかも知れない。皆はハウス・イーターから20メートル離れ、スキュータムがライトベール・シールドを展開。全員が後ろに隠れた時、ハウス・イーターの体が大爆発を起こした。


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