第11話 魔法少女ジェミニ・パラックス
横浜市神奈川区 東急東横線 反町駅
俺は反町駅の改札を出て道路に出る。この反町駅は、元々地上を走っていたが、たしか2003年頃に地下化したのか? で、地上の線路部分は、今はフラワー通りという遊歩道になっている。元線路があった所を歩けるので、なかなか面白い駅だと思う。小学生の時「たんまち駅」を「そりまち駅」と呼んで、友達にバカにされたのは、いい思い出だ。
俺は建物下部に、青いモザイクタイルで波のデザインが施されている特徴的な駅舎を横目に、道路を南へ向け全力疾走する。住宅街を突っ切ると左手に橋が見える。俺は左に曲がり橋を渡る。橋の下には、元線路があったフラワー通りが見える。橋を渡って、道路沿いに南東方向へ一直線に50メートルほど走る。
――――ねぇ? どこに向かっているの?
「この先に大きな寺がある。任せといて、この辺は土地勘があるから、それより人がいないか確認してて」
俺はエインセルの質問に全力疾走しながら答える。それにしてもジェミニ・クレアトゥールの身体強化魔法は素晴らしい。駅からここまで、殆ど息継ぎ無しで走ってるよ。走っていると道路が途切れ、石垣が目の前に現れる。
「ここ、周辺に人や車はいる?」
――――どっちもいないよ。
「結構。フンッ!」
俺は道路を走って渡り、5メートルの高さでジャンプして、柵の向こうに着地する。
――――ここはお墓ね!
「そう。大きな墓地よ。この中に入れば、人の目は殆ど無いから変身に最適よ」
俺はそう答えながら、墓地内にある木の陰に隠れて、両手を脇に当てて「ジェミニ・ライザー」を顕現する。右手の人差し指と中指を突き出し、指先に魔力を流す。
そしてオーダーを宣言し、光る指先をベルトのバックル部分に通過させる。
「ドレスアップ・パラックス」
『dress Up Gemini Pollux』
俺の宣言に、エインセルの録音された声が答える。今回は変身バンク無しの簡易変身だ。見てる奴もいないからな。俺の体を青い光が包む。相当目立つが、光に包まれてさえいれば、俺の姿は露見しない。光が消えると、俺は緑黄色に光る魔法少女になっていた。
『dress Up Gemini Pollux complete』
「変身完了。ハッ!」
俺は勢いをつけて高度上昇用ジャンプを行う。ダブル・サルコウだ。このジャンプにより、俺は高度20メートルに上昇し着床する。魔法の有翼ブーツ、トゥウィンクル・スターはどこでも床が作れるのだ。俺は素早くフロントクロスオーバーで前進を開始する。南に向け寺を越え、道路を越えると、すぐに線路上空に出た。
ここで再びトリプル・サルコウ。高度を50メートル上昇させ、高度70メートルに着床。この先に高架道路があるための措置だ。俺は線路上空沿いに、風魔法を使って時速120キロで南下を開始する。
車が走っている高架道路の上を通り、ショッピングモール・CIAL横浜アネックスを通過。次の高架道路を過ぎれば、すぐ横浜駅だ。横浜駅ホームを通過しながら左を注視、ここだ。俺は警察署の建物上空を通過、ターンしつつ後ろを向く。
すると駅のホームから、こちらにスマホを向ける複数の旅客がいたのを見つけた。まったく、ガイマ避難命令が出てるというのに。どうせガイマが来たら地下鉄に逃げる算段なんだろうが。俺は旅客に手を振り媚びを売りつつ、横浜中央郵便局上空で再びトリプル・サルコウ。高度を120メートルに上げた。みなとみらいは背の高い建物が多いので、これくらいは上げて置く。
ターンしつつ再び南下を開始。川を越え、高速道路を越えて、みなとみらいに到着。みなとみらい本町小学校上空を通過して、すずかけ通りへ。すずかけ通り上空で左折、次の交差点で右折。その時、エインセルが反応した。
――――見つけた。ガイマよ! この先100メートル程。
フフフ、ついにガイマと邂逅か。この先100メートルってことは、みなとみらいキャンパス前か、俺は減速しつつキャンパス上空に向かう。その時、衝撃的なセリフをエインセルが言った。
――――でもガイマ1体しかいないよ?
