第12話 魔法少女達の闘い


 私の名前は古伊万里 夏鈴(こいまり かりん)て言うの。15歳の女の子よ。


 暗いオレンジ色、パンプキンの髪の色で、赤いガーネットの瞳。なんだか背が低くて、よく可愛いって言われるの。ちょっと頼りないように見える、どこにでもいる学生だけど。そんな私には凄い秘密があるの。


 実は私の正体は、日本の平和を守る為、日夜ガイマと戦う、やまねこ座の魔法少女【リンクス・アルシャウカト】なのよ。


 小学生の時に魔力があるのが分かって、最初は魔道師の訓練を受けたけど、途中で魔法少女になれることが判明して、それからは自分の意志で、ガイマと戦うことを選んだのよ。



 そんな私の親友は、天道 美果(てんどう みか)ちゃん。

 黒い髪にチョコレートブラウンの瞳の女の子。


 私たちは小学生からの付き合いで、最初はみかちゃんて呼んでたけど、最近は省略して「みかちん」とか呼んでるね。そんな彼女は、魔法少女としてのパートナー。こぎつね座の魔法少女【ヴェルペキュラ・アンセル】なのよ。



 そんな私たちは、一緒に訓練して、一緒に遊んで、一緒にガイマと戦ってきた。かけがいの無い親友。そして今日も一緒に、関東第1支所で待機任務だ。


 関東第1支所は、横浜市緑区の長津田って所にあるの。私たちは生まれも育ちも長津田よ。長津田はまあ、普通の町かな、でも電車で色々な所に行けるね。


 駅から西に電車で向かえば、相模原駅へ行ける。駅前には魔法対策庁の関東総本部があるよ。そして東へ行けば、新横浜にすぐ出れるし、その先の菊名で乗り換えれば、横浜や武蔵小杉、渋谷にも出られる。


 いつものように、みかちんと色々お喋りしながら待機していると、突然の出動命令。みなとみらいにガイマが出現したんだって、私たちは、いつものように二人で出動。一路みなとみらいに向かった。





 最初のガイマは、ダークレイブンとアビス・ジェリーフィッシュ。こっちはリニアキャノン組の先輩達が4人もいる。私たちも含めて6人、この戦力で負けるわけもない。襲ってきたガイマを、特に苦戦することもなく倒せた。


 そして次は見たこともない未知のガイマ。少し不安だったけれど、私とヴェルちゃんは、植物型の3号ガイマと一生懸命戦った。私たちのペースで戦いは進んでいたけれど、ガイマは突然後退して、なんと合体して1つのガイマになってしまったのだ。



「な…… に…、合体だと!?」



 いつも冷静なモナセロス先輩の、驚愕した声が聞こえる。でもそれもしかたない。私も結構色々なガイマと戦ってきたけど、こんなガイマは見たことないし、外国にもいないだろう。


 私たち6人は、それでも怯むことなく、合体ガイマと戦った。でも合体ガイマは巧みに連携して皆を蹴散らした。私たちは後退して態勢を立て直す。でもこれ以上後ろに下がれない。みなとみらいキャンパスに避難民がいるからだ。


 私たちは再び攻撃。でも合体ガイマの連携に阻まれる。そうこうしている内に、無線で話すモナセロス先輩のウィンド・ボイスが聞こえてきた。



「て… 撤退ですか…」



 確かに、私たちは魔力を使い過ぎた。ヴェルちゃんは疲れた顔をしていた。私はまだ余力があるし、ヴェルちゃんには先に帰って休んでほしい。私がふとそんなことを考えた時、突然ガイマが大きな火球を、みなとみらいキャンパスに発射した。皆思うように動けない。長時間戦って、疲れて集中力が切れているのだ。



「あっ、ダメッ!!」



 私も大声を上げる。そんなことをしても無駄なのに。私がいる所からだと、どうやっても火球に届かない。先輩たちもだ。私はそれを見ることしか出来なかった。でもその時、突然上から青い流星のような輝きが落ちてきて、火球を粉砕した。


 そうか、空からの攻撃なら、こっちには飛行型マジシャン。アクイラ先輩やシグナスちゃんもいる。きっと本部の指示で助けに来てくれたんだ。私がそう思った時、爆発した煙の中から、人影が飛び出して来た。その人は緑黄色の光を纏って、後ろ向きに凄い速さで滑りながら、ステップを踏んで、クルリと回って前を向いた。あれ? あの人は誰だろう? 見たことない子……



「えっ!! 誰あの子?」

「ひょっとして関西本部の子とか?」

「いや聞いてない!」

「すっごい滑ってるよ!?」



 耳元にウィンド・ボイスによる混乱した皆の声が聞こえる。私はプライム・ギャラリーみなとみらいの屋上駐車場に着地していたけど、目の前で、足元にオレンジ色の軌跡を残しながら、緑黄色の光を纏った、可憐な少女がガイマに突撃する。


 緑黄色の髪、オレンジ色の瞳、そして美しくも可愛らしい横顔。


 彼女は、皆を苦しめるガイマを許さない。と感じるような獰猛とも見える笑顔を見せる。そして、いきなりの急加速。その時、彼女からのウィンド・ボイスと思える、美しい艶のある声が私に響いた。



「セクスタプル・アクセル!」


『sextuple axel erementsu』



 その後に、冷静な大人の女性の声が続く、そして、彼女は飛んだ!


