第23話 群馬県高崎討伐戦
群馬県高崎駅付近 ビジネスホテル
俺は高崎駅到着後、徒歩1分の位置にあるビジネスホテルにチェックイン。清潔だが狭苦しいシングルルームに入る。まあ1泊1万円の部屋ならこんなもんよ。無料の天然温泉大浴場とサウナがあるし、後はコインランドリーがあれば十分事足りる。数に限りがある毛布を無事借りれて良かった。ヌポンと体からエインセルが出てくる。
――――ふうん。これがビジネスホテルかぁ。それにしても3泊もする予定なのね。
「せっかく来たんだ。とっととガイマを片付けて、観光に洒落込みたい所だな。せめて榛名山ぐらいは行きたい。それに、群馬はカルビラーメン発祥の地と言われる。ここの元祖カルビラーメンは是非とも食べておきたい」
――――フフッ。前から思ってたけどサトルって食いしん坊ね。大倉山のラーメン屋とパン屋はすべて回ってるし、弁当もメニュー全制覇してるもの。
「ハッ、そんなのは当り前さ。俺の前世の世界から来た奴なら全員そうなる。24年辺りから物価高に悩まされてきたからな。この世界の2010年の日本は、外食だろうがスーパーだろうがすべて激安に見えてしかたない。オール全品4割引きのバーゲンセールの真っ只中にいるんだ。分かるか俺の感動が? ポテトチップスの袋には、ポテトチップスが一杯詰まってる! チョコレートは小さくない! コンビニ弁当の上げ底は控えめだ! これで外食せずしてなにが転生か!」
――――あらら、サトルも苦労してたのね。
「今この激安期間を最高効率で回らねばな。量より質だ。今まで食べたことない海外料理も回るつもりだし。地元の飲食店のメニューは全制覇するつもりだ。上手かろうが不味かろうが関係ないな。可能な限りすべてのジャンルの料理を食べ尽くす!」
――――でも前世の世界とここは経済状況が違うんでしょう? 必ずしも物価高が来るとは言えないんじゃない?
「ああ、だがこっちにはガイマがいるからな。日本国内の流通を破壊せんとするなら、俺が絶対に消し飛ばしてやるが、ホルムズ海峡やらマラッカ海峡とかに出てきたらどうしようも無いからな。油断はしないことにしてる」
――――そうなのね。フフッ、ならラーメンの為にさっさと先へ進めましょうか。今からガイマを偵察に行く?
「ああ、そうだがまずは駅前で腹ごしらえだな。それから新幹線の中で考えてた潜入ルートでガイマへ近づくつもりだ」
というわけで、とりあえず俺は駅前グルメを堪能することにした。まずは高崎駅ビル、モントレー内のスパゲティ屋さん。人気店で10分並んで入店。ここでは美味しいスープスパゲティが食べられるらしい。俺は赤唐辛子とにんにくのトマトソースを注文。無論サラダとパンとドリンクが付くランチセットだ。あっつあつのパスタを食べ、スープもすべて飲んだ。なんだこのおいしさは。突き抜けたスープの味に感動した。
次は日本茶専門店が運営しているスイーツお茶屋さん。さっき熱いの食べたので、冬だけどジェラートを食べる。二色盛り・抹茶三段で勝負。この店の一番人気らしい。上品でとろける上手さだ。最後にホットの菓子付きほうじ茶をゆっくり飲んで、しばし休憩。テイクアウトで抹茶クリームロールケーキ、チョコレート、チーズタルトを購入。
さて、ここからは侵入作戦だ。石原町行のバスはもちろん全停止。警察の警戒線があるから正面からの侵入は困難。なので裏口から行く。高崎駅西側に出て観音通りを南下「上信電鉄 高崎駅」に到着。ここはローカル鉄道で2両編成の列車で単線を行く。1時間に2本しか通らない牧歌的鉄道だ。
俺は「ワンマン 高崎〜下仁田」と表示された黄色い電車に乗って南下開始。「南高崎駅」「佐野のわたし駅」ときて次の「根小屋駅」にて降車。なんか一軒家ぽい、いかにもローカルな鉄オタが喜びそうな駅だ。出口で蝶ネクタイをした虎猫と遭遇。なごむ。駅猫という奴か。
この根小屋から石原町は、直線で北西に1・3キロぐらいだが、曲がりくねった山登りの道なので、普通なら石原町まで徒歩1時間はかかるだろう。根小屋町の住宅地を西にしばらく進み、俺は森の中に隠れてジェミニ・クレアトゥール変身。ここからはマラソンだ。
身体強化をかけての全力疾走。エインセルに聞いてみたが、ここらの町にもあまり人はいないようだ。避難命令は出てないが、自主的に避難しているのだろう。俺は根小屋町を西に抜け、城山町に入る。ここから北上すると町の最北地のアスレチック公園に出る。この先には山しかない。俺はジェミニ・クレアトゥールの力を使って山の中を一気に北へ突っ切る。
山を抜けると大きな道路に出た。ここからは避難命令が出ている寺尾町だ。車は1台も通っていない。俺はエインセルに確認する。
「エインセル、いるかしら?」
――――いる。この道路の南100メートルに検問。北300メートルにも検問。道路を封鎖しているようね。上空にも無人機1機感知。
「ならクロークをお願い。ここの大通りを抜けて、向こうへ行く」
俺はエインセルに頼んでクロークを掛けてもらい姿を消して。5車線道路を横切り、すぐそこの交差点から坂道を全力疾走で登った。駐車場を抜けるとそこは、高崎市斎場だ。高崎市公営の斎場で葬式や火葬をするセレモニーホール。その先には低い山と森が広がる。
その森の中に入って木に登って北を見れば、眼下に石原町の高台住宅地が見える。しかし酷い惨状だわ。家が40軒ぐらい食べられている。その割には鉄筋コンクリートのマンションは齧られていないな。硬いのが嫌とか?
