第35話 想定外の事態
今日もメリアがスライムと遊んでいる。
というか、練習台にしているといった方が正確かもしれない。
「おーい、スライムちゃん。今日も練習するよ!」
「プルプル……」
「あれ、怖がらなくていいのに。アタシはレイのお姉ちゃんなんだから、ちゃんと面倒見てあげるの!」
スライムが小刻みに震えている。
メリアは練習場で大火力の魔法を撃ち込んだり、身体強化の魔法でスライムのポヨンポヨンした体を叩いて遊んでいる。
「ほら、今度は火球よ! えいっ!」
「プルルル……」
「あはは、全然効いてないみたいね! じゃあもっと強い魔法で行くよ!」
メリアの練習に耐えられるよう、スライムの魔法耐性は上げてある。
その代わり移動速度は遅くなったけど、まあスライムはもともと遅いし問題ないだろう。
攻撃速度は変えてないから、戦力としても十分機能するはずだ。
面白いことに、スライム同士で経験は共有されるみたいで、メリアとの特訓のおかげで他のスライム全体の耐久力や攻撃性能も向上してきている。
普通のスライムよりは強くなってるかもしれないな。
まあ、それでも所詮はスライムだけど。
「次は全力で行くよ! どっかーん!!」
「プルルルルル……!」
スライムの悲鳴のような震えが、コアルームにいる俺のところにまで聞こえていた。
ゴブリンたちも、ダンジョンに込められた魔力の影響を受けているようだ。
居住区にある草原では、いくつかのグループに分かれて模擬戦が行われている。
「ごぶっ!」
「ごぶごぶっ!」
長老が指揮を取り、100匹近いゴブリンたちを効率よく動かしている。
チームごとの連携戦や、フォーメーション訓練など、まるで本物の軍隊のような動きだ。
「おかげさまで、皆の実力はかなり向上しております」
長老が誇らしげに髭をなでながら説明してくれた。
「ダンジョンの魔力のおかげで、以前とは比べものにならないほど強くなりました。これなら他の冒険者どもにも簡単には負けませんぞ」
草原では、ゴブリンたちが息の合った連携で攻撃を繰り出している。確かに最初に会った時とは比べ物にならないほど動きが洗練されていた。
これなら冒険者たちも簡単にはゴブリンを倒せないだろう。歯ごたえのあるバトルが体験できるはずだ。
ゴブリンたちの手には、魔力を帯びた武器が光っている。
以前俺が作った剣や槍だ。
最初は宝箱用の武器として作っていたんだけど、出来栄えがイマイチで悩んでいた時、長老が使わせてほしいと申し出てきたんだ。
まあ捨てるのももったいなかったからね。練習のついでに、いくつか作ったんだ。
「ハイエルフ様が製作された装備を、我らにお譲りいただけるとは」
素人が作った武器だから、せいぜい棍棒よりは強い程度のものだと思う。
それでもゴブリンたちはやけに感激していた。
「この武器のおかげで、我らの戦力も大きく向上いたしました」
長老は誇らしげに部下たちの訓練を見つめている。
確かに魔力を帯びた武器を使いこなす姿は、最初に会った時とは比べ物にならないほど様になっていた。
ゴブリンたちは今でもその時の武器を大切に使っている。
ちょっと大袈裟な気もするけど、まあ悪い気はしない。
むしろこんなに大切に扱ってもらえるなら、もっと良いものを作ってあげたいという気持ちも湧いてくるくらいだった。
あれからコアレベルは7まで上がった。
冒険者たちが日々訪れてくれるおかげで、経験値は順調に溜まっている。
モニターに映る数値を見ながら、これからの展開を考える。
まずは新しいモンスターの追加だ。
長老の提案通り、コボルトを仲間に加えられれば、夜間の戦力として期待できる。
昼と夜でモンスターが入れ替わるシステムは、ゲーム的に考えても面白そうだ。
アイテムの方も改良が必要だ。
今はまだポーションが中心だけど、もっと特徴的なアイテムがあってもいい。
武器も作ってはいるけど、まだまだ納得いく出来栄えではない。
「レイってば、また考え事?」
メリアの声に顔を上げる。スライムとの一方的な特訓を終えたらしい。
「うん。もっといいダンジョンにしたいから」
「すっごく楽しそうだもんね」
そうだ。このダンジョン作りは本当に楽しい。
だからこそ、もっともっと良いものにしていきたい。
コアレベルが上がった分、容量も増えたできることも増えているはずだ。
これならダンジョンの拡張もやりやすくなるはずだ。
どんな風に広げていこうか、頭の中でプランを練り始める。
その時だった。
ピピピピッ──!
突如としてコアから鋭い警報音が響き渡る。
侵入者を示す警報だ。
最初は冒険者でも入ってきたのかと思ったけど、違う。今更そんな程度で警報が鳴るわけがない。
急いでモニターを確認すると、目を疑う光景が広がっていた。
ダンジョンの3階に、大量の赤い点が突如として出現している。
まるで空間を裂いて直接現れたかのように、それらはダンジョンの中に広がっていった。
「これは……」
何かが想定外の事態が起きようとしていた。
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