「なんだとっ…!」
フフ、フッ。さすが日本が誇る魔法少女。すでに9体を撃破していたのか… キャンパス上空に来ると、デカいガイマを発見した。魔法少女と戦っているようだが、もうボロボロじゃんアイツ。俺は自分の計画が破綻したことを悟った。
理想
魔法少女がピンチ! → 助けに来たよ♪ → 「きゃ~、ステキ、結婚して!」
現実
何今頃来てんの? もう9体始末したんだけど。なんなら最後のガイマをボコボコにしてるんだが? お前何しに来たの?
あぁ、現実とは、かくも厳しいものなのか…。と黄昏ていると。ガイマが円盤型の頭から大型火球を発射した。向かう先は、みなとみらいキャンパスの建物。俺は反射的にトリプル・アクセルを繰り出し、床を消去。一直線に火球に向け落下した。魔力障壁も最大にして火球に激突。なんとか火球を粉砕して、建物に被害が及んでいないことを確認。1本足着地からターンして、前を向く。
あっ、しまった。
目の前にガイマ。戦っていた魔法少女達全員が、俺を驚いた顔で注視している。やらかしたよ。このまま帰ろうと思ってたのに。あっ、光り輝く髪の「雑魚狩りのコマちゃん」じゃないですか、ゲームでお世話になってます。あっリンクスだ。猫パンチ可愛いよね。おおう【モナセロス・ルステニア】粛清先生だ。むっちゃ睨まれてる。怖わ!
――――何をグダグダと…。で、どうするの? 帰るの?
「ハハッ。冗談! ここまで来てそれは無いでしょ! ガイマを叩くわ。男は、男の娘は度胸よ。行くわよエインセル!」
もうなんか色々吹っ切れた俺は、風魔法を使って時速120キロに加速。フロントクロスオーバーでガイマに迫る。ガイマはうろたえるような仕草を見せた。へえ、ガイマもビビることがあるんだ。俺はそう思いながら、指先に光を集める。ここは新技で勝負!
「セクスタプル・アクセル!」
『sextuple axel erementsu』
マニューバ・ヴォイスを聞いて、俺は6回転アクセルを仕掛ける。こんなことが出来るなんて、もはや人間じゃないな、超人だな。あっ、それと技を仕掛ける時には、発声とマニューバ・ヴォイスは自動的にウィンド・ボイスになって、魔法少女達に知らせるんだそうな。理由は技に巻き込まないようにする安全の為と、俺のアピールの為だ。俺は30メートルの高さを跳躍し回転した。
〇セクスタプル・アクセル 射撃状態ノーマル
基本攻撃力 ⇒⇒⇒⇒⇒
オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒
ホローチャージ (貫通力強化)⇒
落下エネルギー (衝撃力強化)⇒
キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒
そしてデカいガイマの円盤状の頭に、片足着地した。その瞬間、ズドンとっ、衝撃波がガイマを貫いているハズだ。うーん。前から思ってたけど、フィギュアスケートの攻撃技って、大体真下に衝撃が走るから、客観視できないんだよな。本当にこの攻撃効いてるか不安になる。ガイマの頭に着地した俺は、後ろに滑りながら次の技を繰り出す。
〇トリプル・トウループ 射撃状態ノーマル
基本攻撃力 ⇒⇒
オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒
キリングパワー ⇒⇒⇒
再び片足着地で、衝撃波を真下に送る。そして次はダブル・トウループでジャンプして、ガイマの頭から外れて、20メートル下に落下し片足着地。バッククロスオーバーを行い、前を向きながら高速で後退する。うん。訓練通りの一撃離脱戦法になった。やっと見えたガイマの頭を観察すると、見事に半分ほど吹き飛んでいた。おお、結構効いたな。
この攻撃を合図に、魔法少女達は再びガイマに攻撃を開始。俺はバッククロスオーバーのままぐるりと周り、プライム・ギャラリーみなとみらい直上へと到着。その場で停止する。少し遠い所にリンクスちゃんがいて、こっち見たりガイマ見たり忙しそう。ヤバいのはモナセロス粛清先生だ。ガイマにホワイト・サンダー撃ちながら、こちらをチラチラと睨んでくる。
あれだな。ゲームの時も目線鋭いなと思ってたけど、本物はそれ以上だわ。これ後で絶対絡まれるパターンじゃん。私の獲物を横から攫うとは、いい度胸をしているなお前? とか言われて俺は粛清されるかも知れん。今は忙しいからアレだけど、ウィンド・ボイス越しに怒鳴られるのかなぁ? こわ~い。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
よし決めた! ここで必殺技だ! とりあえずド派手な必殺技を繰り出して、この場をごまかそう。みんなが驚いているスキに脱出、完璧なプランだな。俺はニヤリと笑う。そうと決まれば、さっそく指先に魔力を集めて宣言だ!
