第1章 魔法少女ジェミニ・パラックス
第1話 星機装妖精エインセル
久しぶりに昔の夢を見た。
杉裏戸での襲撃の夢だ。あれからもう11年も経過した。
今は平聖21年、西暦2010年だ。
俺の名前は星乃慧。
慧という名は珍しいが、サトルと読む。(ホシノ・サトル)というのが俺の名だ。9歳までは、埼玉県杉裏戸町に住んでいたが、現在の住居は横浜の大倉山という場所だ。現在の年齢は20歳。
外の空気を吸いたくなった俺はベットから出て、ベランダへ出る。
すでに時間は15時を過ぎている。春のうららかな日差しが俺の頬に当たる。ベランダの右側を見れば、電車がガタンゴトンと東急東横線の大倉山駅という駅に入線してくるのが見えた。俺が今住んでいるマンションは、駅の東側にあり、駅近でなかなか便利な場所だ。
しばらくベランダに佇んだ俺は、台所に行き沸かした湯でコーヒーを作り、駅の近所のパン屋で買った、お気に入りのバナナパンを食べながらコーヒーを啜った。上手い。俺はそれからスマホを手に取って、今日のニュースをしばらくチェックした。
実は俺には前世の記憶がある。2030年まで生きて死んだ記憶だ。
それから転生して、このパラレルワールド日本に1989年に生まれた。どうしてそんなことになったのかは自分にも分からない。最初は過去に転生したのかもと考えたものだが、後にそれは違うと判明した。まずは元号、前世では「平成」だったが、
今生では「平聖」となっている。発音は同じだが漢字が違う。
次に髪と目の色。前世では黒目黒髪が主流だったが、こちらでは色々な色があり、割とカラフルである。髪の毛と瞳は、黒・茶・赤・橙・青・紺・紫の7系統の色がある。こんなカラフルな色は日本人には似合わないんじゃ… と考えたこともあるが、なかなかどうして違和感はそれほど感じなかった。
原因は色の暗さだ。カラフルではあるものの色が暗いため、自然と町に溶け込んでいる気がする。髪色は黒目黒髪が4割ほどで、後は1割ずつ別の色がある感じだ。確かに色がついた髪と瞳は、日のあたる所ではハッキリ認識できるものの、色が暗いため、日陰や照明が少ない場所なら全員黒目黒髪に見える。アジア系の特徴だそうだ。欧米系はもっと明るい色になる。
俺も黒髪で、瞳がラピスラズリ、あるいは瑠璃色で、黒青ぽい色の暗い色だ。以上のことから、ここはパラレルワールド日本だと結論づけた。
歴史も調べてみたが、大きなところでは前世とそれほど変わっていない。少なくとも1992年までは…… そこからは少しずつ歴史は変わっていったのだと思う。この年に世界で初めて「害魔」が出現した。それと時を同じくして、「魔法少女」も生まれたのだ。
それから1999年7月に、埼玉県杉裏戸町にてガイマによる大規模襲撃が発生。俺は今生の両親を失った。この襲撃を皮切に、世界中でガイマとの戦いが本格的に始まったわけだ。
俺はシャワーを浴びて散歩に出ることにした。目的地は大倉山記念館。ギリシャ様式の大きな建物だな。レモンロードを通って、大倉山駅の横の坂道を登りきれば、公園の記念館に到着する。
坂を上っている時に、流星のような2つの青い光が、夕空を西から東に進んでいるのを発見した。
おっ、魔法少女じゃん。さっきのニュースチェックでは、今日はガイマは出現してないと言ってたから演習かな?
