第9話 本日の締めは親子でやるそうです
私はこの村、サイハテの村長をしている。
そして今ここにいるのは私の家。村長の家。
先程私はエリーとエルダに部屋を追い出された。
そして暫くしてエルダを訪ねてきたディナに「村長さん何してるの」と聞かれ、
「君の母親と私の娘の話が終わるまで待っているんだ」
と答えると彼女はべつに入ればいいじゃん、と勝手に部屋の中に入って行った。
「あらディナ!いらっしゃーい!」
「ディナ、ただいま。いい子にしてたか?」
と歓迎されるディナ。
謎の理不尽さを痛感しつつも、多少部屋に入りやすくなったのは救いだった。
それでも入りづらい事には変わりないので残りの仕事でもしていよう。
王都で片付けた仕事や不在時に娘に任せていた書類に目を通し、キリがついたところでエルダの息子シータとヴィラが家を訪ねてきた。
「村長さん、今どういう状況ですか」
なんと伝えたら良いものか。
「大丈夫そうだが、間に合わなかった、二人に追い出されてしまったので仕事を片付けていたところだ」
ディナも部屋にいると伝えると、楽しそうな声が漏れている部屋を見た。
二人とも部屋に入るかどうかを考えているようだ。
入りづらい。
とでもいうかのように目を合わせる。
「見ての通り、終わらなさそうなので今日は私が夕飯を作ろう。大人数になるだろうし、外で食べよう。よかったら手伝ってくれないだろうか」
二人は頷いて了承し、コンロ、テントの設置や野菜の下拵え等テキパキと動いてくれる。
謎の結束力が生まれた気がした。
シルも合流し手伝いに加わった頃、陽は沈みかけていた。
夕食ができたが誰がどう伝えるか悩んでいると、シルが物怖じ解せずに部屋をノックした。
「そろそろお腹空かないかい?村長とシータたちが夕食を作ってくれたよ」
おじさん、ダーリン、お父さんおかえりー、と素直に部屋を出てくる女性陣。
なんというか、少し負けた気分だった。
___
夕食が終わり、エリーと村長は黙々と片付けをしていた。
エルダさんは普通に優しいしカッコ良いしとても良い人だった。
部屋から出るとシータとヴィラに何もされてない?怪我とかしてない?とやけに心配されたが、正直エルダさんを引き止める事とか忘れて、普通に会話を楽しんでいたのでなんだか申し訳ない。
ディナが喜ぶのは想像通りだったが、ヴィラがエルダさんに自分から話しかけているのには驚いた。
朝はあんなに泣き喚いていたのに。
外に出ている間に何かが変わったのかな。
エルダさんも嬉しそうだった。
夜が深まるとディナがはしゃぎすぎたのか眠ってしまったので、お開きにした。
ヴィラも眠そうにしていた。
シータが片付けをするまで残ると申し出てくれたが、今日はお父さんがいるから大丈夫と断った。
シルディールさんの良い方の歌も聴けたし、今日はとても楽しい時間を過ごしたな、と思い返す。
「エリー、いつものあれは済んだのか」
「んー?まだ今日はやってないよ。今からやろうかな」
ピカピカになったお皿を静かに置くと、お父さんが杖を取り出した。
「今日は私もやろう」
いつものように家の裏手に周り、構える。
私はその辺にあった小枝を持って、お父さんは杖を持って。
「アイスアロー」「ファイアランス」
白と青の光が美しく合わさり、大きな流星が空を架けた。
〜魔王城にて〜
「魔王様、ご報告が」
宰相のゼルべリュートが重々しく魔王に声をかける。
魔王は今度はなんだ、もういい加減にしてくれ、怖いんだと思いつつも、平然を装い述べよと返した。
「以前、四天王の一人が討たれたと報告しましたが、その後大破した第一研究所を建て直す為片付けていたところ、彼が研究費を横領していた証拠が出てきました」
更に芋づる式に彼が魔王を裏切る計画も立てていたことがわかったと、宰相は続けた。
四天王の一人が討たれたのも、第一研究所が大破したのも、どちらも魔術師エリーの仕業。
「考えたくはないが、私たちは魔術師エリーに助けられたというのか」
「ええ、考えたくはありませんが」
考えたくないけど良い方向に持っていこう。
もうなんでもいい、プラスに考えよう。
そう、ため息を吐きつつもポジティブに考えるんだ。
「結局、サイハテには特に何もなかったようだな」
「ええ、念の為結界をいつもより強めに張り直しましたが、杞憂だったようで」
いつもの魔法攻撃の時間はとうに過ぎた。
もしかしたら今日は来ないのかもしれない。
そう思った瞬間だった。
いつもより大きな衝撃が魔王城全体に走った。
微かにビリビリと電流の音も聞こえる。
氷と炎、いつもの二倍の魔法が結界を打ち抜き、新しく建設していた研究所と新兵器になるはずだった大砲をピンポイントで爆破したのだ。
魔王と宰相は慌ててバルコニーに出た。
ぱん、と空に花が咲いた。
大砲の周り、誤爆した際に被害が広まらないよう仕掛けていた反射の魔法が効いたのか、火薬が空に飛び散ったのだ。
一面に広がる花はまるで魔王の座についた時のパレードの花火のようだった。
「なんという事………」
魔王と宰相は呆然とその美しい光景をただただ見つめていた。
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