第36話 突然のダンジョン戦
モニターに映し出された映像を、俺とメリアは食い入るように見つめていた。
ダンジョンの地下3階に突如として現れた侵入者たち。小さなゴーレムのような存在と、その周りを飛び回る妖精のような姿が映っている。
「これなんだろう」
「うーん、よくわからないね」
俺も同じように首を捻った。
モンスターにしては小さすぎるし、冒険者という感じでもない。それに、ダンジョンの中に直接現れたというのも不思議だ。
まさか誰かが自分のモンスターを送り込んできたのだろうか。
その時、ダンジョンコアから声が響いた。
『ダンジョン戦を申し込まれました』
突然コアから声が響く。
「えっ? 今の声、コア?」
「イエス。コアレベルが7になりましたので、自動応答機能が解放されました」
メリアが目を丸くする。
「レイ! コアが喋ったよ!」
「そうみたいだね。これは便利そうだ」
確かに便利そうだけど、それよりも気になることがあった。
「ところで、結局ダンジョン戦ってなんなの?」
『育てたダンジョン同士を使って戦わせるものです』
コアの声が続く。
『ダンジョンマスター本人は参加できず、コアに登録されたモンスターやマップ、罠などを使って争います』
「えっと、つまり……」
「相手のダンジョンマスターが攻めてきたってこと?」
『その通りです。相手はダンジョンを通じて、このダンジョンのコアを奪おうとしています』
なるほど。ダンジョンを侵略して、コアを奪い取ろうとしてるってことか。
でもマスター同士が直接戦うわけじゃなくて、配置したモンスターたちで戦うんだ。
ちょっと変わってるな。
「相手のコアを占領した方が勝ちになるの?」
『その通りです。相手のダンジョンに侵入し、コアまで到達して占領することが勝利条件となります。コアを占領された場合、ダンジョンの支配権が相手に移動します』
俺は思わず息を飲んだ。
つまり、負けたらダンジョンを全部取られちゃうってこと? 今まで一生懸命作ってきたのに……そんなの絶対イヤだ。
だけどメリアは違うようだった。
「面白そう! アタシも参加していい?」
『申し訳ありません。ダンジョン戦に直接参加できるのは、コアに登録されたモンスターのみとなります』
「えー、つまんない」
メリアが頬を膨らませる。
確かに残念だけど、まあ、メリアが危ない目にあうのは俺も嫌だしね。
でもメリアが突拍子もないことを言ってくれたおかげで、少し冷静になれた。
まずは状況を把握しよう。
「それで、どうやって戦えばいいの?」
『通常通り、コアルームからモンスターたちに指示を出すことができます。また、罠の設置や地形の変更なども可能です』
なるほど。
つまりゲームでいうところの、リアルタイムストラテジーってところかな。
懐かしいな。前世でそういうゲームもよくやっていたっけ。
まさか自分が実際に現実でプレイすることになるとは思わなかったけど。
「レイ、大丈夫?」
「うん。なんだか楽しくなってきたよ」
モニターには、着々と進軍してくる敵の姿が映っている。
とりあえず3階につながる階段を一時的に封鎖することにした。
コアに魔力を流し込むと、階段が石の壁に閉ざされていく。
今は3階に到達している冒険者はいないけど、もしかしたらこれから来るかもしれないし、巻き込むわけにはいかないからね。
そのとき、ふと気になることがあった。
「ダンジョン戦の場合、外から来た冒険者はどうなるの?」
『ダンジョンに呼び込んだ冒険者もダンジョンの一部としてみなされます』
コアの声が響く。
『ダンジョンの通路を相手のダンジョンに繋げて侵略することも可能です』
「えっ、そんなことまでできるの?」
なるほど、冒険者を巻き込んで戦力として使うこともできるということか。
確かにそれなら戦力は増えるだろうけど、冒険者たちの命を賭けさせるようなことはしたくない。
それに、ここに来る冒険者たちを危険に晒すようなマネは、ダンジョンマスターとしての誇りが許さない。
まずはモニターで侵入してきた敵を詳しく確認しよう。
侵入してきた小さなゴーレムたちは、全身が岩で出来ているようだ。
その周りを飛び回る妖精たちは、スコップやツルハシを手に持っている。図鑑で見た土妖精に間違いない。
世界観が統一されていて面白い。
確かにダンジョンを作るなら、こういった採掘系のモンスターも必要だよな。
「コア、敵の詳細がわかる?」
『了解しました。分析を開始します』
