第17話 魔法少女空中戦
魔法対策庁 関東総本部 対ガイマ警備部 警備課オペレーションセンター
リニアキャノンにより射出された2名の魔法少女【アクイラ・アルタイル】【シグナス・デネブ】は、川崎区の東扇島5キロ手前に時速200キロで到達。その300メートル先を行くガイマを追跡するべく、左に90度旋回。
急降下をかけて時速300キロに増速し、前方の高度200メートルを飛行するドラゴンヘッド・アネモネを補足した。
「マジシャン2名、エンゲージ。交戦距離に到達!」
「陽動攻撃を許可する」
内海の許可を得て、2名の魔法少女は高速でガイマの背後に接近。魔法攻撃を実行する。2代目わし座の魔法少女【アクイラ・アルタイル】は両腕を突き出し、ガントレット部分から光弾を連続発射。はくちょう座の魔法少女【シグナス・デネブ】は、手のひらに魔力弾を形成、投擲するように魔法弾を発射した。
発射した光弾は、ドラゴンヘッド・アネモネの至近距離を通過。2人はそのままガイマを追い越し、緩やかに左旋回に入る。威嚇攻撃を受けたドラゴンヘッド・アネモネは、加速しつつマジシャンを追尾し始めた。ガイマを食いつかせた彼女らは、そのまま南に針路を取る。
「ドラゴンヘッド・アネモネ。射撃に反応し増速、針路南、時速250キロ。マジシャンを追尾してきます。 ……触手による魔法攻撃を確認」
とりあえず陽動第1段階はクリアした。この戦闘空域直下には「東扇島西公園」がある。この公園は緑が多く釣りも可能な公園で、ここから羽田空港はわずか6キロしかない。ギリギリで羽田空港侵入は阻止した形だ。
「ガイマさらに魔法攻撃、増速中です。現在の速度時速380キロ!」
「マジシャン2名、機動飛行モードへ移行。増速中時速400キロ」
「ガイマ再び魔法攻撃!」
飛行型魔法少女は、背中に大きな翼を装備している。翼の根元にはマギホバーがあり浮遊飛行が行え、根元以外の翼の部分では、風魔法を使い高機動飛行が可能だ。通常飛行モードの場合は、ホバーと風魔法を併用して、飛行に必要な魔力消費を最小限に抑える。
しかし、機動飛行モードでは、ホバーを完全に切って風魔法のみで飛行を行う。こうすることにより、最高速度400キロを出せ、高機動飛行が可能だ。ただし大量の魔力を消費するため、追い詰められなければ行われることはない。
「ガイマさらに増速。時速420キロ!」
「マジシャン2名防衛機動、さらに防衛機動…… 南西への誘導困難です。針路蛇行しつつ東へ逸れます!」
「現在戦闘空域は海ほたる西3キロの位置!」
これまでの戦闘経験から、飛行型ガイマの最高速度は時速300キロ前後と見積もられていた。
今回は未確認だったこともあり、飛行マジシャンは陽動のみとし、攻撃はミサイルで行うことにより、多少想定を超えた能力をガイマが持っていても、十分な余裕を持たせていたはずだった。
だが実際には、ドラゴンヘッド・アネモネは想定を遥かに超えた空戦能力を保持していたのだ。
「マジシャン2名、魔力値40%を割り込みます。このままでは!」
八木沙織が内海に警告を発する。作戦は完全に破綻。内海は重い決断を下さざる得なかった。
「現時点で作戦を放棄。魔法攻撃を許可する」
勿論これで命令は終わらない。マジシャン2名には急降下で海ほたるへ向かわせ、建物内部に避難させる。ガイマがどう反応するかは未知数だ。しかし、海ほたるは5階建て構造であり、1~2階の駐車場へ逃げ込めば、ガイマが海ほたるを攻撃しても耐えうる構造となっている。
だが、上層階の商業施設は破壊され、観光客は何人か死傷する可能性がある。同時に海ほたるへ連絡して、観光客は駐車場へ避難させるしかない。
その間に、無人偵察機と自衛隊の戦闘機を呼び寄せ、ガイマを撃墜するほかは手は無いのだ。犠牲者ゼロで終わらせることは極めて困難な作戦。だが内海は決断を下した。そして命令を下そうと口を開きかけた、が、その時。
「本部長、新たなマジシャン1を確認。北から時速460キロで戦闘空域へ接近中。到達まで2分!」
「何ッ! どこの飛行マジシャンだ?」
「現在飛行マジシャンの所在はすべて把握。これは所属不明のマジシャンです」
所属不明。それを聞いて内海は脳裏に、みなとみらいに現れたスケートマジシャンを思い浮かべる。たしかに彼女なら空中戦にも介入できるか? だが、スケートの滑走では、自由に空中を移動可能な3次元戦闘に、十分対応できるとは思えないが……
今は激しい空中戦のために無人偵察機も引き離されており、赤外線映像での確認も出来ない。しかし情報を集める時間はなかった。
「所属不明マジシャン、急降下! ガイマ直上!」
東京湾 海ほたる西10キロ 高度400メートル
「うおおっ、海に出たら真っ黒じゃん。どこにいるか分かんないよ。コレ…」
俺は眼下の真っ黒い海を見てビビる。
というか眼下は四方八方真っ暗だ。空には月や星がでてるので、多少は明るいが、気休め程度に見えてしまう。勿論、俺は魔法少女になっているので、身体強化で夜目は効くが、心細く感じる。
扇町駅から変身してすぐ東進、運河を越え埋立地を越え、しばらく進むと地上の明かりから離れ、真っ暗な東京湾に躍り出た。現在速度は時速250キロ。真っ暗な海の中で、ときおりポツポツと光の点が見える。こいつは東京湾を航行中の船だろう。遠くの海上の方に、明るい点があって、光の線が続いている。
