第19話 横浜沖空中追撃戦2


東京湾 横浜港シンボルタワー 南東2キロ 高度150メートル



――――下方よりミサイル! 着弾まで15!!



 エインセルの警告に、下方から迫るミサイル2発を視認。俺は驚愕しながら叫んだ。



「なんで!! なんで私戦ってるのに、ミサイルが飛んでくんのよ~!!!!」



 だが、うろたえている暇は無く。風魔法を使う余裕も無い。俺はプッシュオフを意識しながら、足をワタワタと動かして滑走で加速。同時に魔力障壁を最大にしつつ、ジャンプして床を消す。


 瞬間、背後やや上方で巨大な轟音とともに、ガイマに命中したミサイル2本が爆発!


 俺は背後に爆風を受け、前方に体を回転させながら、急降下した。



「ひょえ~!!」



 俺は風魔法を数度使い体の回転を止め、有翼ブーツであるトゥウィンクル・スターに指示。空中に床を作り着地。ミサイルの破片らしきものも何発か食らったが、魔力障壁に阻まれてダメージは無い。そこにエインセルが状況報告。



――――現在の高度90メートル。上からガイマが落ちてくる!



 俺はハッとして上を向く。そこにはミサイルが着弾して前方に吹き飛ばされながら、きりもみ降下するガイマを発見した。千載一遇のチャンスが生まれたのだ。ここで決めるしかない!



「シャイニング・スター!」


『shining star erementsu』



 マニューバ・ボイスを聞きつつ、俺は右腕をガイマに突き出す。右腕のガントレット型星機装、シャイニングシューターが可変、魔法陣が形成され、オレンジ色の核を持った青い光弾が、ガイマに発射された。


〇シャイニング・スター 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒⇒⇒⇒

マジカルホーミング(魔法誘導)

オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒

ホローチャージ  (貫通力強化)⇒

エクスプレス   (速度強化) ⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒


 ガイマとの距離は100メートル程か。この距離で外す訳も無く、夜空を突き進むシャイニング・スターがガイマに命中。大きな爆発と共に、体がイソギンチャク型なのに羽が生えた、奇妙なガイマの体がバラバラに砕け散る。



――――やったぁ! ガイマを撃破したわ。これで2体目ね!


「フンッ!」



 エインセルは喜んでいるようだが、俺は今、結構怒ってるぞ。結果的にガイマは撃破できたが、俺にミサイルが命中する危険もあったのだ。ミサイル発射の判断を下したのは魔法庁だろうが、いくらなんでも酷すぎる! 俺はどうなってもいいと思っているのか?


 俺は怒りながらも、帰還の為のコースを取る。


 下を見ると横浜港シンボルタワーと芝生広場、駐車場が見える。このシンボルタワーは外見が灯台ぽいが、基本的には船舶信号を送って、船の交通整理をしている信号塔だ。展望室とラウンジがあって、景色が良く無料で入れるので、俺も1回だけ行ったことがある。


 ここから電車に乗るなら、首都高湾岸線沿いに西に向かって、JR根岸駅か。


 俺は、首都高湾岸線に向かうため、南西に向けて加速、移動を開始した。






魔法対策庁 関東総本部 対ガイマ警備部 警備課オペレーションセンター



「ガイマ撃破を確認しました。スケートマジシャン、移動を開始。現在、横浜市中区・本牧和田の上空を南西方向へ移動中。このまま行けば、JR根岸駅付近に到達の見込み」


「【アクイラ・アルタイル】【シグナス・デネブ】追跡終了。大黒ふ頭中央公園へ移動中、運動広場にてヘリ回収を行います」



 神奈川県警察本部ヘリポートから発射された2発のミサイルは、北東を進み、主要航路から外れ、船も航空機もいない横浜港シンボルタワーの南東2キロ位置でガイマに着弾。さらに事情聴取で判明している、スケートマジシャンの攻撃魔法「シャイニング・スター」を受けて、ドラゴンヘッド・アネモネは崩壊、ガイマの制圧が完了した。


 無人偵察機が望遠撮影した、横浜市中区の町の上空を移動している、スケートマジシャンの様子をモニターで見ながら、内海と八木は、先ほどの戦いの話をしていた。



「それにしても見事ですね。まさかミサイルの爆風を利用して急降下。落ちてくるガイマを魔法で狙い撃ちするとは」


「まっ、彼女の計算通りに事は進んだわけだ。しかし、みなとみらいに続いて、また彼女には助けられたな……」


「頭が下がる思いです」


「できれば今すぐにでも魔法庁に採用したい所だが、やはりまだこちらと接触する気はないようだな」


「私が言うのもなんですが、彼女はまだ15歳前後と思われます。あの年頃は多感な時期で、大人を信用し切れていないのかも知れません。特別な力を持ってしまったが故の葛藤。かつての私もそうでしたが……」


