第26話 ダンジョンのレベルアップ

俺のダンジョンに来た初めての冒険者は、意外にも子供だった。

コアの部屋のモニターから二人の様子を見ていると、どうやらスライムとの戦いにかなり苦戦しているみたいだ。

あの子たちは俺と同じくらいの年齢に見える。てことは5才だもんな。

むしろそんなに幼いのにたったの二人でダンジョンに来たことのほうが驚きだ。


でも、よく考えたらスライムの方にも問題があったな。

召喚はしただけで、これといった命令も与えていなかった。

だから攻撃パターンも、ただ触手を相手に向かって伸ばすだけで、その場から動くこともない。

単純なものになってしまったんだ。


もうちょっと色々な動きができたほうが、バトルも楽しくなったよなあ。


呼び出したスライムに、もっと細かい指示を出せるようにしないと。これは改善が必要だ。

それでも、あの子たちとはかなりいい勝負をしてたんじゃないかな。

特に男の子は最後まで諦めずに戦ってた。

剣を振るう姿を見てると、なんだか応援したくなってきて、ちょっとほほえましいくらいだった。


その後、子供たちは苦戦しながらも、最後の仕掛けとして配置したミミックを見事に見抜いて、なかなかの戦いを繰り広げた末に見事倒した。


報酬のポーションは少し心配だったけど……。

こんなしょぼい報酬でいいのかなと思ったけれど、子供たちは戦いで疲れ切った体を癒すようにそれを飲んでいた。

結果的にちょうどよかったみたいで安心する。


帰り道、スライムは自動復活していたけれど、疲れ切った子供たちの姿を見て、急いで別の場所に転移させた。

せっかくクリアしたのに帰り道で倒されたら可哀想だからな。

出口から出ていくところを見届けて、俺は満足のため息をついた。


「次はもっと楽しめるダンジョンにしてあげないとな」


俺はメモを取りながら、早速改良点を考え始めた。

このダンジョンにも、まだまだ改善の余地はありそうだ。

回復エリアとか、休憩場所とか、そういうのも作らないとな。

前世のゲームみたいにセーブポイントがあれば便利だけど、実際のダンジョンでのセーブって難しい。

死んだら復活してやり直すなんて、それこそ神の領域なのではないだろうか。


ダンジョン自体は3階しかなく、あっさりと終わってしまったはずなのに、胸の中に何とも言えない温かい気持ちが広がっていた。


自分の作ったダンジョンに、実際の冒険者がやってきて、そしてクリアしていく。

この感覚は初めてで、言葉では表現できない楽しさがあった。

前世で開発していたゲームも、ちゃんとリリースまでこぎつけていたら、きっとこんな気持ちだったに違いない。


最初のゲーム開発には5年かかった。そして今の俺もちょうど5歳。不思議な巡り合わせだ。

でも今回は違う。これからも開発を続けることができる。

もっと広く、もっと面白く、どんどんダンジョンを拡張していけるんだ。そう思うと元から高かったモチベーションがさらにあふれてきた。


一緒にモニターを見ていたメリアが、ちょっと意外そうにつぶやいた。


「あんなミミックにも苦戦するなんて、人間って弱いのかな」

「まだ子供だったしね」

「アタシ達も子供だよ」

「メリアは普通よりも強いんじゃないかな」

「それもそうだね。だってアタシお姉ちゃんだし!」


事前にテストした時のことを思い出す。

あの時のミミックは、メリアに片手で受け止められて、一撃で叩きのめされてしまった。

だから弱すぎるんじゃないかと心配していたけれど、人間の子供相手にはちょうどいい相手だったみたいだ。

スライムにも苦戦していた様子を見ると、まだ駆け出しの冒険者といったところなんだろう。


やる気が出てきた。

さっそく4階以降も作っていこう――そう思った瞬間、コアが異常を知らせてきた。

モニターには見慣れない魔法文字が次々と浮かび上がる。


魔法文字の勉強をしていて良かった。

一文字ずつ丁寧に解読していく。

さらにダンジョン魔法の魔導書も確認してみると、どうやらこれはコア容量の限界を示すエラーらしいと分かった。


ダンジョンコアにも限界があるということか。まあ練習用だと考えれば当然なのかもしれない。

そう思っていたら、魔導書の別のページにコアのレベルアップについての記述を見つけた。

ただ、よく分からない要素が多い。

こういう時は焦らず、まずはしっかりと魔導書を確認するのが得策だろう。

前世でプログラムのエラーに直面した時も、同じように一つずつ解決していったことを思い出す。


魔導書を読み進めていくうちに、いくつかの重要なことが分かってきた。


まず、ダンジョンコアには魔力容量という概念があった。

コアに注ぎ込んだ魔力で、様々なことができる仕組みになっている。

通常なら10階くらいまでは作れるはずだったけど、俺の場合、パネルを作ったり部屋を改造したりと、ダンジョン以外のところにも魔力を使っていたから、ダンジョンに割り当てられる容量が足りなくなってしまったみたいだ。


そしてもう一つ、重要な発見があった。

ダンジョンコアには成長する機能があるんだ。

容量を増やすにはコアレベルを上げる必要があるらしい。


ただし、レベルアップには魔力が必要らしいんだけど、自分の魔力ではダメで、冒険者の魔力を集める必要があるらしい。

冒険者がダンジョンに入ったり、モンスターと戦ったりすることで、その分の魔力がコアに流れ込んでくるという仕組みだ。


魔導書には、冒険者が死亡した時にも大量の魔力を得られると書かれていたけれど、それは違うなと感じた。

そんな方法でレベルを上げたくはない。俺が作りたいのは、冒険者が楽しめるダンジョンなのだから。


これはまるでゲームのレベルシステムみたいだ。

ダンジョンコアの経験値システムと考えれば、とても分かりやすい。

冒険者が楽しんでくれれば、自然とコアも成長していく。

そう考えるとなんだかワクワクしてくる。


魔導書を読み進めるうちに、ダンジョン運営の全体像が見えてきた。

ダンジョンを作って冒険者たちを呼び、そこで得られた経験値を貯める。

一定以上の経験値が溜まると、コアをレベルアップできるという仕組みだ。


前世でプレイしていたゲームにも似たシステムがあった。

人を集めてレベルアップし、さらに多くの人を集める。

この基本的な循環でダンジョンは成長していくようだ。


レベルアップの恩恵も魅力的だった。

容量が増えることで階層を増やしたり、モンスターの数を増やしたりできる。

さらに、レベルごとに特典として新しい機能が追加されるらしい。

レベル2では特に目立った特典はないものの、レベル5には気になる特典が用意されているようだ。


母さんが言っていた通り、魔導書が全100巻もあるのも納得できる。

まだまだ知らない要素がたくさんあるに違いない。ダンジョン制作の奥深さを改めて実感した。


とりあえず、魔導書の指示に従ってコアに意識を集中させる。

溜まっていた経験値を解放すると、コアが淡い光を放ち始めた。


「わぁ、光ってる」

「これがレベルアップなのかな」


部屋全体が柔らかな輝きに包まれ、そして静かに消えていった。


「できた。コアレベル2になったよ」

「へえ、これで何が変わるの?」

「魔力の容量が増えたみたい。10階まで作れるようになるはずだよ」


コアレベル2になった瞬間、魔力の容量が確かに増えているのを感じていた。

早速、新しい階層の設計に取り掛かっていこう。

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