恐らくあれが海ほたるで、続く線は木更津に続くアクアブリッジと思われる。周囲には極寒の突風が吹いているだろうが、俺は魔力障壁でガードしてるので、そよ風程度しか感じない。体内のエインセルが話しかける。
――――大丈夫。位置はマギアプリで完全に把握している。それに遮るものが無い空中目標の方が、魔力感知もしやすいしね。でも失敗したわ。サトルのステータス機能にも、地図や方位、速度が分かるマギアプリを入れておくべきだった。
「ふうん。この戦いが終わったら、そのマギアプリっていうの? 入れてほしいわね」
――――いいわよ。現在、海ほたるから西5キロ位置。……魔力感知した。南に魔法少女2、ガイマ1。空中戦の真っ最中みたいね。サトル、南に針路変更。こっちよ。
と、エインセルは体内から指を差す。当然俺には見えないはずだが、どういうわけか差した指の方角が分かった。俺はスピードスケートの要領で、前傾姿勢でスラロームを繰り返し、大きく弧を描くように南に方向を変える。ブレードはスピードモードになっており、通常より刃が長いため、小回りは効かないがスピードは出せる。
スピードスケートでは、脚による伸展動作。すなわち爆発的なプッシュオフで推進力を得る。特徴としては直線では脚運びにロスが生まれ、カーブでは脚運びは効率的になる。その為、カーブに入ると加速するという、車のレースとは逆パターンの加速方法となる。
俺は加速しつつカーブする。一応スピードスケートの初心者講習を小学生にまじり数度受講したが、まだまだロスが多いだろう。魔法少女パワーで転びはしないが、要練習だな。
――――おっけー。じゃあ風魔法を使うわよ。目標は時速400キロ以上。それぐらい出さないと追いつけない。
「ちょっ!」
俺は慌てて前傾姿勢で両足滑走の態勢に入る。お前なぁ、スピードスケート初心者にいきなり時速400キロはねぇだろ! 俺が心の中で悪態をついていると、背後でエインセルの風魔法が爆発した。俺は一気に加速する。
――――クローク解除されるわ。 ……解除された。これで魔力レーダーに感知されたはず。現在速度、時速460キロ。
一応俺たちは事前打ち合わせで、離陸時に姿を消すクロークの魔法を使っている。これを使えば短期間ながら、初歩的な魔力レーダーの目を誤魔化せる。どこから現れたか推測させないためと、ガイマの奇襲対策の為だ。戦闘機でも離陸時が一番危ないっていうから一応ね。
――――サトル。コース修正ちょい右、ちょい、ちょい、ちょ、ちょ、そこ! よし、コースばっちり! 攻撃1分以内。
移動中の電車の中で、エインセルと議論して決定した攻撃プランは実にシンプルだ。すなわち一撃必殺。
ガイマは自由に飛行できるが、こちらは空を飛んでいるものの、基本はスケート滑走。平面的に動け、急降下も可能だが、戦闘中に上昇する余裕は無いだろう。どう考えても空中戦では不利。よって初撃、ファーストストライクにすべてを賭けるという戦略。
――――サトル。私が合図を出すから、そしたら「セクスタプル・アクセル」で攻撃。床を消して急降下。細かい微修正は私がやる。
――――了解。
俺は念話を発動させ心の中で返事する。俺念話好きじゃないんだわ。なんか心が疲れるというか。エインセルは慣れてないからだ。て言うけどさ、なんか会話してる気がしないのよね。だから、いつもは口で返事するんだが、今は切迫してるので念話で返してる。
――――攻撃準備、カウント5・4・3……
俺は指先に光を集め、エレメンツを出す準備をする。
――――2・1… 今!!
「セクスタプル・アクセル!」
『sextuple axel erementsu』
マニューバ・ヴォイスを聞いた俺は、飛び上がって6回転アクセルを開始。そのまま床を消して急降下する。回転が終了し、俺は片足をだしたまま降下を継続。周りは静かだ。風の音しか聞こえない。今この真下で激しい戦闘が起きてるなんて信じられないくらいだな。
落下エネルギー (衝撃力強化)⇒
あっ、長い降下なので落下エネルギーが1追加されたな。
今俺の体は後ろに向かって時速400キロぐらいで進行しているはずだ。これだよ……
最初は前向きに進んでセクスタプル・アクセルを繰り出したんだが、回転が終わると俺は後ろを向いてしまうんだ。つまり目で見ながら修正して、当てることが出来ないんだよな。まあ俺だって魔力感知は使えるから、風魔法で微修正してガイマに当てることは出来る。時速200キロ以内なら……
だが時速400キロとなると、お手上げもいいとこだ。あとは神様妖精様エインセル様に任せるしかない。
落下エネルギー (衝撃力強化)⇒
おっ、風魔法がパンパンいってる。エインセルが微修正してるな。クックックッ、今俺のスカートが全開で裏返っていると思ってるだろうが、そこは魔法少女パワーで大丈夫なのだよ。スカートは広がってはいるが、謎パワーにより、完全に裏返りはしない。カッコ悪いからな。そこは俺とエインセルのこだわりだ。
落下エネルギー (衝撃力強化)⇒
――――命中する。
エインセルの短い発言の数秒後、俺の足が衝撃に襲われ、周りに青と白とオレンジの閃光が輝いた。
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