「ふむ。では今回も魔法庁としてのコメントは差し控えたほうが良いな。あまり刺激は与えない形にするか?」


「はい。今はそっとしておくべきかと…… いずれ感情の整理がつけば、こちらに接触してくるだろうと思います。もう2度もガイマとの戦いに参加したのです。魔法庁に所属する意思はあるかと思います」



「前回と今回の戦いを含めて、一応、報奨金を200万程用意しているのだがね。外部協力者としてなので、低額になるのは申し訳なく思うが、いつか受け取って欲しいところだな」


「そうですね。……それにしても今回の本部長の采配は見事でした。スケートマジシャンの実力を見抜き、的確な判断を行った。私は元マジシャンなので、現役マジシャンに対し、どうしても過保護になりすぎてしまいます」


「ハハッ。それが君のいい所だよ。そんな君だからこそ、所属マジシャン達も信用してついて来てくれるのだ」


「過分な評価、ありがとうございます」



 内海と八木は和やかに笑いあい、会話もそこそこに後始末の仕事を始めた。






首都高速湾岸線沿い 石油コンビナート上空



「えっ……、ヒック……、グスッ……」



 ガイマとの戦いを終えて、俺は夜空の中、JR根岸駅に向かいながら、思いっきり泣いていた。


 いや、最初は怒っていたはずなんだ。俺をミサイル攻撃に巻き込む危険性があったのに、あんな暴挙を行った魔法庁に対して。


 もちろん俺が悪いのは分かってる。あんなヘボい空中戦を見たら、誰だってあきれてしまうだろう。ミサイルを撃ち込みたくなる気持ちも分かる。けどさぁ、もうちょっとこう、やりようは有ると思うんだよなぁ……



 俺は所詮は凡人だから、いきなり初めての空中戦なんか、上手くできなかった。それでも俺はベストを尽くして戦ったと思うよ? だからさ、ちょっとくらい認めてくれてもいいじゃないか。それを、ミサイルなんか。俺なんてどうでもいいのかよ……


 なんて怒りに任せて考えていると、いきなり俺の感情が反転。猛烈に悲しくなって、いきなり涙ボロボロ零れ始めたんだよ。なんだこれ? こんなに俺涙もろくなかったはずだけど、感情がいきなり不安定になるのは、やはり女脳だからか?


 それとも、これが「女心は複雑」という奴だろうか?


 あるいは単に、俺が女脳をコントロールできていないだけなんだろうか?


 分からん。分からんが、俺は悲しいんだ。


 うわーん!!



「だって…… だって…… 初めてだったんだから。ヒック…… しょうがないじゃない。エッ… それでも、頑張ったのに…… ううぅっ、ミサイルなんか、エッグッ… 酷いじゃない。うううぅぅ、ヒック……」 


――――はいはい。分かったから。ちゃんとガイマ倒したんだからいいじゃない。


「ズピーッ、よくないわよ! エッエッ…… そりゃ私は凡人よ。空中戦もヘボいし……でもでも…… ヒッ、わ、私だって一生懸命頑張ったのに…… うううぅう。グスグス……」


――――もぅ~。メソメソしないの! 男の娘でしょ!


「だってぇ~…… あぁあぁ… ヒッヒッ… もうやだぁ~。どうして… ヒック…… ズピッ…… そりゃどうせ私が全部悪いんでしょうよ。でも、少しくらい…… うぅうううぅぅ…… うわーん!」


――――ああもう、メンドクサイ女みたいになってるわよ。サトル、しっかりしなさいよ!



 俺は止まらない涙に混乱しながら、明るい街の光に照らされた夜空を進む。涙ににじむ横浜の夜景は美しかった。


 こうして、俺のガイマに快勝し有能さを示し、魔法庁に好待遇で就職する作戦は、無残な失敗に終わったのだった……






 翌日、電車で関東総本部にやって来た古伊万里 夏鈴は、アクイラやシグナスの元に押しかけ、東京湾での戦いの様子を聞いた。途中でやって来た八木沙織も話に加わり、大いに盛り上がる。


 アクイラやシグナスがピンチの時に、スケートマジシャンが絶妙なタイミングで乱入。巧みな誘導でミサイルの射程内に入り、ミサイルの爆風を利用してガイマに止めを刺した。スケートマジシャンの優秀な頭脳に、夏鈴は感動した。



「すごーい、キラキラで可愛いだけじゃなくて、頭も賢いんだ……」



 夏鈴は頬を赤く染め、思わずポーッとなってしまった。


 それを見て、他の3人は笑いあった。


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