 高く高く舞い上がったあの子は、回転しながら高速で落下。円盤型ガイマの頭部に一本足で着地した。瞬間、青とオレンジの閃光がほとばしり、円盤型ガイマの顔の半分が、吹き飛んだ。


 そしてまたクルクルと回転して、さらに追撃の一撃を加える。そしてもう一度ジャンプして回転、ガイマの体を離れて急速落下。そして片足で着地。その瞬間、着地した空中から綺麗な青と白の波紋が拡散する。そして前を向きながら足を動かし、急速に後退した。私はその動きをテレビで見て知っていた。あれは、あの動きは……



「凄い、フィギュア・スケート!?」

「おおー。なんか凄い綺麗ね!」

「キ、キラキラな攻撃…」



 そうだ。あれはフィギュア・スケートだ。フィギュア・スケートの魔法少女だ。でも、あんな人がいるなんて聞いたことがない。


 そこへ、モナセロス先輩の大声が響いた。



「みんな、円盤型ガイマはダメージを受け火力が激減した! 総攻撃だ。魔力を振り絞れ!」



 その号令で、先輩達やヴェルちゃんが魔法を撃ち始めた。先輩は、ここでガイマとの決着を付けるつもりなんだ。私も動こうとしたけど、あんな射撃の中に飛び込んだら、撃たれかねない。どうしようか迷っていると、何かの音が聞こえたような気がして、横を向く。 へっ!?


 そこには、さっき綺麗でキラキラした攻撃を行った、可憐なフィギュア・スケートの魔法少女が立っていた。私は焦りながらも、じっくりとあの子を観察してしまう。そんな事してる場合じゃないのに、でも目が離せない。



 あの子は金の星が描かれた緑黄色ドレスを着ていた。お腹には凝った装飾のベルトを締め、背中側にはピンク色の大きなリボン。胸元に大きな宝石。右腕には黒いガントレット。左腕は白いプロテクター。足には大きな羽のついた白いブーツ。その靴底には、オレンジ色に光るスケート刃。


 そして額にはサークレット。緑黄色のふんわりした髪を包むような金の髪飾り。その顔は、ガイマを凛とした表情で見つめるオレンジの瞳。美しくも可愛らしい顔。


 

 あの子はしばらくガイマと皆の戦いを見てから、下を向いてフッと笑った。まるで皆がガイマと戦っていることを感謝しているような笑みだ。そして指を伸ばして、胸の前に差し出した。すると指先が光り、あの子は美しい声を発した。



「スパイラル・アクセル!」



 そしてベルトのバックルに、光る指を通す。



『spiral axel combination ready』



 そうか、あの大人の女性の声は、こうやって出るのか。疑問が一つ晴れた私の前で、あの子は右腕のガントレットに左手の突き出した指を乗せる。すると、あの子を包む緑黄色の光がどんどん強くなり、エネルギーが高まるような音が周囲に響く。そして髪飾りが髪を離れて、額のサークレットに結合して冠になった。背中から妖精のようなオレンジ色の大きな羽が生えてくる。私はその美しさに息を飲む。


 気が付くと、あの子の右腕のガントレットに表示されていた光の帯が、表示面一杯まで光っているのが見えた。そしてまたあの声。



『full power evolution』


 

 その声が響いた直後、あの子は両手を振り下ろす。右腕はそのままに、そして左手は、光る指が軌跡を描き、ベルトのバックルを通過。



『spiral axel combination』



 またあの声が響き、ベルトのバックルがスライドして開き、中から金の粒子が大量に拡散。同時に背中の羽根が崩れて、オレンジの粒子になり拡散、あの子の周りを包み込む。そしてそのキラキラの粒子は、あの子の体にどんどん吸収される。最後のキラキラが吸収される時、あの子は両手を差し出す。


