第18話 横浜沖空中追撃戦


東京湾 海ほたる西2キロ 高度200メートル



――――命中する。



 エインセルの短い発言の数秒後、俺の足に凄い衝撃と轟音が響き、周りに青と白とオレンジの閃光がばら撒かれた。



「グガァアアアアアアアッ!!」



〇セクスタプル・アクセル 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒⇒⇒⇒

オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒

ホローチャージ  (貫通力強化)⇒

落下エネルギー  (衝撃力強化)⇒⇒⇒⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒



――――くっそっ!! 浅い!!!



 ガイマの叫びと肉片らしきものが飛び散る空、心の中に珍しく、美しくないエインセルの罵声が響く。



 それと同時に落下する俺の横を、二人の飛行型魔法少女が、下から上へ通過するのが見えた。


 右側には白ドレスにダークブラウンのプロテクターを装備し、初代とは違って、ややノッペリとしたデザインのプロテクターの為、ステルス戦闘機を思わせる外見を持つ、2代目わし座の魔法少女【アクイラ・アルタイル】


 左側には、ドレスもプロテクターも真っ白で繊細な印象を受ける、はくちょう座の魔法少女【シグナス・デネブ】



 【アクイラ・アルタイル】は、その黒目黒髪の目を剥き、口を開けて驚愕の表情で落下する俺を見ていた。だがそれも一瞬。鳥人間を思わせるその2人の体が、あっという間に遠ざかり点になる。


 ハッとした俺は、有翼ブーツ、トゥウィンクル・スターに指示を送り空中に床を作り出す。再び足に衝撃が走り、青と白の波紋を拡散しながら水平移動に移る。もはやこんな高速でターンを決める余裕は無い。俺はピョンとジャンプして、風魔法で強引に回転して前を向き着地、そして叫んだ。



「エインセル! どうなった!?」


――――ごめん。攻撃をわずかに反らされた。直前でガイマが動いた。追加分でキリングパワー11の攻撃だったけど、5も通ってない。まともに当たれば即死の攻撃だったのに!


「ど……どうしよう?」


――――もう知らない。帰ろうよ。


「んな無責任な! こんな状況で………ッ!!」



 だが俺はそれ以上言葉を発せなかった。右横からダメージを受けた飛行ガイマが突っ込んできたからだ。なんかイソギンチャク型に羽が生えてね? しかし奴の外見を気にしてる場合じゃねぇ!



「ちいっ!」



 俺は防御用にアップライトスピンを開始、しかし……



「わわわ、こ、コントロールが効かない!」



 まるで轍に突っ込んだように俺のスピンした体はズレ、そのままガイマに突撃して激突。双方弾き飛んだ。



「きゃあっ!」


「グアアッ!」



 このふざけんなよ!


 スピンのコントロールが効かん。スピードモードでも一応スピンは安定していたはずだ。だったらやっぱスピードか? スピード出過ぎでコントロールが効かんのか!? 検証してる暇もねえょ! 俺はスピンを中断し、再び直線移動に切り替えた。なんとか姿勢は安定してる。


 だが吹っ飛んだほうのガイマも態勢を立て直す。再びこちらに向かってきたので、今度はこっちから攻撃スピンだ。シットスピンで入り、足を突き出すキャノンボールスピン。そのまま突っ込むつもりが、なぜか左に移動、ガイマから遠ざかる。だが直後に、急激に右方向に移動。再びガイマと衝突した。



「くっ!」



〇キャノンボールスピン 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒

オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒


 衝突した反動で弾き飛ばされた。あかん。本来スピンはしばらくガイマにくっついて連続でダメージを与える技だ。だが移動速度が速すぎで、当たった瞬間に跳ね返される。コントロールがまるで効いてない。俺はお前と「おしくらまんじゅう」する気はねぇんだよ! やっぱ反時計回りがまずいのか?



――――横! 魔法来る! 回避!



