第10話 デビュー


横浜市西区みなとみらい 横浜美術館 


 ここ横浜美術館周辺上空では、魔法少女6名と、3体の未確認大型ガイマとの激しい戦闘が繰り広げられていた。


 美術館直上では、【モナセロス・ルステニア】と【バーゴ・スピカ】が、円盤型の1号ガイマと戦闘を行い、美術館東側のグランモール公園では、【スキュータム・ソビエスキ】と【コマ・ベリニセス】が、大きな腕を持つ2号ガイマと戦闘中。


 そして、美術館西側の道路上で、【リンクス・アルシャウカト】と【ヴェルペキュラ・アンセル】が、植物系の3号ガイマと戦っていた。



「いっくよー!」



 リンクスは、星機装である両腕の大型ガントレット「ストライボー」から、黒い大型キャットクロー1本ずつ出して、3号ガイマに突撃する。3号ガイマは迎撃するべく、6本の触手を鞭のようにしならせて、接近するリンクスに触手を叩きつける。


 リンクスは、空中走行可能な天猫ブーツの能力を使い、触手を回避しつつ技を繰り出す。


〇大回転斬 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒

オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒

ホローチャージ  (貫通力強化)⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒⇒


 体を時計回りに高速回転させつつ、キャットクローで、襲い掛かってくる触手を次々に切り飛ばす。空中を自在に動くリンクスは、なおも攻撃を続行。3号ガイマの大きな口が付いた触手2本が、牽制の為に、相棒のヴェルペキュラに盛んに火球を打ち込んでいた。そこへリンクスが接近。右腕のキャットクローを引っ込め、魔力をガントレットに集める。



「必殺、マウンテ~ン! 猫パンチ!」



〇マウンテン猫パンチ 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒⇒

オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒

ホローチャージ  (貫通力強化)⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒


 光り輝く突き出した右腕が、火球を吐く触手1本を爆散させる。リンクスの最強技である。



「おっけ~。ありがとー。ガイマにお仕置きだよ!」



 リンクスのおかげで攻撃圧力が減ったヴェルペキュラは、ファイヤーボールを3号ガイマに撃つ。それに反応するように、ガイマの胴体に咲いていた黒い花から、花粉が大量に発射された。ファイヤーボールは、花粉の舞い散る空間を通過して胴体に命中。爆発してダメージを与える。しかし、ヴェルペキュラは違和感を感じる。



「むぅ~。あの花粉。魔力を減らす効果があるみたい。ファイヤーボールが小っさくなったよ!」


「本当? じゃああのお花も切らないとね!」



 リンクスは黒い花に接近し、キャットクローで連続攻撃を行う。


〇大斬撃×4 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒

キリングパワー ⇒⇒


 キリングパワー2と攻撃力は低いものの、それを補う連続斬撃で、黒花を2つ切り飛ばした。スキを見つけたヴェルペキュラは、再び魔法攻撃を実行する。



「次は奥の手だよ!」



〇パイロキネシス 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒

キリングパワー ⇒⇒


 ヴェルペキュラの杖から、青い高温火球が発射され、3号ガイマの胴体に命中して爆発。しかし炎の勢いは消えず、さらに炎上を継続する。この魔法は、攻撃力2であるものの延焼を5分間継続させ、追加ダメージを相手に与える。特に植物系によく効く攻撃魔法だ。もっとも、この魔法にはパフがかけられない欠点があるが。





 円盤状の白い装甲を持つ1号ガイマは、目玉を守る為か、回転しながら火球を連続して放つ。モナセロスは回避しつつ距離を取る。魔力の消耗は大きいが、ガイマに大きなダメージを与えることに成功。今の所は魔法少女側が優勢である。


 リニアキャノン勢の【モナセロス・ルステニア】【バーゴ・スピカ】【スキュータム・ソビエスキ】【コマ・ベリニセス】4名は精鋭であるので、攻撃を成功させて当然であるとしても、関東第1支所組の【リンクス・アルシャウカト】と【ヴェルペキュラ・アンセル】の2名も、精鋭まではいかないが、十分にベテランの域に達しており、安定した戦闘を継続している。