例のガイマは中心の公園辺りで寝そべって眠っていた。いや、ガイマは休息や眠るなんてことはしないはずだ。一体どういうことだ? ガイマに興味があるのか、体の中からエインセルも出て来た。
「ねえエインセル。あいつ眠っているような感じだけど、ガイマって休むことがあるのかしら?」
――――う~ん……
「どしたの? なにか気が付いたの?」
――――あいつ、普通のガイマとは違うわね。魔力の流れがおかしい。何かあるのは確かね。
「何かってなんなの?」
――――ここからじゃ分かんないわ。私が飛んで行って、ガイマの体の中に入って調べれば、何かわかるかも?
「そんなことが出来るの? できれば調べてほしいけど」
――――む~ん。いいけど面倒臭いのよねぇ…… でも報酬をくれたらやってあげてもいいわよ?
エインセルはニヤニヤしながらこっちを見る。くっ、こいつまた、ろくでもないこと考えてるな。俺は顔が引きつりながらも訪ねる。
「それで、何が望みなの?」
――――そうねぇ。ジェミニ・クレアトゥールの感度を5%上昇で手を打ってあげるわ。
「なっ! なっ、なっ……」
なんだと。感度を5%上昇! こいつは、俺をメス堕ちでもさせたいのか。
いやちょっと待て。なんで俺の心は揺らいでいる?
体全身にゾワゾワとした感覚を覚える。頭もボウッとしてきた。それよりも…… もっと…… もっと上があるのか?
いつの間にかエインセルは、俺のすぐ傍まで来て、耳元で囁きかけた。
――――大丈夫よ? ジェミニ・クレアトゥールの時だけだし、たったの5%上昇だけ、何も変わりはしないわ。ガイマを調べないと魔法少女が危険な目に合うかも知れない。そしたらサトルの計画だって失敗しちゃうわ。だからね。これは必要な出費なのよ。もしそれが嫌なら、後で戻すって約束してあげる。だから、ね?
魔法を使われているわけでも無いのに、俺の頭の中にエインセルの言葉がスルスルと入ってくる。
「……そ、……そうね。後で戻してくれるなら…… サポート役になるつもだったから。……いいわ」
――――おぉー。さすがサトル優しいわね。そういう所が大好きよ。じゃ、ちょっと行ってくるね。あっ、もうすぐクローク解除されるから、そこから動かないでね。偵察機に見つかっちゃうわ。30分ぐらいで戻るから、じゃあね!
そういうとエインセルは、姿を消して森の外へ飛び出した。俺は大きく深呼吸をした。気分が落ち着いてくる。ああ、何かやっちゃった気分だよ。気が付いたら承諾してしまっていた。このままじゃ俺は…… いやいや、たったの5%の変化だ。何も変わりはしないんだ。落ち着け。
気を取り直した俺は、服からナナのスマホを取り出して、情報収集を始める。
ほう、これは…… SNSのツイスターで面白い考察を語っている奴がいる。ガイマがブレスを吐くタイミングは、高崎駅に新幹線がやって来た時と一致するらしい。ブレスの方向も高崎駅方面のみにしか放っていない。
そういや俺が高崎駅に着く直前にもブレスを吐いていたな。あいつ新幹線嫌いなのか?
なんかデッカイヘビみたいな動物だと思っているのかも知れんな。
……何か南の方が騒々しい。多分コレはヘリの音だな。木が邪魔で良く見えんが、数機がどこかに着陸しているようだ。
じゃあ次は赤城山方面の情報チェック。これまで何回か戦闘があったようだ。残りの狼型ガイマは14体に減少している。特に問題も無さそうで、こっちは明日までに決着が着きそうだな。
その次は魔法少女捜索隊ブログ。うん。ハウスイーター討伐作戦のメンツが発表されている。モナセロス・バーゴ・スキュータム・コマ・リンクス・ヴェルペキュラと、事前に予想していたメンバーだな。今回のガイマも新種なので、用心して合体ガイマと戦った経験のある連中での布陣だな。
前線指揮所は石原町から南西1キロにある観音山ファミリーパーク。ここは観光地で広い土地があり、ヘリコプターの着陸も楽々できる。ああ、さっきのヘリコプターは魔法庁のヘリだな。機材か人員を運んでるのだろう。
おそらくここに魔法少女も来るのだろう。作戦開始は明日の午前中とのこと。
そんな感じでスマホをいじってたら30分が経過。エインセルが戻ってきた。
――――調べて来たわ。やっぱり普通のガイマでは無かったわね。
「どういうこと?」
――――あのガイマは子持ちよ。体内で18体の小型ガイマを製造中。眠っているように見えるのは子ガイマの製造に集中しているからでしょうね。
※路線図・簡易地図紹介に、超簡単地図、高崎市近郊・高崎市広域を追加しました。
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