第2話 エインセルと星乃慧
――――ねえ! 私と契約して魔法少女になってよ!
「なっ……、なんだと!?……」
まさかと思ったが、こんなテンプレ攻撃を受けるなど思いもしなかった。いや、そういうことでは無く!
「いや、言ってることおかしくないですか? 普通そういうのは、TS魔法少女物とかだと少年とかに言うもんでしょう? 俺、男性で20歳で成人してるんですけど、カスリもしてないですよね……」
――――フッ、そんなもの私の魔法でどうにでも出来るわよ。ああ、勿論わざわざ男性に魔法少女になってもらうなんて、普通はしないけど、喜んで! 貴方は逸材よ!! そう私が決めたの! だから魔法少女になりなさい!
「んな、無茶苦茶な……」
――――これはカンだけど、きっとサトル君も幸せになれる選択だと思うの、私の目的とも合致するわ。あっ、ちょい待ち。人がこっちに来そうだわ。ちょっと隠れさせてもらうわね。続きはお家でしましょう。
そう言うと妖精エインセルは、俺の体にくっついてきた。するとその体が光って、俺の体の中に吸い込まれてしまった。
「ちょっ、ナニコレ!」
――――体の中に隠れさせてもらったわ。地上にはお忍びで遊びに来たから、他の人に見られるわけにはいかないの。さあ帰りましょう!
いや、自分の家でもないくせに帰りましょうって。
まったく、へんな妖精に憑りつかれてしまったものだ。俺はため息を吐いて立ち上がり、帰宅するのだった。体はなにも感じないが、自分の中に他の存在がいるなんて実に気色悪いな。まあ、このパラレル日本は、なんだってアリの世界だ。諦めるしかないのか……
と、レモンロード商店街のスーパーで、夕飯のおかずを買ってから自宅に帰還。
妖精エインセルをダイニングキッチンに案内し、とりあえずコーヒーの準備をする。妖精はお茶とか飲むんだろうか?
「なんか飲む?」
――――いらないわ。その代わりスマホの充電器を貸してちょうだい。
リクエスト通り充電器を渡すと、コンセントに刺してから、自分のレオタードのお腹にあったキャップを外す。すると何故かUSB端子が出てきた。エインセルは、その自分の体にあるUSB端子にコードを繋げる。すると端子の横の穴が赤く光る。俺は思わず突っ込む。
「なんだそれ? 充電してるのかよ」
――――概念としては合ってる。正確には電力を魔力に変換してる。こっちのほうが楽なのよ。ふう極楽、極楽。
「えらいハイテクなんだな」
――――そうよ。凄いでしょう。他にもWi-Fiに繋げてネットしたり、ブルートゥースにも対応してるわ。ハッキングもお手の物。
そう言うとエインセルは、俺のスマホに指を向ける。するとスマホが勝手に動き出した。しかしこれ、ファンタジー妖精とは大分イメージが違う。見た目通りのサイバネティック妖精だな。いや、アンドロイド妖精かも知れん。
――――さて、落ち着いた所で、地球の現状から話しましょうか。地球、あるいは太陽系は実に珍しい星系なのよ。太陽系は、銀河系内を独特の軌道で動いているの。エネルギーリボンの中を出たり入ったり。エネルギーリボンの中にいる時は、魔法アリの地球になるし、外にいる時は、魔法ナシの地球になる。
「うん? そのエネルギーリボンてなんだ?」
――――エネルギーリボンとはプラズマ・エネルギー帯のことで、銀河中心点から網の目のように伸びている。ここから星は様々なエネルギーを得ている。サトル君に分かりやすく説明するなら、銀河中心点は発電所、エネルギーリボンは電線、恒星や惑星は電球といったところかしら。
「なるほど? 分かった様な、分からないような…」
――――そんな感じだと理解してもらえばいいわ。少し歴史の話をしましょう。遠い所だと恐竜時代。恐竜は物理的にあり得ないほどの巨大な生物。でも、今の動物と変わらない動きが出来たわ。これの秘密が魔力。恐竜は魔法で動きを補助していた。でも地球がエネルギーリボンから出たため、魔法が使えなくなって、自らの体の重さで滅びた。隕石はトドメの1発てところ。そして魔法を必要としない哺乳類が台頭した。
――――近い所だとアトランティスとムー。これらは魔法文明。1万2千年前、考古学的見地と星の観測から、地球から魔力が無くなることが判明。ムーは自然に任せることを主張し、アトランティスは人工的な魔力を作って文明の存続を図ろうとした。この意見の相違から戦争が起こった。
最終的にアトランティスは、当時地球の衛星であった2つの小型の月を、ムーに落下させ滅ぼした。ムーは今の南極大陸のことね。
「んな、無茶な……」
――――そうね。技術的には核兵器製造も可能だったけど、案外地球とは脆いものよ。赤道付近でツァーリボンバー級核兵器を5発爆発させれば、地球は軌道を外れ太陽系を出てしまう。全面核戦争なんて夢のまた夢。地球はカチンコチンの氷の星になって、間違いなく全滅する。放射能の問題もあるし。だから月を利用した。
――――ムーを滅ぼしたアトランティスは、次に、その国土である浮遊大陸下の海中で、人口魔力炉を建設して、地球の魔力を維持しようとした。
「それで失敗したわけか……」
