第8話 村人たちは思っていたよりも心配いらないようです
シータとシルディールがサイハテ村へ到着すると、入り口でヴィラとディナ、エルダの居場所を伝えられた。
村長が村に着いた際に色々と指示しており、指示を仰がれた村人達もヴィラが子供達だけでエルダと鉢合わせないよう色々と工夫をしてくれていたようだ。
シータは無駄にこういう小細工うまいんだよな、と少しこの村人達のスピーディな対応に仲間であってよかったと思った。
父に荷物は任せてヴィラを迎えに行った。
ヴィラは泣いていたようだが、心無しかすっきりとした表情を浮かべていた。
「無事だったか」
「うん、おじちゃん達がすごく良くしてくれたよ」
にっこりと笑顔を向けてくる。
ヴィラが母から逃げて、こんなに笑顔なのは珍しい。
村人たちは子供をすごい可愛がってくれるから、母が暇を持て余している時は社会見学と称して彼らに預けるのも良いかもしれない。
「これからどうする?村長さんはもう家についているし、父さんは荷物片付けに行ったけどすぐ合流できるだろうし多分もう大丈夫だと思うけど。エリーの家に向かうか、夕飯まで家で待つかどっちがいい」
正直エリーの事が心配なので、向かいたい。
でも村長さんが帰ってきてるから大丈夫だと思うし、ヴィラの気持ちも大切だ。
「うーん、エリーお姉ちゃんの家に行くよ。村長さんにお礼がしたいし、逃げてばかりじゃダメだよね」
______
「それでさ、ダーリンとは領主の取り巻きたちを捨てに行った時に出会ったんだよね」
「シルディールさんとですか?」
その頃、エリーとエルダは他の村人たちの様々な心配を他所に、和やかに会話をしていた。
「そうそう、行った帰りについでに村の周りで魔物討伐していたら盛大に血を浴びちゃってさ、湖で水浴びしようと行ったらダーリンが歌っていたんだ」
「どっちの歌ですか?」
どっちの歌。
シルディールの能力である歌は感情によって2種類に分類される。
楽しい時や嬉しい時は最高にとても美しい歌。
逆に悲しい時や苦しい時の歌は、酷く魔物から植物まであらゆる生き物たちの生命を奪ってしまう。
ふふっとエルダは笑った。
先程までの豪快な笑顔と打って変わって穏やかで美しい表情にこれは惚れてしまうのはわかる、とエリーは心の中で頷く。
「酷い方だったよ。森で迷い込んで、途方に暮れて歌っていたら耐性のある私と出会ったってわけだ」
「それはすごい、運命ですね」
シルディールも無駄に歩き回って生命を脅かしたくはない。
せめて村の人間がたまたま気がついてくれたら、と必死だっただろう。
「それで、ちょうどよかったからそのまま歌っていてくれと水浴びをし始めたらダーリンは顔を真っ赤にしながら慌て出して、歌をやめてしまったんだ」
魔物が集まってきてしまったからそこからはずぶ濡れのまま村へ帰ったんだけどね。
とエルダはケラケラ笑った。
「今までもそうだったから、もう関わることはないだろうと思ってたんだけど。次の日にダーリンにあなたのように強くなりたい、って言われてそこから魔物討伐する時は一緒に行くようになったんだ」
男性陣と一緒に狩りをするエルダは強すぎて女としては見てもらえないし、どちらかというと仲間であり、村長とも幼馴染ではあるものの恋心というものは一切芽生えなかった。
「女扱いしてくれるなんて初めてだったし、向こうから一緒に居たいなんて言われてさ。嬉しかったよ。プロポーズもダーリンからだったし」
きゃーっとエリーは叫んだ。
「プロポーズ!詳しく!聞かせてくださ「エリー!無事か!?」
詳細を、とエリーが乗り出した瞬間「バン」と扉が開いて村長が部屋の中に飛び込んできた。
「お父さん、おかえり。でもごめんちょっと話終わるまで待ってて」「村長、邪魔だ。空気を読め」
「は?」
一瞬目を丸くしたかと思えば、女性陣に会話を邪魔されたという不機嫌そうな視線を向けられる村長。
そして部屋を追い出された。
昔からよく知っているエルダ。
エリーの母親とは仲が良く、それに対しては全く心配なんてしていなかった。
それは妻に何かがあっても彼女自身に治す力があるという安心感があったからだ。
エルダは基本誰彼構わず私が鍛えてあげよう、という謎のポリシーがある。
だからこそ、何かしでかさないか心配で村長である私の娘をエルダから遠ざけてきた。
いつものようにエルダはその辺で魔物狩りでもしていると思っていたのだ。
まさか村まで帰っているなんて思わなかった。
ああ、出会ってしまった。
エリーの悲鳴を聞いて慌てて飛び込んだというのに。
「何故だ……」
村長は会話に花を咲かせている部屋を背に、絞り出すように声を発した。
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