空を行く彼女らは、神奈川県相模原市にある魔法対策庁の関東総本部からよく飛んでくる。あそこにはリニアキャノンがあって、人間砲弾のごとく魔法少女を打ち出して、ガイマが出現した場所に、20分以内に駆け付けることができるんだそうな。あの青い光は魔力障壁の光で、ピカピカ光ってるのは航空機事故対策としてワザと目立つようにしてるとかウェブ記事にあったな。
関東では航空機の行き来も多いことから、魔法少女は高度低めで射出される為、地上からよく目撃されるんだ。関西本部では、高い高度で撃ちだされることが多いから、たまにしか目撃されないらしい。
というわけで、記念館に到着した俺は、中には入らず、外のお洒落なベンチに腰掛けて、ペットボトルのお茶を飲む。この辺りは、梅で有名な公園がすぐ横にあり、都会にも関わらず自然が豊かだ。
俺は杉裏戸での襲撃以降、叔父の所に住んでいたのだが、高校進学とともに横浜に出てきて、この町で1人暮らしをしている。
今日は平日なのに、なかなか優雅な暮らしをしているわけだが、とりあえずお金は今の所は大丈夫。実は親の遺産として1億円程が銀行に入っている。バブル時代の遺産というやつだな。ただ1億では、人並みの暮らしでも老後は厳しいので、お金を減らさないようバイトはしている。
月12万程度にベーシックインカムの7万。ただベーシックインカムは働かないと最低額3万になってしまう。しかし今は経済的に問題は無い。が、将来どうするか悩んでるんだよね。
母が昔フィギュアスケーターだったので、俺も6歳からスケートは習ってたんだが、残念ながら俺には才能がなかった。これは母の形見みたいなものだから、両親が亡くなった後も続けてたんだが、5級のテストに落ちたんだよな。
5級からは極端にテストが難しくなるからだが、5級に落ちて、そのままフェードアウトするのが才能のないスケーターのテンプレという。
さて、これから俺はどう生きていけば良いのやら。株やFXは監視が厳しく、もう一般人は参加できなくなっている、前世とは歴史が違うんだ。ビットコインも消えたことだろう。この世界だと前世の知識はあまり役に立たないなぁ…
みたいなことを、つらつらと考えていたのだが……
どうやら俺は妙な存在に目を付けられたらしい……
人気のない記念館の端のベンチに座っている俺の目の前に、キラキラと輝く羽を動かして、宙に浮いている小人が現れたのだ。
妖精…… うん妖精なんだろなコレ…
そら、ここはパラレル日本ですし、魔法少女も魔物もいるんだ。妖精や動くぬいぐるみがいても不思議じゃないんだろう。その妖精っぽい生き物は、何故か俺の顔を見つめている。これどうすりゃいいんだ?
――――あら、あなた珍しい魂の形をもってるのね。これまで色々な魂を見てきたけど、貴方みたいに奇妙な魂は初めてだわ。
別にその妖精は声を発してる訳でもないが、どういうことか頭の中にコイツの声が直接聞こえてくる。
――――ほぉ。一つの肉体の中に魂が二つ。けどどちらの魂も貴方自身というわけか。どんな構造をしてるのか… あっ… 貴方の名前を教えて下さる?
その妖精はサイズが結構大きい。30センチぐらいか。手乗りとはいえないサイズだな。羽は背中に2枚で、水晶を切り取ったような質感で光を乱反射している。女性型で髪はピカピカのメタリックシルバーで黄金の冠らしきものを付けている。瞳も銀色で美人さんだな。服はアンダーが白いレオタード。トップスに、何というか機械鎧? みたいな黒いベストだな、ベストのあちこちから黄色い光が漏れている。左胸に三日月みたいな黄色の発光体。
両手首にハイテク機械ぽい腕輪。両足のブーツも同じくだ。全体的な意匠は魔法少女に類似しているか。ファンタジーの妖精というよりは、サイバネティック妖精といった印象だな。ええと、俺の名前はサトルだ。
――――サトル君ね。私の名前はエインセル。私の星機装ルーナを褒めてくれてありがとう。
いや別に褒めちゃいないが…… って!
「なんで会話が成立してるんだ!? まさかテレパシーとかそういう…」
――――私たちは念話と呼んでいる。テレパシーでもいいけど。魔法があるんだから不思議ではないでしょ。こんな手品より、貴方の存在の方がもっと不思議よ? 何よ一つに肉体に2つの魂って、よく整合性が取れてるわね? それにこの時代の男性としては、そこそこ魔力に適合してるし。中々の逸材だわ。フフッ…
「あっ、なんか凄い嫌な予感がするんですけど、まさか……」
――――フフフ、やはりここはテンプレで決めないとね。じゃあいくわよ。
「いやだから、それは……」
――――ねえ! 私と契約して魔法少女になってよ!
「なっ……、なんだと!?……」
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