 いきなりエインセルの警告。俺はスピンしながら床を消し、一気に20メートル降下。さっきまで俺が居た位置に、2本の魔法ビームが通り過ぎる。くっ、あいつ魔法を撃ってくるのか!? いや、さっき魔法少女2名と空中戦してたんだから当然か! 俺はスピンを停止し、両足滑走の状態でトゥウィンクル・スターが作った床に着地した。


 飛行ガイマは、最初の攻撃がよほど気に障ったのか、降下して俺の横について、再び魔法を撃つ姿勢。


 ならばこれだ!


 俺は直立しての高速スピン、回転突撃用のツイズルだ。今度は時計回り。しかし相変わらずコントロールが効かん。まるで砂利道に突っ込んだ自転車のごとく、ガクガクと上下左右にブレまくる。


 そんな俺にガイマは魔法を発射。ブレまくったおかげで1発は回避。だがもう1発は命中。しかし、このツイズルは元々は突撃用だ、分厚い魔力障壁で、魔力ビームを打ち消す。


 だがその反動のせいか、いきなり俺の体はガイマに突撃して、再び衝突。一撃で跳ね返される。おい時計回り関係ねぇじゃねえか! 反動でガイマから離れると予想したが、そうはならず俺の体は急激に流れ、まるで磁石で引っ付くように再びガイマに激突。



「グアアアアアアッ!」


「うるせぇ! コントロールが効かないっつってるだろ! 何回も言うな!!」←言ってない。



 俺から激突しての衝撃でガイマは叫んだが、俺は可愛い声で逆ギレした。これ本当どうしたらいいんだ? 一番いい手は、距離を取って、俺の唯一の射撃魔法「シャイニング・スター」を撃つことだが、どうやっても、このガイマにスキを作ることが出来ん。


 業を煮やしたアイツは、今度は体当たりを仕掛けてきた。俺もツイズルで応戦。再びの激突。



「ギァアアアァァ!」


「うるせー! バーカッ!!」






横浜市緑区 長津田 古伊万里宅


 わたし、夏鈴は今日は魔法少女の仕事はお休みだ。お家に帰って自分の部屋でお勉強している。


 だけどあまり集中できてないの、原因はガイマの出現。私のスマホには魔法庁との一般連絡用に、ツーラインというアプリでアカウントを作ってる。そこに魔法庁から、ガイマとの戦闘の様子を知らされるのだ。


 情報漏れの危険もあるから、細かいところまでは伝えてこないけど、おおよそのことは分かる。


 房総半島から飛んできたガイマが、今東京湾でアクイラ先輩やシグナスちゃんと戦っているのだ。わたしは最近、ガイマが現れるたびにツーラインをチェックしている。あの子が現れることを期待して……


 あれから何度かガイマは出たけど、あの子は来なかった。どうしたんだろう? 元気にしてるかな? 忙しいのかな? どこかに行っちゃうなんて無いよね? あの子のことを考えると、わたしは色々な思いを巡らせてしまう。



 そんな時、魔法庁から再び情報。スケートマジシャン出現!!!  いいなぁ……


 あの子は空を滑るから、空中戦もできちゃうんだ。あの子と出会えた2人が酷く羨ましい。


 わたしはあの子のことを思う。キラキラで、綺麗で、カッコ良くて。可愛くて。強くて、スケートが上手で……


 わたしの胸が甘くてせつない気持ちで満たされる。


 元気にしてるのが確認できて嬉しいけど…… でも……


 わたしはパンプキン色の髪をいじりながら、ぽつんと独り言をつぶやく。


「お友達に、なりたいなぁ……」






魔法対策庁 関東総本部 対ガイマ警備部 警備課オペレーションセンター



「【アクイラ・アルタイル】より確認が取れました。所属不明マジシャンはスケートマジシャンで間違いありません。目視したとのことです」


「そうか、やはり……」



 内海は八木沙織からの報告を聞いて、難しい顔で大型メイン・モニターを睨む。モニターに映し出された東京湾の地図上で、二つの輝点がぶつかり合い、西進しているのが確認できた。