 このまま戦闘を継続するなら勝てる! モナセロスは笑みを浮かべる。だが突然、円盤ガイマから急激な魔力の高まりを感じた彼女は、ガイマに注目。目玉の一つが強く光っていることを確認した彼女は、その目玉がバーゴの方を向いていたため、警告を発する。



「バーゴ! ガイマの攻撃が来るっ 注意しろ!」



 その瞬間、円盤ガイマの目から、これまで見たことのない熱線が発射された。そのスピードは速く、バーゴはかわし切れずに熱線が直撃する。前方に魔力障壁を多重展開させ、なんとか彼女は熱線を凌いだ。



「大丈夫か!?」


「なっ、なんとか……」



 態勢を崩したバーゴを守るべく、モナセロスは前に出たが、3体のガイマは突然攻撃を停止して後退した。



「むっ、何のつもりだ?」



 モナセロスは警戒しつつ様子を見る。すると奇妙なことが起こった。


 1号ガイマ、2号ガイマ、3号ガイマの順に、ガイマ達は空中で垂直に整列したのだ。それから2号ガイマと3号ガイマが接触、肉が盛り上がり、それぞれの体が接続された。そして最後に円盤型の1号ガイマが、2号ガイマに接続され、1体の大型ガイマになったのだ。



「な…… に…、合体だと!?」



 驚く魔法少女の前に、円盤型の頭部と両手を持った、歪な人型ガイマが姿を現したのだ。合体を完了したガイマは、再び魔法少女達に襲い掛かった。攻撃された彼女達は一丸となって応戦する。


〇フレイム・バースト 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒⇒⇒

マジカルホーミング(魔法誘導)

オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒


〇スターライト・レーザー 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒⇒

オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒

ホローチャージ  (貫通力強化)⇒

エクスプレス   (速度強化) ⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒⇒⇒⇒


〇ファイヤー・ボール 射撃状態ノーマル

基本攻撃力 ⇒⇒

マジカルホーミング(魔法誘導)

オーバープレッシャ(攻撃力強化)⇒

エクスプレス   (速度強化) ⇒

キリングパワー ⇒⇒⇒⇒


 バーゴ、コマ、ヴェルペキュラの3者は次々に魔法を放つ。しかし、フレイム・バーストは合体ガイマの右腕でガードされた。そして触手で壁を作り、スターライト・レーザーを受ける。触手は吹き飛びレーザーは貫通し胴体に命中したが、黒花の花粉に威力を減衰され、対したダメージを与えられない。ファイヤー・ボールは、円盤型頭部からの火球によるカウンター射撃を受け相殺された。



「ちいっ!」



 モナセロスは背中に差した、一角純潔聖槍ユニコルンを引き抜き突進。しかし、下から左腕によるアッパーが迫る。風魔法を使用し、モナセロスは緊急回避。横から突撃してきたスキュータムは、火球の連撃を受け後退。


 足元から接近して来たリンクスは、足となった植物ガイマの触手に邪魔され接近できない。合体ガイマは魔法少女を蹴散らしつつ前進。一気に横浜美術館北側の「いちょう通り」まで進出した。体制を立て直す為、魔法少女達は、ショッピングモール「プライムギャラリーみなとみらい」の屋上駐車場まで後退した。そこへ関東総本部から無線が入る。



「皆聞け、この建物の後方にある、神奈川大学みなとみらいキャンパスに、逃げ遅れた人たちが避難している。後ろには下がれんぞ!」 



 無線を聞いたモナセロスは、皆に事態を伝える。みなとみらいは、多数の観光客が詰めかける人気のエリアだ。避難時間が短めだったこともあり、現地に詳しくない多数の観光客が、取り残されていたのも無理はない。コマが疑問を呈す。



