第13話 魔法対策庁の一幕2


魔法対策庁 関東総本部 対ガイマ警備部 警備課オペレーションセンター


 警備課オペレーションセンター。この20数名のオペレーターが陣取る場所が、各種指令を行う関東総本部の中枢である。今、ここは緊迫した空気が張り詰めていた。



「すでに三ツ沢公園にガイマ警備隊が展開、【アクイラ・アルタイル】【シグナス・デネブ】【ケイナス・マイナ】【キャンサー・アクベンス】4名もいつでも出せる態勢だ。後の事は我々に任せ、ただちに撤退せよ」


『了解しました、本部長。撤退します…』



 モナセロスの無念の声が響く。その返事に、関東管区本部長・内海 陣と八木 沙織は、ほっと一息つく。これでなんとか、マジシャンの被害を防げるだろう。しかし、ここからは市内の被害覚悟の戦闘が始まる。内海は気を引き締め、次の指令を発そうとした、その時……



「本部長、キャンパス上空に…」



 オペレーターが言い切る前に、みなとみらいキャンパスにガイマが大火球を発射。それを上から青い流星が貫いたのを、モニター越しの映像で、内海は目撃した。



「なっ……!」


「キャンパス上空に、新たなマジシャン1を確認しました! 申し訳ありません。確認に手間取りました」



 オペレーターが謝る。魔力レーダーはまだ初歩的な段階であり、探知が困難になる場合がある。特にガイマとの戦闘中は、双方の魔法攻撃により魔力が拡散し、容易にレーダーが攪乱されてしまうのだ。エインセルが、100メートルまで近づかなければガイマを探知できなかったのも、これが原因である。



「これは……。 未確認マジシャンか……」


「はい。そのようです」



 映像の中では、今までに見たことが無いマジシャンが映っていた。内海と八木は食い入るように映像を見つめる。そのマジシャンは、フィギュア・スケートのような華麗な動きで、瞬く間に合体ガイマの頭部を爆散させた。そこへモナセロスの緊迫した声が届く。



『ガイマがダメージを受けたため、戦闘継続します!』



 すでに映像では、派遣したマジシャン達が攻撃を再開していた。その近くで、突如巨大な魔法陣が出現。そこからは圧巻だった。そこは戦場だったはずだが、まるで光の爆発ショーか花火大会に変貌したかのような様相になり、気が付けば戦闘は終わっていた。



「戦闘終了を確認。派遣マジシャン、疲労困憊ですが全員健在」


「未確認マジシャン、北に離脱。現在の速度、時速200キロ」



 状況を確認した内海は、無人偵察機で撮影された、戦場から離脱する未確認マジシャンの映像を見ながら、八木に質問をする。



「八木君、どう思う?」


「そうですね。今までに見たことのない、フィギュア・スケートを主体とするマジシャン。少なくとも生身では、スケートにかなり習熟している者である可能性が高いでしょう。詳しくは専門家の意見が必要です。マジシャンとしての実力は凄まじい。の一言です。魔力値も高いでしょう。我々への接触を避けているようですが、敵に回る可能性は低いでしょう。あるいは、どうするか迷っているのかも知れません。かつての私のように……。出来れば味方に引き入れたい」



「未確認マジシャン、現在の速度、時速250キロ。神奈川大学横浜キャンパス上空を通過… 根岸公園東を通過… 減速中。このまま行けば、新横浜駅です。……新横浜駅300メートル手前でレーダー反応消失しました」


「うん。新横浜は都心に見えて、周辺に緑地が多いのだよ。変身解除する場所に困らない。鉄道の乗り入れは5社、バスの発着も多い。居所を知られないようにする処置だろう。それに飛行型マジシャンと同等の移動速度。おまけに頭も回るときた。フッ、面白い……」


「調査いたしますか?」



 八木は内海を見つめる。魔法対策庁にも予算は少ないが、情報部は存在している。未確認マジシャンの調査を行うことも可能だが……



「いや、やめておこう。今はまだ、な……。何事も強引はいかんよ。いずれ向こうから接触してくる時に対応するとしよう。これが正解だろう? 八木君」



 内海の視線に、八木は笑顔を浮かべた。






魔法対策庁 関東総本部 ミーティングルーム


 夕方、派遣されていた6人の魔法少女達は、ヘリ2台に分乗して、相模原市にある関東総本部へと帰還した。ここに関東第一支所所属のリンクスとヴェルペキュラが入っているのは、事情聴取の為である。リンクスとヴェルペキュラは、先に事情聴取を行うために先輩4人と別れ、別の場所に向かう。


 残りの4人。【モナセロス・ルステニア】【バーゴ・スピカ】【スキュータム・ソビエスキ】【コマ・ベリニセス】は、変身を解除して、ミーティングルームに集まった。先ほどの戦闘の話をするためである。



