第7話 村人の少年は頑張る決意をしたようです

「エリーお姉ちゃんの家は、村長さんの家だから隠れるには危険が多すぎるかも」


村長の護衛でディナの母親は村の外に出ていたのだから一緒に帰って村長の家までくる可能性は高い。

ヴィラ少年は考察する。

どこへ行っても迷惑になってしまうし、村の外に出てしまうとそれこそ大事になってしまう。


逃げ場が、ない。


うーんと唸っているとディナがあれは何かしら、と空き地の方を指をさした。

おじさんたちが木を大量に持って運んでいる。


「ねーおじさんたち何してるのー?」

「ちょっと早いけど、これは慰霊祭用のキャンプファイヤーに使える木材がどのくらいあるか確認しているんだよ」


キャンプファイヤーの!とディナは納得しているようだった。


「きゃんぷふぁいやーって何?」


ヴィラは首を傾げる。

ディナより物知りのつもりが、知らない事があったということに少しばかりムッとする。


「去年はヴィラは引きこもってたもんね。木をいっぱい組んで大きくて青い炎がね、ボーって燃えて、その周りで踊るの!」

「炎が青いの?」


「村長さんが作る魔法の炎だからね、青いんだよ」


おじさんたちがニコニコしながら話し出す。


「昔魔王が攻めてきた時に、今の村長さんが青い炎を降らせて撃退した。だから毎年魔除けとして青い炎を囲んでお祝いするんだ」


彼らは知っている。

本来魔王ではなく領主を撃退した。そして青い炎は元いた領主たちへの牽制。

大人になった時に真実を知るであろうが、王都からの使者を撃退したということが漏れたら困る為用意された、子供向けの説明だった。


「そういえば知ってるかい?お前さんの両親、もう帰ってきているそうだよ」

「「え?」」


明るい声と暗い声が重なる。


「明日じゃなかったの!?おじさん、お母さんどこにいるのか知ってる?ヴィラ、早く行こ!」

「ああ、ヴィラくんにはちょっと頼み事があるから残ってもらっても良いかな、エルダさんは村長さんの家にいるそうだよ。行っておいで」


興奮しているディナがヴィラを連れてさっさと行ってしまわないよう引き留めてくれたようだ。

ディナを見送るとおじさんたちはヴィラとは距離を取りつつも笑いかけた。


「ごめんね、実は特に用事はないんだ。さっき村長さんから伝達があってね、ヴィラくんを保護してくれって言われてたから」

「ありがとうございます」


深々と頭を下げると、おじさん達はテントを指さしてお菓子とかもあるし、シルさんとこが帰ってくるまでここらでゆっくりしていていいぞとも言われた。

その優しさにヴィラは少し泣きそうになった。

とても助かる。それが一時的な平和だったとしても。


大人しく座ってぼんやりと設計図らしき紙を眺めていると、休憩に入ったのかおじさん達が話しかけてきた。


「今年はヴィラくんも慰霊祭に参加するといい。村長さんの魔法の青い炎、すごいから」

「でも僕は」


ヴィラは言い淀んだ。

人が多い所にいて大丈夫なのだろうか。

何も準備を手伝うこともできない、見ていることしかできない。

自分が持っているこの力が、また人を傷つけたら。


「サイハテの人間はそこまでやわじゃないよ」

「何かあったら村長さんかエリーに直して貰えばいいし」


死にかけるのはちょっと痛いけどな、はっはっはと笑うおじさん達。

笑い飛ばしてくれるのはありがたいけど、死にかけるのは大丈夫じゃないよね?


「それにこの木材、君が作ったものもあるんだよ」

「僕が?」


そんな事をした覚えが全くないのだけど。


「この前村の外で剣術稽古していただろ?その時に倒れた木をエリーが加工したんだ」


あの時の。稽古が終わった後、周りがスッキリしていてびっくりしたけどエリーお姉ちゃんがなんとかしてくれていたんだ。


「君の能力が木材を集める為の一手間なくしていたんだ」

「そうそう、力ってもんは使いようだからな」


シータは威圧で周りにいたやつ全員突然失神して仕事にならなかったりしたけど、耐性も強いしいざとなったら役に立つし、イダーテは今でこそ能力を発揮して仕事熱心に働いているが、子供の頃すぐ見失ってしょっちゅう捜索をしまくったし。

お前さんは本当聞き分けが良くて全然優しいしおとなしすぎて心配になるくらいだ、と。


うんうん、としみじみとおじさん達が頷く。


「ぶっちゃけこうやって距離を取らないといけないのもおじちゃん達さみしいんだわ。できるだけ早く能力制御できるようになったら、頭を撫でて褒めさせてくれよ」

「大きくなるまで時間かかってもさ、一緒に仕事してうまいもん食べような」

「一緒に狩りできるといいな!お前さんの能力は絶対役に立つぞ」


そりゃいい、とあたたかい笑い声に包まれる。

ヴィラは沢山の嬉しい提案に思わず泣いてしまった。


いつか、そうなりたい。

この村の人たちは本当に優しい人が沢山いる。

おろおろしだしたおじさん達に笑顔で言った。


「うん、僕頑張るよ」

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