「スケートマジシャン現在地、横浜市鶴見区、鶴見つばさ橋東4キロ位置、蛇行しつつガイマと衝突を繰り返しています。速度時速250キロ」


「【アクイラ・アルタイル】【シグナス・デネブ】現在スケートマジシャン南東2キロ位置。追跡中」


「飛行マジシャン2名、残魔力値35%。空戦不能と判定」


「スケートマジシャン及びガイマ、針路変更しました。南西、根岸湾方面へ蛇行しつつ進行中。時速220キロ、針路このままなら2分で短SAM射程内」


「なるほど、そういうことか。短SAM射撃用意!」



 内海の命令に、八木が抗議する。



「お待ちください。現在ガイマの至近にスケートマジシャンがいます。短SAMに巻き込まれる危険があります。通信手段もありません」


「その点についての心配はいらん。警察本部ヘリポートに展開中の短SAMは、魔法対応型のМ型だ。弾頭に魔法素子を利用。敵味方識別信号が無くとも、マジシャンを回避しガイマのみに命中する。それにだ八木君。彼女がミサイル攻撃を想定しているとしたらどうだ?」



 内海の指摘に、八木はハッとした顔をした。



「……まさかスケートマジシャンが、我々の作戦を看破して、ミサイルを利用してガイマを撃破しようとしている?」


「そうだ。この飛行ルートなら間違いあるまい。彼女はガイマの常に東を占有し、ガイマを西に追いやって南下している。ヘリポートに短SAM部隊を配置、東京湾でガイマを迎撃する計画はマスコミに公開しているからな。頭脳明晰な彼女のことだ。

我々の作戦に気が付いているのだろう」



 確かにミサイルで東京湾に侵入するガイマを撃ち落とす作戦は、マスコミやネットに公開されている。この軍事作戦公開は異例の事ではあるが、戦うのは敵軍では無く、ガイマであるため、東京都民の安心を優先してマスコミに公開された。新横浜での、あの巧みな逃走を演じたスケートマジシャンならば、これに気が付かない訳がない。



「確かに…… その通りですね。彼女ほどの優秀な頭脳の持ち主ならば、必ず利用するでしょう」


「決まったな。短SAM部隊に連絡、射程に入り次第発射を許可。タイミングは任せる。条件は海上で航空機・船舶がいない場所だ」


「了解しました。短SAM部隊に通達」



 それから1分後、横浜市中区の本牧ふ頭沖にスケートマジシャンとガイマが侵入したタイミングで、81式短距離地対空誘導弾2発が、高度150メートルを飛ぶガイマに向け発射された。



「短SAM2、発射! 着弾まで35秒!」


「これで確実に決まりますね…… スケートマジシャンがこのミサイルをどう利用するか、気になります」


「ああ、優秀な彼女のことだ、ミサイルを感知したら、ほくそ笑むことだろうな」



 勝利を確信した2人は、笑いあって頷いた。

 神奈川県警察本部ヘリポートから発射された2つの輝点は、刻々とガイマに迫りつつあった。






東京湾 横浜港シンボルタワー 南東2キロ 高度150メートル


 俺は決め手に欠けたまま、ガイマとの衝突を繰り返した。だがここに来てスピンのコントロールを取り戻しつつあった。エインセルに確認した所、速度が時速220キロまで低下していることが判明した。たくっ、手間取らせやがって、ここからスピンで削って、シャイニング・スターで粉々にしてやらぁ!



「よーし、じゃあ行くわよ!」


――――下方よりミサイル! 着弾まで15!!


「ハッ?!」



 エインセルの警告に俺が下を見ると、光る光点が2つ。みるみるこちらに近づいて来るのを確認した。完全には見えないが、噴射炎で照らされ、棒状のものが接近して来るのが見て取れた。あまりのことに俺は大声で叫ぶ。



「なんで!! なんで私戦ってるのに、ミサイルが飛んでくんのよ~!!!!」


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