「スパイラル・アクセル!」
『spiral axel combination ready』
マニューバ・ヴォイスを確認した俺は、右腕の肘を曲げ、シャイニングシューターに左手の指を乗せる。シャイニングシューターには、マギ・ブーストゲージが装備されており、ブーストした魔力がどれくらい蓄積したかを見ることが出来る仕組みだ。ブーストゲージは、どんどん高まっていく。
それに付随して、頭にある髪飾り2つが額のサークレットに移動結合、星冠ストルーチェを形成する。背中からは、エル・フェリィークという名の、オレンジに光る妖精の羽根が形成される。めっちゃ派手、そしてブーストゲージが最大になる。
『full power evolution』
次のマニューバ・ヴォイスを確認した俺は、両手を振り下ろす。右腕はそのまま下に、左腕の指先は、ジェミニ・ライザーの中心を通過して、斜めに振り下ろす形で。
『spiral axel combination』
正規の手続きがすべて終わり、技が発動。ジェミニ・ライザーのバックル部分にある、クアドラングルという蓋っぽいのが展開し、そのまま横にスライド。内部の五芒星・ペンタグラムが露出し、ピカピカ輝きながら、前方に金色の光の粒子を放出。
同時に、背中のエル・フェリィーク、光の妖精の羽根も形が崩れ、オレンジ色の粒子となって、俺の周りに放出される。凄い派手。それらの粒子は、俺の体の中にどんどん吸い込まれる。俺は肘を曲げて両手を出し、ポーズを付ける。
粒子が俺の体にすべて吸い込まれた瞬間、足元に直径5メートルの魔法陣が現れる。そして20メートル上の空中にも、直径60メートルの魔法陣が現れる。この魔法陣の効果は特にない。ただの演出用の幻影魔法だ。エインセルの力作だけあって、あり得ないほどド派手だが。
そして俺は身を屈めてジャンプ。すると、俺の体はまるで引っ張られるように上空に向かう。加速しつつ上空の魔法陣に突っ込むと、体が青く光り50メートル上昇してから、弧を描くように落下し、高速スピンを10回転してから、ガイマの頭の上に片足着地。その瞬間、巨大な衝撃波がガイマを包んでいるはずだ。
このスパイラル・アクセルは、2段階に分かれた技だ。まず第1段階は「ディカプル・アクセル」10回転アクセル・ジャンプだ。さっき片足でガイマの頭に、10回転スピンしながら片足着地したのがそれだ。
〇ディカプル・アクセル 射撃状態ノーマル
基本攻撃力 ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒
オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒
ホローチャージ (貫通力強化)⇒
落下エネルギー (衝撃力強化)⇒
キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒
キリングパワー10の大技。着地した瞬間、青とオレンジと金色の奔流が周囲100メートルにまき散らされる。すっげー派手派手。これで第一段階は終了。
次は第2段階。俺は両足を揃えて、その場で高速スピンを開始。コンビネーション・スピンを繰り出す。
こいつは、基本攻撃力2のスピン技を6個重ねた攻撃技だ。フィギュアスケートのスピンの3倍ほどの速度で回転している。順番は下記の通り。全部決まれば攻撃力は12となる。
・アップライトスピン→シットスピン→キャメルスピン→ドーナッツスピン→Y字スピン→ビールマンスピン
〇コンビネーション・スピン×6 射撃状態ノーマル
基本攻撃力 ⇒⇒
キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒
まずはアップライトスピン。全てのスピンの基本となるスピンで、腕を胸でクロスし、直立したまま回転するスピン。シットスピンは、しゃがんだ姿勢で回るスピン。キャメルスピンは、片足が腰より上の位置に上げて、T字になるようにして回るスピン。
