第6話 村人は魔王より魔王らしいようです
村が半壊したのが、父とエルダさんの仕業?
「ああ、今は祭りをしたり普段は子供の遊ぶ場所になっている所があるだろう?」
「ありますね、私はあまり行ったことないですが」
あそこは村長の家から反対側にあって遠い。
シータも私と遊ぶ事が多かったのであまり行ったことはないだろう。
ヴィラやディナもあそこには近づかない。
比較的普通の子達が遊ぶ場になっていて、力が強い子は相手に怪我をさせてしまうからだ。
とはいえ、行きたいとも思わないようだが。
「あそこは本来悪徳領主の邸宅があった場所だ。その周りには領主の取り巻きの家があってな」
「領主なんていたんですね?」
「王都から派遣された役人みたいなものだ。サイハテの人間ではない」
サイハテの村では王都からたどり着いた人間は魔素に耐えることのできる勇者である為、その者たちへの支援を惜しまない事、と教え込まれている。
最初は皆彼らを歓迎していた。毎日宴をひらいて。
でも村で一番大きい邸宅に住み着き、だんだんと調子に乗りはじめ上納金だとか言って取り立てまでし始めた。
「でもそんな頻繁に王都に行き来できないのでは?」
「僅かながら転移魔法があって、使える魔術師がいたんだ。確か今は学院の教授をやっているらしいが」
ああ、そういえばサイハテの名前を聞いた瞬間授業をボイコットした先生がいたな。
もしかしてその先生かもしれない。
「そんでまあ、村の不満は貯まってたけど手は出せなかった。だけどその領主の息子がな、村一番の美人を妾にするとか言って連れ去ろうとしたんだ」
村一番の美人。
誰だろう、と首を傾げる。
「あんたの母親、エミアの事だよ」
「母が……」
中々会わない母の顔を思い出す。
美人とか、良くわからないが確かに顔立ちは整っていた。
「私はエミアとは幼馴染で友人だったからね、ムカついてこっそり領主の息子をボコボコにしてしまったんだ」
そしたら村長が領主とその取り巻き諸々を引きずりながらやってきて、私たちがやった事がバレたら王都からの支援が途絶えてしまう。
「だったら魔王の仕業にしてしまおう」
そう言って彼は杖を振った。
一瞬だった。
邸宅とその周辺の取り巻き達が住んでいた家にピンポイントで魔法の青色の火の雨が降り注ぎ、一斉に燃えた。
火の海に慌てる事なく、サイハテの村人たちはその様子に喜び、歌い踊った。
その姿はまるでキャンプファイヤーを囲んでいるかのようだった。
「本当は村長一人で静かに片付けるつもりだったけど、私もやっちまったから村(領主邸・その他取り巻きの家)に魔王の襲撃にあったというシナリオが生まれたというわけさ」
〜魔王城にて〜
「魔王様、嘆きの谷からの情報が入ったようです」
正直サイハテ関連は何を聞いても怖いから前置きとかいいからはやく話して欲しい。
いや、本当はききたくない。本当にききたくない。
「村長と呼ばれる男が、夫婦と思わしき男女を引きつれ嘆きの谷の調査?を行っていたとの事です」
調査という言葉に疑問符がついていることが少し引っ掛かるが、まだ大丈夫そうだ。
「そのうちの村長からシル、女の村人からダーリンと呼ばれている男を縄でぐるぐる巻きにして谷底に落としていた」
What?
「そこから嘆きの谷底から声が聴こえるようになり、録音機能がそこで大破したとの事です」
とりあえず最後まで聞こう。
「かろうじて映像は残っていたのですが……鳥や魔物が嘆きの声に撃ち落とされる中で村長と、途中で村へと帰って行きましたが、女の村人は非常に元気というか、豪快に笑っている様子が映っていました」
浮気でもした夫に拷問か何かをしていたのだろうか。
怖いなサイハテ。
「数時間後、以前子供の剣術の際にいた青年が合流し、谷底から中年の男性を村長が釣り上げる映像が。その際嘆きの声も止んだそうで、嘆きの声は中年男性の影響だったと考えられます」
あの時の青年。もしかして村のストッパー役だったりするのだろうか。
それならば青年に魔術師エリーの攻撃を止めてもらうよう頼んだりできないだろうか。
「村長と呼ばれる男が村へと急ぐように帰って行きましたが、残された二人は片付けを始めたそうで調査はそこで終了したようです」
「サイハテ村に何か起きたのだろうか」
「その可能性が高いかと」
その出来事が魔王城に飛び火しないと良いのだが。
それにしても、最近は縄にカメラをつけて調査する機材というものが出回っているはずだが、調査にバンジージャンプは必要だったのだろうか。
わからない。
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