 すると足元に大きな魔法陣が現れた。いや、上空にも巨大な魔法陣が顕現したのだ。その魔法陣はキラキラと輝き、ゆっくり回転していた。



「あっ、あっ……」



 あまりにも荘厳な風景に、私は圧倒された、そこへモナセロス先輩の注意が届く。



「大技が来るぞ! 全員退避!」



 その瞬間、あの子がロケットのように撃ちあがった。あの子はそのまま魔法陣に突っ込み。大きな青い流星になった。そして高く弧を描くようにして、合体ガイマに落ちていく。


 私は天猫ブーツで空に駆け上がり、上空にいた先輩達に合流し、ガイマの正面に出る。見届けないと、これを見届けないと絶対後悔する! そう思いながら私は顔を上に向ける。



 そこには、猛スピードで落ちてくる流星が見えた。その中で、あの子はクルクルと高速回転をしながら、周囲にらせん状の青い光を放ちつつ、片足でガイマに凄まじい勢いで着地。その時、足から青とオレンジと金の光の奔流の衝撃が撃ちだされ、真下と周辺が光の粒子で満たされる。ガイマは上からくる圧力に耐えかね、地面に沈み込んだ。


 その青と金とオレンジの粒子に満たされた空間で、私は皆の顔を見た。私の親友ヴェルちゃんも、普段は冷静なモナセロス先輩も、コマ先輩も、バーゴ先輩も、スキュータム先輩も、皆が目を剥いて口を開けて、この超然とした光景に魅入っていた。

きっと私もそんな顔をしているのだろう。



 でもあの子の動きは止まらない。ガイマの頭上で、あの子は高速回転を始める。それを見て私はテレビで見たフィギュア・スケートを思い出す。テレビで見た時よりも、ずっと早い回転、その中で、あの子は次々と姿勢を変える。伏せ、横向き、足を繋ぎ、足を高く上げ、後ろで足と手を繋ぐ。


 そして姿勢が変わるたびに、光の粒子が、らせん状に周りに波のように広がる。


 なんて、なんて綺麗なの……



 キラキラ光って 美しく うるわしく

 まるであの子は女神のよう

 かがやく光にうたれて

 わたしの心は喜びにふるえる

 なぜだか涙があふれてくる


  

 私は涙ぐむ。何故だか分からないけど、あの子を見ていると、沸き上がる感情で、とっても胸が苦しくなる。


 そんなことを感じていると、ガイマに次々に光の亀裂が入った。そして、光の大爆発!



「くっ!」

「きゃっ!」

「ちょっ!」



 皆はその衝撃を受け吹き飛ばされる。そして私も下に落ちて、元居た駐車場に着地した。その時私は見た。足を後ろに伸ばし、両手で繋いだ姿勢のまま、あの子はクルクルと回り、青い光の粒子をまき散らしながら落下。そして両手を広げ、見事な姿勢で片足を突き出す。


カアァァァァン!


 甲高い音と、青と白の大きな光の波紋を広げながら、あの子は美しく着地した。そして高速で後ろに滑りながら、右腕を突き出す。



「シャイニング・スター!」


『shining star erementsu』



 その麗しい声が響くと同時に、右腕先に魔法陣が作られ、真ん中にオレンジの光を包んだ、青い光弾が撃ちだされる。その光弾は、残っていたガイマの足、植物型の3号ガイマに命中、ガイマは完全に砕け散った。


 その光景に見とれていた私は、体の向きを変えたあの子と一瞬目が合ってしまった。あの子は、晴れやかな笑顔を浮かべていた。それはまるで、すべてを許す慈愛に満ちたような笑顔で……


 私は、胸がキュッと締め付けられるような感覚を覚える。


 あの子は方向転換を終えると、小さくジャンプして、一気に加速。急激に遠ざかる。私は、居てもたってもいられなくて、手を伸ばして叫んだ。



「あっ! 行かないで!」



 お願い行かないで。ここで別れてしまったら、次はどこで会えるか分からない。だから行かないで、離れたくないの!


 でも私の言葉は、あの子には届かなかった……



 気が付いたら、私はひとすじの涙を流していた。






 それから、ガイマが滅んだことを確認した私たちは、最前線簡易拠点が設置された横浜Kアリーナ屋上で休憩。疲れ切ったヴェルちゃんは、私に体を預けながら休んでいる。ヴェルちゃんが気の抜けた声で話しかける。



「今日はなんか、色々ありすぎて疲れたよ~」


「ふふふ、そうだよね…」


「なんかピカってして、クルクルして、ドカーンだったわよねぇ……」



 ヴェルちゃんは、さっきの経験を思い出して、放心してるように感じる。先輩達も休憩しつつ、ヴェルちゃんと同じような表情なの。そこにバタバタとうるさい音が響く。私たちが帰還するための迎えのヘリだ。ヴェルちゃんは、スポーツドリンクを飲んだ。



 私は今日経験した光景、感情、そしてあの子のことを、死ぬまで忘れないだろう。


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