第32話 モンスターは魔力で成長する

新しく作ったダンジョンは、予想以上の反響があった。

入り口を作ってコアの部屋に戻ると、モニターにはもう最初の冒険者の姿が映っていたんだ。

正直、こんなにすぐに見つかるとは思っていなかった。


森にあるダンジョンは今も誰も来ないのに。やっぱり何事も入り口って大事なんだな……。

最初に来た冒険者たちは、入り口から少し進んでスライムと戦っただけで帰っていった。

どうやら下見だったみたいだ。


それからは面白いように人が集まってきた。

朝には鎧をびかびかに磨いた若い冒険者たち、昼過ぎには経験豊富そうな風格のある冒険者、夕方には商人らしき一団。

モニターを見ているだけでも、色々な人たちの姿が映し出される。


色々な人がダンジョンに入ってくるたびに、コアに経験値が溜まっていく。

ダンジョンらしくなってきた感じがするな。


今のところダンジョンは地下5階まで拡張してある。

コアの容量にはまだ余裕があって、もっと広げることもできるんだけど、いったんここで様子を見ることにした。

冒険者たちがどんな風にダンジョンを攻略していくのか、それを見てから発展させていきたいんだ。


ダンジョンの内容は、比較的シンプルに作ってある。

1階層につき、一時間もあれば踏破できる程度の広さで、各階に報酬の宝箱をいくつか置いただけ。難しい仕掛けもない。

今の目的はダンジョンの経験値を得ることだからな。なるべく多くの冒険者に気軽に入ってもらえるようにしたんだ。


いわゆる初心者向けのダンジョンって感じかな。

でもまだ地下2階より先には進んでいないみたいだった。

ゴブリンたちの話では、冒険者との戦いにも慣れてきたらしい。


初心者向けだし、これくらいの難易度がちょうどいいのかもしれない。

ダンジョンは危険すぎても、簡単すぎても駄目だ。

今の難易度なら、適度な緊張感と達成感が味わえるはず。それに、もっと腕に自信のある冒険者が来た時のために、下の階も用意してある。


ダンジョンの運営を始めてから、思わぬ課題も見えてきた。一番の悩みは宝箱の補充だ。

最初のうちは新鮮で楽しかった。自分で作ったポーションを宝箱に入れて、冒険者が見つけた時の反応を想像するだけでワクワクした。

でも毎日となると、これが意外と大変な作業になってくる。


ポーションを作って、誰にも見つからないように補充しに行く。

タイミングも難しい。すぐに補充すると不自然だし、冒険者に姿を見られるわけにもいかない。

色々と考えた末、今は週に一度補充することにしている。


最初は毎日補充していたんだけど、そうするとある問題が起きた。

一番入り口に近い宝箱だけを毎日回収して帰る冒険者が現れたんだ。

せっかく奥まで探索してほしいのに、それじゃあ困ってしまう。


1階には宝箱を置かずに、2階以降にだけ配置するっていう案も考えた。

でも、それは違う気がしたんだ。

ここは初心者向けのダンジョンなんだから、冒険者になりたての人たちにも、ちゃんと報酬を用意してあげたい。

単純に宝箱を減らすのは、やっぱり優しくない気がした。


宝箱を自動で補充してくれる機能がないか魔導書を調べてみた。

残念ながら、そういった機能はもう少し高レベルにならないと使えないらしい。


ダンジョン自体の生成や維持はコアが自動でやってくれる。

川を作れば水が流れ続けるし、木を植えれば勝手に育っていく。

でも、運営の仕方や中身のシステムは、全部自分でやらないといけないみたいだ。


まあ、それも悪くないか。

それぞれのダンジョンマスターが工夫を凝らして、自分なりの特色を作っていく。

そう考えると、この手間のかかる部分にこそ、面白さがありそうだ。


ダンジョンが大きくなるにつれて、ゴブリンたちの数も増えてきた。

長老さんの伝手を借りて、他の集落からもゴブリンたちが移住してきてくれたんだ。

今では三つの集落から、合わせて100匹ほどのゴブリンが住んでいる。


それに合わせて居住エリアも広くした。

丘や渓谷を作り、川を流し、森を育てる。

おかげでコアの容量はもうだいぶ減ってきた。

前世でゲームを作っていた時も、容量との戦いだったけど、現実のダンジョンでも同じなんだな。


「おかげさまで随分広い集落になりました」


長老が穏やかな笑みを浮かべながら話しかけてきた。

その姿を見て少し驚く。

最初に会った時より確実に体格が逞しくなっている。

どう見てもおじいちゃんなのに若返ったみたいだ。


「ほっほっほ。我らモンスターは魔力で成長いたします。ハイエルフ様のダンジョンに込められた魔力のおかげで、我らもさらに成長をしているのですよ」


そう言われて、改めて周りを見渡してみる。

確かに、新しく来たゴブリンたちに比べて、最初からいた長老たちのグループは一回り大きい。体つきも立ち振る舞いもどこか違う気がした。

ダンジョンと一緒にモンスターも成長していく。この不思議な光景を見ていると、まだまだ知らないことがたくさんありそうだ。



ゴブリンたちの居住区を出て、コアエリアに戻ってきた。

モンスターの召喚といえば簡単そうだけど、実はそうでもない。

モンスターを深く理解していないとうまく召喚できないんだ。


だから自分の部屋には、スライムを1匹飼っている。

毎日餌をあげたり、一緒に遊んだりしながら、スライムの性質を観察しているんだ。

スライムは不思議な生き物で、体の形を自由に変えたり、小さな物体を取り込んで、その性質を自分に反映することもできるらしい。

一緒に過ごすうちにそんな特徴がよく分かってきた。


面白いのは、俺の魔力から生まれたスライムは全部経験を共有しているみたいなことだ。

何匹作っても、まるで同じ個体のような感覚を持っている。ダンジョンのスライムも、部屋で飼っているスライムも、全部が一つの意識を共有しているみたいなんだ。


部屋のスライムは俺によく懐いていて、いつもプルプルと嬉しそうに体を震わせる。

でも、メリアが来ると途端に隅っこに逃げ込んでしまう。

まあ、メリアの「遊び」というのが、たいてい魔法や身体強化の練習台にすることだから、怯えるのも無理はない。

スライムの気持ちが分かるようになったぶん、その恐怖もよく伝わってくるようになってきた。


スライムには、冒険者を殺さないよう特別な制限をかけてある。

相手が弱い場合は、武器や防具だけを狙って、本人は傷つけないようにしているんだ。

強い相手の場合のみ、自分の身を守るための攻撃を許可している。


スライムというと初級モンスターだと思ってたんだけど、意外と手こずる冒険者も多いみたいだからね。

なので初心者の人には優しく、でも中級者でも楽しめるような調整をした。


あと、冒険者が去る時には手を振る機能も付けた。

スライムが自分の体を伸ばして手を振るんだ。

フレンドリーで可愛いでしょ。見ようによっては尻尾みたいに見えるし、ゆらゆらさせる様子がとてもかわいいんだ。個人的にとても気に入っている。


宝箱の中には、メリアの作った例の「犬」のぬいぐるみも入れてある。

たくさんついている触手は指だと主張していたあれだ。

実用的なアイテムだけじゃなく、こういうユーモアのある品物があってもいいと思うんだ。


「喜んでくれるといいなー」


メリアは自分の作品が宝箱に入ることになって、すごく楽しみにしていた。

形は少し不思議だけど、一生懸命作ったぬいぐるみには温かみがある。

きっと冒険の途中で見つけた時、疲れた冒険者たちの心が少しほっこりするんじゃないだろうか。


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