「ちょっとさっきの凄かったよね! すんごい滑ってたよ。すんごい。ツルツル~って!」



 ヘリの中で休んで、少し魔力が回復した【コマ・ベリニセス】遠藤 彩(えんどう あや)が、備え付けのお菓子をバリバリ食べながら、デカい声で叫ぶ。無料のお茶を飲むスキュータムが反応する。



「凄かったですよね! いやぁ。美しい光景だったなぁ~。空中を滑るスケートが見れるなんて思わなかったです!」



【スキュータム・ソビエスキ】川瀬 萌菜美(かわせ もなみ)は、元気なボーイッシュ女子らしく、ハキハキと発言した。



「ほんと、凄かったけどさ。見たこともない魔法に、聞いたこともない発動方法。彼女の魔力値どうなってんのよ?」


「正直、私より高いだろうな。是非とも魔法対策庁に来て欲しいが、話も何もする間もなく去って言ったからな……」



【バーゴ・スピカ】加倉井 愛花(かくらい あいか)と【モナセロス・ルステニア】工藤 理夢(くどう りむ)が続けて発言する。顎に手を当てながら、理夢は疑問を呈した。



「魔法対策庁所属のマジシャンになってくれれば、あの強さだ。将来は安泰だし、高給なんだが、なにか問題があるのだろうか?」


「バリボリバリボリ…… ハン! あの子はお金では、なびかないわよ」


「どうしてそう言える?」


「ングング、いい、フィギュア・スケートはお金かかんのよ。つまり金持ちのスポーツよ。あんなに上手にスケート出来るまでに、相当お金がかかってるハズよ。つまりあの子は、大企業かどっかのお嬢様に決まってるわ。私らみたいな庶民出マジシャンとは、格が違うってことよ。わたし浅田真由のファンだから、スケートには詳しいの。それに大体、追加戦士は金持ちかアイドルと相場がきまってるじゃない」


「ん~。確かに。彼女は良家のお嬢様のような気品があったな……。なら彼女が了承しても、周りが反対するか…」



 彩と理夢が言い合ってると、今まで静かにしていた愛花が、ジェスチャー付きで話し出す。それに突っ込みを入れる萌菜美。



「ああっ、お嬢様! いい身分だわ。こんな命がけ泥だらけの仕事なんかしなくても、ステキな御曹司と結婚できるなんて素晴らしいわね!」


「あっ、スイッチ入りましたね…」


「モナちゃん。所詮世の中はお金よ、お金! どこかにお金持ちの坊ちゃんが転がってないかしら?」



 こうして、4人のお喋りは、事情聴取の呼び出しが来るまで続いた。






魔法対策庁 関東総本部 会議室


「えっとー、それでですね。スパイラル・アクセル! て言って、そしたら録音されたような声が出て、すぱいらる・あくせる・こんびねーしょん。れでぃ。とか聞こえて。そんで指をこう、乗せたらキュピーンてっ……」



 関東総本部の一角の会議室で、可愛い系の女子【リンクス・アルシャウカト】古伊万里 夏鈴(こいまり かりん)は、身振り手振りで、自分が見たものを懸命に説明していた。



「えっとえっと、それで、あの子の髪飾りが集まって冠になって、背中から光る羽がニョキンと。そしたらですね、ふるぱわー えぼりゅーしょん? りぼりゅーしょんだったかな? て聞こえて、そしたらあの子は両手を振り下ろして、こんな感じで……」


「で、すぱいらる・あくせる・こんびねーしょん。て聞こえて、そしたらベルトが開いて、キラキラが出て、背中の羽もキラキラって、で、全部吸い込まれて、デッカイ魔法陣が出たんです…」


「それでジャンプして、流星になって、クルクル回ってガイマに落ちたんです。あ、あの……、こんな説明で、大丈夫ですか?」



 夏鈴は、もじもじしながら、上目づかいで正面の男性を見る。

 彼女は緊張していた。なぜなら……



「ああ、全然かまわんよ。続けてくれたまえ」



 目の前には、関東管区本部長・内海陣。隣には八木沙織が着座してノートを取っていたからだった。内海はやさしい笑顔で、続行を要求した。



「我々も無人偵察機で観察をしていたのだが、望遠での映像だったので、概要は分かるのだが、細かい状況までは分からんのだよ。あれはたしかに言葉では説明しにくいものだったし、古伊万里君の説明は大変に分かりやすい。自信を持っていい、では、どうぞ」


「は、はい。それでですね。あの子はガイマの上でクルクル回って、姿勢を変えて、その度にキラキラ~っと…………」



 もう一人の相棒、後ろで座っている天道美果の眼前。関東総本部の一番偉い人の前で、夏鈴の擬音飛び交う、面白い事情聴取は続いていた。夏鈴は、足を上げてポーズを取ろうとして、ひっくり返りそうになり、皆を慌てさせたりした。



 その面白い光景を、美果は、何とも言えない表情で見るのであった。


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