第19話 (いらないと言われた)勇者一行はダンジョンにいるようです

この世界にも勇者は存在する。

その者にしか抜けない剣、そして神託。


その二つの条件に当てはまる者が勇者と呼ばれる。


そう、たとえ性格が難ありだったとしても。


「まだ引きずってんのー?」


「だってサイハテが来てるって言うから!行ったらまさか村長たちだとは!思わない!だろ!」


苦々しげに魔物を片付けながら叫ぶ、黒髪に銀の鎧を身に纏った勇者。

数週間前、彼らは村長一行と会ったらしい。


「株、思いっきり下げてたわよねー」

「あれは誰だって引きますよ」


前髪を長く流した艶やかな黒髪にちょっぴりセクシーな服装の魔術師と甘栗色のウェーブがかかった髪の神官が勇者と獣人の戦闘を傍観する。


「舌打ちされた人間に、想い人の父親だとわかった瞬間コロッと態度変えて娘さんをくださいだなんて、もう最初から試合終了してるんですよ」


ヒョウのような獣人娘が手を止め、一歩下がる。


「ん?そもそも勇者くん振られてなかったっけ?」


神官の毒舌と獣人の天然クリティカルパンチ。


「うるさい!ってかおいっ手を止めるな!」


わぁ、と魔物に囲まれる勇者。


「勇者はあんなぱっとしない子、どこがいいのかしら」


魔法使いが口を尖らせて言った。


「あまり彼女のこと悪く言わないでいただけますか?私が神殿に行った時に怒られてしまうので」


彼女の母親は教会でとても高い位にいる。

もし彼女のことを悪く言っていることがバレたら将来出世できなくなってしまうかもしれない。


「善処するわ」


魔術師は杖をふり、詠唱を始めた。


「水飛沫よ、魔物を蹴散らせ!ウォーターバレット!」


水弾が勇者の周りの魔物を倒していく。


「助かった!」


勇者の笑顔にふふんと笑顔で応える魔術師。


「私の方が優秀なのよ」


ボソリと勇者には聞こえない声で呟いた。



〜サイハテ村にて〜


「おーいまたワイバーンが出たぞー」


村人たちはぞろぞろと武器を持って村の外へと急ぐ。


「今日はエリーもシータもいないのかぁ」

「シルさんとエルダさんもいねえなぁ」

「エルダさんがたまには一人で狩りに行くって言うもんで、シルさんが念の為ついて行ったとよ」


エリーたちは一週間もいないのか。

でも王都に行くって聞いてたぞ。

王都って一ヶ月くらいかからなかったか?


はて。


「まー俺たちだけなのは久しぶりだなぁ、しばらくずっと頼んでたからなぁ」

「たまにはええやろ。俺たちだけでもできるって証明してやろうぞ」


考える事をやめて『おー!』と気合を入れる村人たち。


「ふっふっふ、今日は久しぶりに頑張っちまうかな」


村人の一人が弓を引く。

よっ弓の名手!と茶化す声がする。


ワイバーンは5体。


狙いを定めて射ると同時に周りの者が走り出す。

剣を持つ者、刀を持つ者、斧を持つ者、槍を持つ者、槌を持つ者。

それぞれに長けた村人たちが落ちてくるワイバーンを叩きつけた。


「よーし解体班ー」


控えていた調理用の包丁を持つ村人たちが、手早く解体作業に取り掛かる。


「ひ、ふ、み、よ……?一本足りんわ」


最初に飛ばした矢が一本足りない。


「どっかにすっ飛んでったんでねーか」

「まあええやろ、魔王城に向かって射ってたで。魔王に当たって万々歳やわ」

「わしの弓矢で魔王討伐してたら勇者いらんやんか」

「せやな、村長かエリーならやってまうかもとは思ったけどわしらじゃなぁ」


一瞬何故かしんと静まり返り、村人たちはドッと笑った。

それはないだろう、と彼らはワイバーン肉を荷車に積んで楽しげに帰って行った。



〜その頃、魔王軍〜


「今回この軍を統括するアンドラスだ」


黒く大きな翼を持った魔神が兵士たちの前で声を張り上げる。


「これから我々は王都へと向かう。勇者はダンジョンへ入り浸っているとの情報もあるが、王族には予言の力を持つ者がいるのだ。早々に切り上げて戻ってくる可能性もある。気を引き締めて行くように!」


「魔王様の為に、王都を手中に入れようではないか!!」


「「おー!!」」


ざくっ


良い感じに盛り上がる中、どこからか鈍い音がした。

アンドラスの羽根が散っている。アンドラスは自身の左後方を見た。


木 に 矢 が 突 き 刺 さ っ て る


「「わぁあああああああ!!」」


盛況が絶叫に変わる。


「落ち着きなさい!!先程連絡がありました!サイハテが村近くで狩りをしていたようでそのうちの矢が飛んできたようです!!」


「もう村人たちは帰って行ったようです!!」


アンドラスの部下が兵士たちをなだめる。


村近くで狩りをして、ここまで矢って飛んでくるもんなの?

サイハテ怖。


アンドラスはフーッと一呼吸をして、顔を上げた。


「少しばかり、アクシデントはあったが、我はこの通り無事である!早急に王都へ向かおうぞ!!」


お、おー!っと盛り返しつつも微妙な空気が流れたが、彼らもここから離れたいと思ったのか行軍の準備をいつもの倍の速さで整えた。


うん、早く王都行こ。

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