モニターに詳細な情報が表示されていく。
『確認:作業用ゴーレム
耐久力:中
魔力:低
特性:岩石製の作業用ゴーレム。採掘作業に特化』
『確認:下級土妖精
耐久力:低
魔力:中
特性:採掘、精錬作業の補助を得意とする。空中浮遊能力あり』
「へぇ、こんな詳しく分析できるんだ」
モニターには敵の詳細なステータスまで映し出されている。コアレベルが上がってから、できることが随分と増えたようだ。
「よし、まずはゴブリンの長老に連絡を入れよう」
モニターを居住区に繋ぐと、長老の姿が映し出された。
「なんでございましょう、ハイエルフ様」
「実は他のダンジョンから攻められてるみたいなんだ。戦いを手伝ってもらえないかな」
そう話をすると、長老の目が輝きを増した。
「なんと、ダンジョン戦でございますか! これはこれは、待ち望んでいた時がついに!」
「えっ、待ち望んでた?」
「ハイエルフ様のダンジョンで戦えるとあらば、我らゴブリン族にとってこれ以上の名誉はございません。全軍、直ちに出陣の準備を!」
長老の声に応えて、ゴブリンたちが次々と集まってくる。
普段の訓練通り、4匹一組のチームに分かれていく。
まだほとんど何も言ってないのに、あっという間に準備が整っていった。
なんだろう。ダンジョン戦ってよくあるものなのかな。
「えっと、とりあえずゲートを3階に繋ぐね。準備はいいかな?」
「はっ! いつでも参りましょう!」
ゲートを開くと、ゴブリンたちは整然と隊列を組んで進軍していく。いつもの冒険者相手の演技じゃない、本気の戦いの表情だ。
見送りながら、スライムたちの配置も変えることにする。
といっても、俺のスライムやゴーレムは移動が遅すぎて、相手への侵攻部隊には向いていない。
そこで、コアの防衛を任せることにした。
ちょうど俺たちの目の前にスライムが現れた。プルプルと震える様子がいつもより少しだけ勇ましい、気がする。気のせいかもしれないけど。
「接敵しました!」
モニターに映る光景に目を移す。
3階の通路で両軍がぶつかり合った。
「突撃ー!」
「ごぶごぶっ!」
長老の号令一つで、ゴブリンたちの連携が始まる。
前衛が盾で相手の攻撃を受け止める中、後衛が一斉に弓を撃つ。ミニゴーレムの堅い体も、魔力を帯びた武器の前では次々に砕け散っていった。
土妖精たちはスコップを振り回して反撃を試みていたけど、さすがに日々の訓練で鍛えられたゴブリンたちの動きの方が上回っていた。
剣と盾を巧みに使い分け、一匹また一匹と倒していく。
けどさすがにゴブリンたちも無傷とはいかない。一部が傷を負い始めた。
すぐに後方から交代要員を送り込まれ、傷を負ったゴブリンは後方に下がっていく。
ダンジョン内なら傷の回復も早いけど、万全の状態で戦わせたほうがいいからね。
「思ったよりうまくいってるな」
モニターを見ていたけど問題なさそうだった。ゴブリンたちって意外と強いのかもしれないな。
侵入してきた敵を追い返すと、今度はこちらが敵のダンジョン内へと侵入をはじめた。
ゲートを抜けた先に広がっていたのは、鉱山のような空間だった。
ツルハシで掘り進めたような荒々しい壁面。
天井には等間隔でランタンが吊るされ、オレンジ色の灯りが坑道を照らしている。
その光が岩肌に反射して、ちょっと薄暗い独特の雰囲気を作り出していた。
「さすが採掘系モンスターのダンジョンだ」
今までずっと石で舗装されたきれいなダンジョンを作ってきたけど、こういう荒々しいのも、それはそれでダンジョン感があっていいよね。
他のダンジョンを見るのも勉強になるなあ。
そんなことを思いながら、コアのモニターでゴブリンたちの進軍を見守る。
長老の指揮の下、慎重に通路を進んでいく。時折現れる敵の残存部隊を掃討しながら、着実に奥へと向かっていった。
そうしてついに、相手のコアルームへとたどり着く。
空中に浮かぶコアの前には、ひとりの男性が立ちはだかっていた。
「ふん。この儂様のゴーレムどもが、まさかゴブリンごときにやられるとはな」
ずいぶんと偉そうな声が洞窟の室内に響き渡る。
声の主はがっしりとした体格の男だった。
身長は6才の子供である俺と同じくらいなのに、長い髭を蓄え、巨大なつるはしを背負っている。
鉱山の親方のような貫禄のある姿のドワーフが、仁王立ちで俺たちを待っていた。
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