ドーナッツスピンは、キャメルスピンの態勢から体を反らし、持ち上げた足を掴んだスピン。上から見るとドーナツ型に見える。それから再びアップライトスピンに姿勢を戻し、次はY字スピン。片方の足を高らかに持ち上げ、体がアルファベットの「Y」の字に見える状態で行うスピン。
最後にビールマンスピン。片足を背中から上に伸ばし、手で足を掴んだ姿勢で行うスピン。デニス・ビールマンさんが発明したスピンらしい。
スピンがすべて終了すると、今までの技で、ガイマに蓄積した俺の魔力が大爆発。ガイマの体は粉々になる。この時も、光の奔流が周りにまき散らされる。超絶ド派手だ。俺はビールマンスピンで回転しながら、前方に30メートル飛ぶ。弧を描くように下に落下。20メートル落下してから片足着地した。これにてスパイラル・アクセル全工程は終了。どうよ、俺の必殺技は!
――――まだよ、頭と胴体は死んだけど、足がギリギリ生きてるわ。
エインセルの警告を聞きビックリ。これだけやってまだ生きてるとは。ならば次はこれだ。俺は指先を光らせ技を宣言。ジェミニ・ライザーに指を通す。
「シャイニング・スター!」
『shining star erementsu』
俺は右腕の黒いガントレット、シャイニングシューターを拳を握って突き出す。するとガントレットの一部が可変し展開。腕の前に魔法陣を形成。強力な光弾を撃ち出した。
〇シャイニング・スター 射撃状態ノーマル
基本攻撃力 ⇒⇒⇒⇒⇒
マジカルホーミング(魔法誘導)
オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒
ホローチャージ (貫通力強化)⇒
エクスプレス (速度強化) ⇒
キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒⇒
撃ちだされたシャイニング・スターは、狙いを誤らずに残ったガイマの脚部に命中。ガイマは完全に崩壊した。よし! ガイマは倒した、長居は無用だ。後は絡まれる前に全力逃避だっ!
しかしやっちまったなぁ。ほっといても魔法少女達に倒されるだろうガイマに、すんごい派手な必殺技をお見舞いしてしまった。俺は諦めの笑顔を浮かべて、スリーターンを決め、後ろ向きに後進していた体を反転し、前を向く。
その時、リンクスちゃんと目が合った気がした。じゃあねリンクスちゃん。お疲れさまでした。俺は帰るよ。
別れの挨拶にバレエジャンプを決め、片足を後ろに上げ前傾姿勢を取り、風魔法で急加速してその場を離脱。西の高速道路を抜けて、みなとみらいの外へ出て高度を100メートル上げ、、一路北北西に進路を取る。
「スピード・モード」
俺の指示により、魔法の有翼ブーツ、トゥウィンクル・スターは靴底のブレードを伸ばし、伸びたブレードは靴をはみ出した。このブレードの状態では、小回りは効かないものの、トップスピードは大幅にアップする。俺は真北に進路を修正し、風魔法を使ってさらに加速する。
――――ん。今回の戦闘はなかなか面白かった。初陣としてはいいんじゃない? ガイマとの戦闘開始時の魔力値は160%。現在は残り60%てとこね。
「随分残ってるのね。結構一杯使った気がするけど……」
――――当り前よ。この私がサトルの体をカスタマイズして、魔力を効率化してるんだから。…所で今どこに向かってるの?
「新横浜駅。あそこなら複数の路線が乗り入れてる。内陸側にも海岸にも線路が伸びてるし新幹線もあるからね。こちらの居場所を特定できないようにするのよ。ま、あくまで時間稼ぎだけれど。新横浜から菊名に出て、乗り換えて大倉山に帰るわ」
俺は空中を高速滑走しながら、横浜駅と新横浜駅のちょうど中間地点にある、遠くに見える神奈川大学横浜キャンパスを目指した。
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