「でもどうすんのよ? あいつ連携してくるから、攻撃が当てられない」


「私とスキュータム、リンクスで前へ出てかく乱する。他の皆は、スキを見て魔法を撃ちこんでくれ!」





 対応を決めた魔法少女達は、再び戦闘を開始する。しかし、こちらの攻撃はある程度成功したもの、連携能力の高い合体ガイマの前に、今一つ決定打に欠けた結果となった。そこへ関東総本部の八木沙織から、モナセロスに連絡が入る。



「て… 撤退ですか…」


『あなたも理解しているでしょう? 残存魔力値30%を下回るマジシャンは戦闘不能と見なす。現在展開中のマジシャンは、半分が許容量を下回っているわ。バーゴ、コマ、ヴェルペキュラは即時撤退させなさい』



 魔法少女の左手首には、魔力感知器を備えたデバイスを装備してあり、彼女達の残存魔力を関東総本部はモニターしていた。特に射撃系の魔法少女の消耗は激しく、これ以上の戦闘は不可能であると結論した。


【モナセロス・ルステニア】  残存魔力値58%

【バーゴ・スピカ】      残存魔力値18%

【スキュータム・ソビエスキ】 残存魔力値38%

【コマ・ベリニセス】     残存魔力値22%

【リンクス・アルシャウカト】 残存魔力値42%

【ヴェルペキュラ・アンセル】 残存魔力値20%



『それに仕事はまだ残っている。残りの3人。モナセロス、スキュータム、リンクスは敵を引きつけつつ西側へ500メートル後退。西区戸部本町へとガイマを誘い込んで』


「なっ! 市内を戦場にするのですか?」



 驚くモナセロス。そこへ交代で無線に答えたのは、関東管区本部長の内海陣だ。



『モナセロス君、本部長の内海だ。本部長の名において命令する、撤退せよ。勿論君たち未成年に責任は問われない。私の命令に従う限り、君たちに一切の責任は無いのだ。責任を取るのは私達大人の仕事だよ』


「し、しかし、残り3人でも戦えます!」


『君も忘れてはいないだろう? 山梨県で散ったマジシャン2人のことを。もう2度と… このような事はあってはいけないのだよ』


「…………」


『すでに三ツ沢公園にガイマ警備隊が展開、【アクイラ・アルタイル】【シグナス・デネブ】【ケイナス・マイナ】【キャンサー・アクベンス】4名もいつでも出せる態勢だ。後の事は我々に任せ、ただちに撤退せよ』


「了解しました、本部長。撤退します…」



 モナセロスは屈辱と悔しさを感じ、手を握り締める。これで合体ガイマが強ければ諦めもつくが、合体しても、別に不思議パワーで強化されたわけでも無く、ダメージが回復したわけでも無い。単に連携が取れるようになっただけだ。勝とうと思えば勝てる相手だった。


 完全に作戦ミスだったのだ。初めの戦闘で、防御力が一番低いガイマ3号を、集中攻撃して倒せばよかったのだ。そうすれば、残り2体が合体しても、押し切ることが出来ただろう。つまり、ガイマの作戦にまんまと嵌ってしまったわけだ。


 この会話は、ウィンド・ボイスで周りの魔法少女にも聞かれており、一瞬彼女たちの動きが鈍る、ガイマはそのスキを逃さない。円盤頭部に魔力が集中し、合体ガイマは大火球を発射した。目指す標的は、神奈川大学みなとみらいキャンパス。



「あっ、ダメッ!!」



 リンクスは手を上げる。だがこの位置からはどうにもならない。発射された大火球は猛スピードで突き進み、キャンパスへ向かう。もう防げない! 誰もが確信した時、奇跡が起こった。


 突如真上から、青い光の流星が落ちてきて、大火球を消し飛ばしたのだ。大火球はキャンパス手前で爆発四散した。リンクスは歓喜した。きっと、アクイラ先輩か誰かが助けにきてくれたんだ!


 その時、キャンパス手前での大爆発から人影が飛び出した。光輝く緑黄色の髪とドレスを纏ったその少女は、その足先からオレンジ色の軌跡を引き、華麗なステップを踏んで、高速滑走を開始した。その姿は、リンクスも誰も知らない魔法少女だった。




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