第5話 その他の村人はバンジー中だそうです
バンジー。
自分の夫をバンジーさせて放置した挙句忘れてそのままここに来たというのか。
「……迎えに行ってくる」
死んだ目をしながらふらりとシータは席を立つ。
「私も行こうか」
エリーも杖を持って行こうとしたが、シータに止められた。
「いや、慣れてるから一人で大丈夫だ。母さんの話し相手になって待っていてくれ」
もう時既に遅し。出会ってしまったものは仕方がない。
エリーなら上手くやってくれるだろう。
エルダの信者にはならないで欲しいがどうなるかはわからない。その時はその時だ。
シータはささっとエルダ在中と書いたメモを持って外に出た。
玄関にでも貼っておけば最悪かちあうことはないだろう。
村長がいるから大丈夫だとは思うが、一応急がねば。
ストッパー役(父親)が亡霊量産機になってしまう。
シータを見送った後、エリーは考えた。
さて、私はここでエルダさんを引き留めてヴィラをまもらなければならないようだ。
何を聞いて時間を稼ごうか。
「……エルダさんは私の両親の若い頃のことをよくご存じなんですよね。どんな感じだったんですか?」
「そうだなぁ、変わらないかな。村長はすぐに楽をしたがる。昔、サイハテが半壊したって話聞いた事あるだろ?」
先代魔王が王都へと侵略するため、足掛かりにサイハテを襲ったという事件。
「あれは、実を言うと魔王は全く関係ない。ぶっちゃけ村長と私の所為だ」
エルダが胸を張って言った。
「ん?」
〜嘆きの谷にて〜
嘆きの谷。
そこは亡霊の嘆く声がすると言われている。
「エルダ〜エルダが〜帰ってこない〜♪ 僕は〜置いてけぼり〜ただの〜おっさんシルディ〜ル〜ふふふんふん♪」
だが、正しくは亡霊になってしまうような酷い歌がきこえる谷である。
悲壮な歌声は植物を萎びさせ、あらゆる生物の生気を失わせる。
その谷をグレーの髪色の紳士が恐れもせず覗いて呼びかけた。
「シル、お前の息子がもうすぐ来るみたいだ」
「あーよかった、君は調査が終わるまで魔物避けしながら待ってろとか言うし、このまま6時間耐久レースかと思ったよ」
歌を止め、ロープ一本で吊られているシルディールは涙を流しながら指を組んだ。
しばらくするとシータが息を切らしながら駆け寄ってきた。
「村長さん!父は」
何かに気を取られているのか無反応だったのでシータは村長の肩を軽く叩いた。
「……?すまない、何か言ったか」
耳栓をしているのだろう、シータは耳を指さしジェスチャーをして伝えた。
ああ、と村長はやっと耳栓を外した。
「父はどこに」
「シルならまだぶら下がっている、下見は終わったから引き上げる」
村長が崖の淵に立ちヒュンッと杖を振ると、まるで一本釣りのようにシルディールが出てきた。
着地はさすがに繊細に下ろしてくれたが、シルディールの足はおぼつかない様子だった。
「シータ、助かった、ありがとう、シータ、お前は本当によく出来た息子だ」
「確かに誰に似たのか全くわからないくらい良くできた子だ」
父親のシルディールが肩を掴んで号泣する。
村長は真顔なので心から褒められているのかわからないが、とりあえずお礼は言った。
「あの、そういえば急がないと大変な事になるかもしれないのでオレは先に戻ります」
「大変な事?」
エルダが今村長の家に来ていて、エリーが世間話で引き留めている事を伝えるとシルディールはもちろんの事、微かに村長の顔色も青くなった。
「急がねば。私が先に行く、シータとシルは荷物を持ってヴィラを保護しなさい。その後でエルダを回収しに来なさい」
テキパキと指示を仰ぎ、村長は板切れの上に乗ったかと思えば地面を滑り出すように村へと向かって行った。
「村長が行くなら大丈夫かな、早いとこ片付けてヴィラくんを迎えに行こう」
結界の中にある荷馬車にシルディールが最後の荷物を載せるとシータは載せ忘れがないか確認した。
王都で購入したのか、荷車の中にはロープに括り付けて人が入れない場所でも写真で撮って調べることができる機材もあった。
下見するために父親のバンジーは必要だったのだろうか。
わからない、と思ったが口には出さないシータだった。
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