――――そう、盛大にね。語り継がれた通り、浮遊大陸は1日で崩壊、アトランティスは滅び、その残党は現在のエジプトに拠点を移した。でもまだ手はある。火星軌道付近に転がっていた、大昔の魔法文明の遺跡、戦闘惑星を地球の軌道に乗せる。あの中にも人口魔力炉があるから。
「えっ、まさか…… 月が人工惑星という話は聞いたことがあるが…」
――――そう、月は特殊戦術ステーション。通称戦闘惑星と呼ぶ。なんとか地球の軌道に乗せることは出来たけど、すべてが手遅れだった。そもそも浮遊大陸の崩壊で、魔力炉の資料はすべて喪失。戦闘惑星の魔力炉は老朽化が激しく、修復方法も分からない。
後は、寿命が大きく縮んだ地球人に、残された高度な文明の一部を伝えるぐらいしか出来なかった。それがギリシャやエジプト文明の祖になる。
「つまりギリシャ・エジプトの神様って、アトランティスの残党?」
――――その通り、本人あるいはその子孫ね。まだあの頃は、魔法も少しは使えたしね。
「ということは、この地球に、再び魔法文明が築かれることになると……」
――――そうね。太陽系はすでに次のエネルギーリボンの中に入っている。新たなるア・トランティスの復興、それが今の時代。私たちの妖精界は、その切り替えの時にすべてが潰れないようサポートするのが仕事。特にこの日本はガイマ出現が、もっとも多い地域だったから特別な手当が必要だった。
――――そこで、私の妖精友達、生真面目妖精リャナンシーが、1992年に日本に降臨。魔法少女を産む制御魔導器をとある地下に埋めた。1997年に再び再降臨。各国政府と接触。さっき伝えたような情報を流したわ。あなたも妙に思ったんじゃない? 杉裏戸町襲撃事件の時、戦後初の自衛隊の治安出動が、割とスムーズに通ったことを……
「っ! まさか政府は事前に知っていたのか!?」
――――さすがに場所までは分からなかったけどね。大規模襲撃は予測された事態よ。ただ当時の政府の判断を責めるのは可哀そうよ? 誰が信じるのこんなヨタ話。時代の限界というやつよ。だけど事前の根回しのおかげで、スムーズに対応できたのは事実。
「はぁ、そうか…… そういうことだったのか……」
――――ちなみに、このことを知っているのは、世界の首脳陣のみのトップシークレット。魔法対策庁や魔法少女は知らないわ。
「おまっ! ただの一般人に何てこと教えるんだ……」
――――サトル君は、ただの一般人では無いわね。男性なのに魔法少女になれる希有の存在よ! 胸を張っていいわ!
と、ここまで話しを聞いて、俺は冷めたコーヒーを口に運ぶ。とにかく情報量が多すぎる。ここまで妖精さんにネタばらしされるとは思わなかった。普通こういうのは物語の終盤ぐらいで出てくる話じゃないのか?
いや、壮大な話にごまかせられるな俺! まずは聞きたいことを整理するんだ。今目の前でニコニコと善良そうな笑顔を浮かべるエインセルだが、罠に嵌める魂胆なのは分かってる。わざわざトップシークレットの情報を聞かせたことで、俺の弱みにしようと画策してやがるんだ。
例えば俺がトップシークレットを知っている事を、アメリカ辺りにバラされたら、きっとCIAやらFBIやらが、束になってやって来る。さっきのが本当の話か知らんが、俺に対しては十分脅しになると判断してるのだろう。
落ち着け慧!
まずは、疑問点を解消しなければ。
「あのさ、聞きたいことがあるんだが… 魔力にある程度馴染んでる男は俺だけじゃないんだろ? どうして俺を魔法少女にしたがる?」
――――初めに言ったけれど、貴方の魂が特殊だからよ。まずは説明を聞いて。体内の魔力、これを魔力値と言うのだけど、一般的な魔法少女を100%とすると、変身可能になるのは、60%以上。女の体から魔法少女に変身するには、5%の魔力が必要。対して貴方の場合は、まず女の体に変換してから、魔法少女にするから、変身するには20%の魔力が必要。コストパフォーマンスが悪いの。だからわざわざ男を魔法少女にはしないの。
「ずいぶんかかるんだな。俺の魔力値はどれくらいなんだ?」
――――40%というところかな。
「じゃあ変身できないじゃん」
――――普通の男ならね。でも貴方は違うわ。体内の魔力は魂に依存する。サトル君は魂を2つも持っている。さっき言ったのは、1つの魂の魔力値。つまり貴方は40%×2の魔力を持っている。つまり80%。今すぐ変身可能だわ。それに私がサトル君の体を調整すれば、魔力値を120%に引き上げることが可能と見ている。初期値でよ。これに訓練による伸びしろを加えれば、どれくらい伸びるか見当もつかない。
ちなみに、魔法庁の魔法少女なら、ルーキーで魔力値は80%、ベテラン120%、関東最強で140%よ。ねっ? 貴方はいきなりベテラン並みの魔力値になれるのよ。逸材でしょう?
「なるほど…… 俺にそんな隠された才能があるのは驚きだな。俺が魔法少女になれるのは分かった。で、エインセル、君は……、君の目的は一体なんなんだ? 俺が魔法少女になることで君に何のメリットがある?」
俺は正面の妖精を見据えた。
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